小判鮫くんの妹の場合。
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「愛先輩」
「えっ、あ、筧くん?」
「もうテープないんで、買っておいて貰えますか」
「わ、わわわかりました!」
「…だからいい加減、俺に敬語使わなくていいっすよ」
「は、はい。すみません…」
「………」
えっと、初めまして。小判鮫愛です。私の兄はアメフト部の主将をしていて、たまにお手伝いに来ます。本来マネージャーの摩季ちゃんのお休みが多いから、その代理としてが多いです。あの子も根は悪い子じゃないってわかってるけど、せめて学校には毎日来てほしいな。
「お兄ちゃん。テーピング用のテープなくなったから買ってくるね」
「おお。んじゃ、部費を出すから待ってろよー」
「ンハッ!おつかいなら俺も行きたい!」
「待て。これからポジション練習があんだろ」
「だってさー!愛ちゃん小さいし一人じゃ危ないし、心配じゃーん!」
「確かにドジもするし小さいけど、先輩だぞ。信じてやれ」
「水町!筧ー!愛が気にしてることを言うなって!」
「「あ、すみません」」
「…大丈夫です」
そう。私はこれでも、筧くん達より1つ年上です。でも身長が低くて145cmしかないのが悩みで、ラインやラインバッカーの人達を見るたびに首が痛くてとても辛い。更にちゃん付けされるし、扱いもかなり雑にみえるけど…文句は言えないのです。本人達には言えないけど、見た目や雰囲気が怖いし。
「筧先生!!今日こそ俺を一番弟子に!!」
「いいえ!!僕を一番弟子にしてください!!」
「ひゃああ!?」
「お前ら、愛先輩がいるの忘れんな」
「「い、いつからいたんですか!?」」
「最初からいました!!」
筧くんや水町くんも大きいけど、更に大きいのがこの大平くんと大西くん。驚くことに、一番高い大平くんと私の身長差は60cm。1年生は特に背が高いせいもあって、後輩にもつい敬語を使ってしまう。
…といっても元々ビビりだから、よっぽど仲が良くないと普通に喋れないんだけど。
「だ、大丈夫だよな?本当に大丈夫だよな?」
「2回も聞かないで!大丈夫だよ!」
「場所はキミドリスポーツだぞ。今、地図を書いてやるから!」
「何回か行ったことあるから!先輩達もそんな顔しないでください!」
「「「「とりあえず、迷子になったら連絡しろよー!」」」」
「な、なりませんー!」
前々から思っていたけど先輩や同学年だけじゃなく、後輩にも舐められてるみたいだ。水町くんとか、大平くんと大西くん…筧くんも、かな。こうなったら早く帰って先輩らしいところを見せつけないと!なんとかバンガー!…が、頑張ります!
*****
「はぁ…はぁ…あったー!!」
どうですか!私もやれば出来ますよ!って先輩達に自慢したいけど、道を間違えて大分遠回りになってしまった。でもなんとか無事に、キミドリスポーツさんに到着出来た。テープもすぐに買えたし、練習が終わる前に急いで帰ろう。
「んで、この巨深ってのがチビばっかでさー」
「マジ?雑魚ばっかじゃん。“きょしん”とかいいながら、名前負け乙~」
「…!」
柄の悪そうな人達が、アメフト部コーナーに溜まりながらウチの悪口をいっていた。背が高い1年メンバーは公式戦まで隠しているから、今は先輩達で頑張ってるけど…そんな言い方しなくてもいいと思う。チビだから雑魚とか、そういう結びつけはおかしい。でも、ここは抑えよう。私が文句をいったところで、どうにもならないだろうし。
「何よりここの主将がほんっと役立たずでよ~」
「逃げの小判鮫だったか?雑魚のくせに調子乗ってんだよなー」
プチっと、何かがキレる音がした。お兄ちゃんが役立たずって、どういうこと?確かに弱気で頼りないところはあるけど、誰より選手思いで優しい人だ。それは妹の私がよく知ってる。あれだけ個性的なメンバーを一生懸命まとめている、お兄ちゃんの悪口をいうなんて…っ!
「すみません」
「あ?なんだよ。デコっぱちのおチビちゃんよぉ」
「撤回してください」
「「は?」」
「お兄ちゃんをバカにしないでください!!」
体が勝手に動いていた。こんな大柄な人達に勝てるはずがない。そんなのわかりきってる。それでも口に出しちゃう癖とか、お兄ちゃんに似て困る。それにおでこも身長が低いのも気にしてるのに、この人達は本当に失礼極まりない。
…なんて呑気に考えてる場合じゃないんだけど!こ、怖いよー!私一体、何やらかしちゃってるのー!?
