ただ君の笑顔が見たくて
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「これはどうだい?君の好きなイチゴもたくさん乗っているよ」
「は、はい。美味しそうですね」
「それよりこっちは?人気NO.1で、見た目も可愛いし」
「ホントだ。お花みたいで可愛い」
「珈琲はダメだったね。だったら「紅茶なら、この茶葉がオススメかな」
「…僕の台詞を取らないでもらえるかな」
「んー悪いけど、花音ちゃんのことなら俺のほうがよく知ってるからさ」
「君より僕の方がわかっている」
「「………」」
えーと…只今、お洒落なカフェの一角で赤羽さんとマルコくんに挟まれ、身動きが取れない状態になっています。どちらか逆の席に行くとか、私が向こうの席へっていう選択肢はないらしい。二人用のソファーに無理矢理三人座ってるから、すごく近いし。だ、誰か助けてください…!
「大体、僕が花音と会う約束をしていたんだ。ここは譲るべきだろう」
「でも先に神龍寺のビデオ貸す、って約束してたのは俺だし?」
「フー…勘付いていたが、君とは音楽性が合わないな」
「俺も同意見だね。ロックよりクラシック派だから」
「そもそも、音楽性の捉え方が間違っている」
「じゃあなんだよ音楽性って!そういう意味じゃないのかっちゅう話だよ!」
確かに今日は、赤羽さんと会う約束をしていた。練習試合することは伏せて、神龍寺のビデオを参考に借りたいとお願いしたからだ。でも、待ち合わせ場所へ行く前に、マルコくんがビデオを届けに来てくれた。もし私が家にいなかったらどうする気だったんだろう…と少し呆れてしまったけど、お花付きのサプライズは嬉しかった。
その後、二人きりで会うことを知ると、「俺も行っていい?」と笑顔でエスコートしつつ着いて来た。知り合いじゃないどころか、こんなに険悪な仲だなんて思いもしなかったけど…
「てか、女の子と二人きりで会うなんて、下心丸出し過ぎ。かァ~やだやだ。エロイエロイ」
「好意を抱いている分、下心が一切ないとは言わないが…可愛い花音に手を出さない方がおかしいと思わないか」
「まぁね。ぶっちゃけ筧とかが異常。部屋まで入って何もせず送って帰るって、今時ないって。どんだけーっちゅう話だよ」
「ああ。彼氏のフリまでしている美味しいポジションの割に、何の進展もないとは…僕としては、チャンスが増えて嬉しいけどね」
「さっきから何を言ってるんですか。そもそも、なんで色々知ってるんですか!」
「「それはちょっと言えないな」」
…仲が悪いけど似た者同士というか、プライベートなことまで知られているのが怖い。若干疲れきっていると、ようやく注文したケーキが届いた。そして二人同時にフォークを取り、一口サイズにすくったそれを、迷わず私の方へ向けた。
「花音、口を開けてごらん。僕が食べさせてあげるよ」
「おいおい、何してんのさ。ほら花音ちゃん、こっちから食べて」
「え、あっ、自分で!」
「「あーん」」
「あ、あーんっ」
仕方ないから、頑張って大口を開けて二つ同時に食べた。美味しいけど、なんか恥ずかしい。人にするのと自分がするのは違うんだな。赤くなりつつもぐもぐ口を動かすと、赤羽さんは少しだけ微笑み、マルコくんはニコニコしながら私を見つめていた。
「あ~もう可愛いなー!マジでこの子猫ちゃん飼いたい!」
「彼女は僕の天使だ。勝手に連れていくのはやめろ」
「ぶはっ!天使とか!どんな言い回しだよそれ!」
「花音は地上に舞い降りた天使のように美しいだろう」
「ま、真顔で!気持ちはわかるけど、腹痛ぇ…!!」
「でもマルコくんのいう子猫ちゃんも、ちょっと恥ずかしいと思うけどな」
「だって子猫ちゃんっしょ。イメージ的には真っ白で華奢な子猫かな」
「子猫でも愛らしいだろうが、やはり天使に一番近「まだいってるよ!」
マルコくんはツボに入ったのか、肩を震わせて笑いを堪えていた。その隙にとばかりに私にケーキを与え続ける赤羽さんも赤羽さんだけど。結構、世話焼きさんなのかな。それこそ子猫にでもなった気分だ。
「あ、ありがとうございます。ご馳走様でした」
「ねぇ、花音ちゃん。何処か行きたいところない?俺も連れ添うよ」
「待て。この後は「俺はライブハウスじゃなくて、もっと女の子らしい場所でも喜んで付き合うからさ」
「………」
「ライブハウスに行く予定だったんですか…?」
行ったことがないからわからないけど、きっとロック系がメインだよね。少し怖いイメージがあるし、私は落ち着いた曲やポップで聞きやすい曲のほうが好きだから。申し訳ないけど、それならマルコくんの提案のほうが有難いかな。
「んー…ロマンチックにプラネタリウムでもいいけどね」
「映画はどうだい?邦画でも洋画でも、なんでもいいよ」
「植物園なんかもいいね。花音ちゃんって花の前には霞むだろうけど」
「海も好きだろう。波の音もまた美しく素敵だ。花音の柔らかく美しい声には敵わないが」
「次々と凄い台詞を…あと、一般的なデート場所ばかりなんですけど」
「「俺(僕)はデートのつもりだけどね」」
おかしいな。一応ビデオを借りるだけのお話だったのに。赤羽さんは残念ながらもう試合はないけど、マルコくんはこれから忙しいんじゃないのかな。ぼんやり考えながら紅茶を飲んでいると、視線のやや上のほうでバチバチと火花が散っていた。
「さっきから邪魔ばかりするな。君はもう帰ったらどうだ」
「わざわざ都内まで来て、ここで帰るとかないって。最後までエスコートしなきゃ意味ないっちゅう話だよ」