「お兄ちゃんがなんだって?」
「まさかコイツ、小判鮫の妹?ぎゃはは!ブラコンってやつ?」
「巨深なんて、どーせ初戦敗退で終わるぜ」
「そんなことないです!巨深は貴方達なんかより、ずっとずーっと強いです!」
「「ああ゛!?」」
「ひいいい!!」
勢いで行動するんじゃなかった。下手したらここで、女の子なんて関係なしに殴られて、病院送りになっちゃうかも。せめて今日のドラマの最終回が見たかったな…なんて現実逃避しながら、ぎゅっと目を瞑った。
…けど、何も起こらない。恐る恐る目を開けると、筧くんが彼らを押さえていた。
「か、けい…くん?」
「ウチの先輩に何してんだ」
「ぐっ!びくともしねぇ!」
「なんだコイツ!すげー力だぞ!?」
「確か裏原宿ボーダーズ、だったか。先輩の言葉が嘘じゃねぇって、俺らが証明してやる」
「「の、望むところだ!」」
「愛先輩、もういいっすよ。帰りましょう」
「う、うん」
まだ混乱したままお店を出た途端、私は腰が抜けてしゃがみこんでしまった。なんでこう、何から何まで格好悪いんだろう。
でも、そんな様子を見ても呆れることなく、筧くんは私の前にしゃがんでくれた。おんぶしてくれる、ってこと?オロオロしてたら「早くしてください」って促されたから、お言葉に甘えることにした。
「あの、ごめんね。頼りない先輩で」
「そんなのわかりきってました」
「た、たたた確かにそうだけど!」
「冗談です。俺は嬉しかったっすよ。愛先輩が俺達を庇ってくれたこと」
「でも、なんとかしてくれたのは筧くんだし。私は何もしてないよ」
「先輩の勇気のお蔭です。それに、やっと敬語取ってくれたし」
「え!?あ、そういえば!ごめんなさ「戻したらここで降ろします」
「…うん」
それからしばらく、筧くんは黙って歩いてくれた。優しいんだな。もっと怖い人だと思ってた。瞳が青く冷たく見えて、その奥で役立たずだなぁとか思われてるのかなって。私の勘違いだったんだ。良かった。本当に…
「先輩…愛先輩?」
「すー…」
「…ヤバイな。これじゃ携帯出せねぇ。小判鮫先輩に連絡し忘れた」
いつの間にか寝てしまって、目が覚めるとお兄ちゃんが半泣きで私を抱き締めてきた。筧くんはどうやら、私があんまり遅いから派遣されたらしい。遅いといっても30分くらいだったんだけど、彼には申し訳ないことをしてしまった。あと、お兄ちゃん達にも。
「って、何この着信件数!いくら家族割があるとはいえ、こんな電話掛けなくてもいいよ!」
「でも愛は、昔から迷うだろー!?わかんなかったらこの兄ちゃ…チャンニイを頼れよー!」
「どっちかというと、お兄ちゃんより筧くんのほうが頼りになるような…」
「や、やっぱお前も筧達のほうがいいのかー!!ヨイワーな俺じゃ頼りないのかーー!!」
「そこまで言ってないよー!!」
お兄ちゃんが筧くん達に劣等感を抱いているのは知っている。現にえーと、強い…ヨイツーだった訳だし。でも私だけじゃなく1年生達も、お兄ちゃんのことを頼りにしてるんだって、わかってほしいな。
ちなみに、数日後に本当に裏原宿と練習試合をすることになったんだけど…
「愛先輩に手を出しそうだったのは、あの2人だ」
「ンハッ!んじゃ、俺の相手だな!フルぼっこ決定ー!」
「みんな!筧から聞いたと思うけど、妹の愛があいつらに手ぇ出されそうだったって話だ!!1点も渡すなよ!!」
「「「「「「はい!!」」」」」」
「俺も全部パス通すから!!タイカーヨイツーなポセイドン魂でぶっ潰そう!!」
「珍しくすごく強気だ…!」
宣言通り、試合は42-0で圧勝した。仕切っているお兄ちゃんは、こんなに真剣なのは初めて見たんじゃないかってくらい、かなり凛々しい。思わずベンチで正座しながら見守っていたくらいだ。
そっか…私の兄は、あんなに格好良かったんだ。
「お兄ちゃん、お疲れ様」
「はぁ…はぁ…うん。ありがとな」
「あのね、お兄ちゃんは筧くんや水町くん達より背が低いし、頼りないかもしれないけど…私にとっては、自慢のお兄ちゃんだからね」
「え!?じ、自慢の!?俺が自慢のチャンニイ!?」
「うん!すごくカッコ良かったよ!」
「よ、よーし!このまま全国狙わないとな!目指せ全国制覇ー!」
「お、おー!」
「…なんで小判鮫先輩だけイイトコ取り?俺らは?」
「まぁ、いいんじゃないか。先輩もやる気みたいだし」
後輩と並ぶと「本当に先輩なの?」と突っ込まれる私たち小判鮫兄妹ですが、巨深ポセイドンが好きな気持ちだけは誰にも負けません!筧くんみたいに堂々と全国制覇…なんていってみちゃったりします!
「やっぱ愛は、このおでこがワイカーだぞ~!」
「それ気にしてるのにー!お兄ちゃんのバカバカかば~~!」
「なんだかんだ癒し担当の兄妹だよな」
「愛ちゃんって、小動物みたいで可愛いもんなー!」
「そんなにちっちゃくないよ!もう、いい加減怒るよ!」
「「「「(可愛いな…)」」」」
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あとがきと簡単な設定について→
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