「女性への対応の良さは褒めたいところだが、花音のこととなれば話は別だ」
「男には力。女には愛…花音ちゃんの愛を巡って、男なら男らしく今すぐ勝負付けとく?」
「…面白い」
「面白くないですからね!!やめてくださいね!!」
なんでみんな、喧嘩ばっかりするんだろう。一体何度このデジャヴを味わったことか。必死に止めてる間に、更に私のお茶代は俺が出すと揉め始めるし。自分で出すと言っても「女性にお金を出させる訳にはいかない!」と、強引ながらも紳士的過ぎて何も言えなくなる。
結局、ケーキ代は赤羽さん。紅茶代はマルコくん、ってことで落ち着いたらしい。ありがとうございます。ご馳走様でした。
「「さぁ、可愛いレディ。お手をどうぞ」」
「へっ!?えええっと…!」
「ま・た・か・よ!でも、俺は絶対に女の子に車道側歩かせたくないから、こっち貰うよ」
「仕方ないな。なら僕は、こちらで構わないよ」
お店を出た後、有無を言わせずに両手を塞がれた。両手に花って、こういうことを言うんだろうな。派手なビジュアル系に囲まれると周りの視線も痛くて、かなり居心地が悪いけど…
「んー巨深周辺は何処の店も高いな~…高いといえば、学校も観光スポットかと思うくらいの長さだったよね」
「うん。校舎は240mくらいあるんだよ」
「盤戸からもよく見えるよ。花音が通っていると思うと、校舎を見るだけで嬉しくなるね」
「え、あ、ありがとうございますっ」
「…なかなか手強いな。去年の東京MVP様は」
「フー…彼女への愛の差じゃないのか?」
「俺はいつも、花音ちゃんを思い浮かべながら花束選んでるけど?」
「それなら僕は「すみません。そろそろ恥ずかしい台詞は勘弁してください…」
さっきから口説き文句のフルコースで、聞いているだけで恥ずかしくなる。りっくんやキッドさんとはまた違った大人っぽさというか、色気を漂わせるというか…とにかく恥ずかしい。また真っ赤になっているであろう私を見て、2人はおかしそうに笑った。
「そんな照れ屋なお姫様は、何処に行きたいのかな?」
「何処と言われても、迷惑じゃないかな」
「遠慮しなくていいよ。たまには自分に素直になって甘えてごらん」
「そうそう。女の子はもっとワガママいっていいの。それを叶えるのが男の役目だからね」
「いいなら、前から行きたかったところがあるんですけど…」
*****
「―…ね、これ何?イカ?」
「多分、スルメじゃないかな」
「これは、ラムネかい?」
「唇に当ててフーってやると、音がするみたいですよ」
「ピー!…本当だ。これはある意味、音楽性に合うかもしれないな」
「お、美味い!マダム、本当に20円で食っちゃっていいの?店破産しないの?」
「やだわぁ、マダムだなんて。それが駄菓子屋ってものよ」
そう。私が行きたかったのは、駄菓子屋さんだった。どれもスーパーのお菓子よりも手軽に買えるし、たくさん種類があって見ているだけで楽しい。二人は初めてのようで、興味津々で見て回っていた。
「あっま!コーラ味って嘘だろこれ!炭酸抜けたらコーラじゃねぇっての!」
「成程。サイコロ状の箱の中にキャラメルが入っているのか。これはまるでタバコのようなラムネ…」
「しかし、こんなに派手なお客さん達は初めてだわ。どっちがお譲ちゃんの彼氏?」
「いえ、2人共お友達ですよ」
お金持ちそうだと思っていたけど、私より庶民感覚がないらしい。文句をいったり考察しつつ色々買っては試し、気に入ったら大人買いという行為を繰り返していた。
それでも絶対に片手は空けたいようで、一番大きい袋にぎゅうぎゅうに詰めてもらっていた。そんな大人げない二人は、後々酷く項垂れていた。
「ちゅーか、俺らが楽しんでどうすんだよ!!」
「…すまない。君にもお裾分けするよ」
「いえ、家にお菓子はたくさんありますから大丈夫ですよ」
「俺としたことが、可愛い子猫ちゃんを放って楽しむとか…!」
「花音と二人きりになれるチャンスを、自分から逃すとは…」
「そ、そんなに凹まないでくださいね」
申し訳なさもありつつ、好意はとても嬉しかった。意外に子供っぽいところもあるんだな、って新しい発見も出来たし。奢ってもらわなくても、特別な場所じゃなくても、こうして一緒に楽しめただけで十分幸せだった。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「こちらこそ、邪魔はあったけど楽しかったよ」
「右に同じく、かな」
「「でも今度は二人で「また三人でお出掛けしたいですね!」
「フー…それが君の望みだというのなら」
「どんな願いでも叶えますよ」
最後まで紳士的で、素敵な時間が過ごせた。最近はずっと練習試合の緊張感でいっぱいだったから、こんな風に楽しむ余裕なんてなかった。もしかしたら、気を遣ってくれたのかな。だとしたら、お礼はもちろんだけど…あとで、謝らなくちゃいけないな。
「花束の何十倍も可憐で可愛い花音ちゃんの笑顔が見られて、ホ・ン・ト都内まで来た甲斐があったよ」
「花音と一緒に過ごせるだけで、平凡な休日がとても素晴らしい日になったな。今日の思いを曲にすると…」
「…気を遣うというか、これが素なのかもしれないけど」
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あとがき→
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