筧くんの姉の場合。
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「愛」
「ん…」
「こんなところで寝ると風邪引くぞ」
「あ、駿…おかえり」
「ただいま」
そういって大きなカバンを降ろし、私の向かいの席へ座った。高1のくせに190cmを超えていて、アメフト部に所属してる。小学生の時から既に170cmはあって、とっくに身長超されて随分上を見上げることになってるけど、3つ下の私の弟だ。アメフトをやってるから体格もがっちりしてるし、出掛けるとしょっちゅう兄妹に間違われる。
…っていうか愛って呼び捨てにしてる時点で、姉と思われているかも微妙なんだけど。
「やば、もう23時過ぎじゃない」
「愛、腹減った」
「もう、自分でやりなさいよ」
「あー…甘えたい年頃なんだよ」
「駿の口からそんな言葉が…明日雨かなーやだー」
「おい」
でも頼ってくれるのは嬉しいし、しょうがないから頑張ってる弟のためにちゃんとお姉ちゃんしてあげる。おかずを温め直してご飯をよそって渡すと、きちんといただきますをして、綺麗にご飯を食べ始めた。女の私顔負けで、ホントに何をするにも丁寧な子だ。
「この肉じゃが、愛が作ったのか?」
「うん。よくわかったね」
「味が違うからな」
「どう?美味しい?」
「ん。美味い」
「ふふ、良かった」
口数は少ないけど、ちゃんと全部食べてくれるのが駿のいいところ。それを片付けていると、目を合わせないようにしていたのに座っている駿と立っている私とじゃ、いつもより距離が近くなるわけで。ふいに、視線が合ってしまった。
「…泣いたのか?」
「あーうん。ちょっとね」
「ドラマか映画か、振られた…とか」
「そ、そうなの!いい映画があってね!もう号泣だよ~」
「…後者か」
ホントに、察しが良くて困る。駿の眉間のしわが強くなり、顔がいつも以上に怖い。もーカッコイイ顔が台無しじゃん、と笑って誤魔化そうとしたら、駿の大きな手が私の腕を掴んだ。手加減はしてるようだけど、普通に痛い。明らかに…怒ってる。
「誰だよ。なんでだよ」
「いや、お前目ぇ怖いしないわ~って。玉砕でした」
駿ほど目の彫りが深いわけじゃないけど、私も少しアイラインが濃いし、特徴がある。瞳の色は、駿の透き通ったような海の色と違って、深海のように濁った蒼色。あまり綺麗な色じゃないし、この瞳の奥で何考えてるかわからないから怖いっていわれる。もう、慣れたけど。
「愛の目は綺麗だ」
「…駿とは違うから」
「俺は、好きだ」
駿は優しいから、いつもこういってくれる。こんな目が好きだって。きっと家族だからそういってくれるんだろうけど、綺麗だっていうのは駿くらいだ。
「愛は、海の深いとこ潜ったことあるか?」
「え?ないけど」
「すげー綺麗なんだ。愛の目にそっくりで」
「…駿の目のほうが、綺麗じゃない」
「俺は愛の方がいい」
目が合うたびに嫉妬するのがバカバカしくなるくらい、駿はストレートだ。
というか、この子は私を好きすぎやしないだろうか。確かに昔はお姉ちゃんってくっついて可愛かったけど既に大きかったし、小学校高学年くらいから急に大人びて可愛げなくなったなぁ…なんてぼんやり考えながら時計を見ると、とっくに日付が変わっていた。ああ、いけない!平日なのに夜更かしなんて!
「ほら、もういいから寝なさい。明日も早いんでしょ」
「…また泣かないだろうな」
「優しい弟のお蔭で元気出たよ」
半分ホント。半分は空元気。そんなすぐ復活できるほど私はタフじゃない。少し不服そうだったけど、駿は渋々といった感じでおやすみ、といって部屋を出た。
私は駿が使った食器を洗って、もう一度戸締りを確認した。すると、何故か消したはずの台所に光が灯っている。おかしいなぁと思ってそっと覗くと、巨体がうろうろしていた。もうとっくに寝たと思っていた弟だ。
「…駿?」
「愛、これ」
「うん?」
「目、腫れるだろ。ちゃんと冷やして寝ろよ」
どうやらタオルを冷やしてくれたらしい。駿の優しさが嬉しくてありがとう、とお礼を言うと、少しだけ口元を緩めて笑った。いつもクールだけど、この子は笑うと結構可愛い。
「明日も部活頑張ってね。おやすみ」
「ん…おやすみ」
部屋に戻って、用意してくれたタオルを乗せてみた。ひんやりして気持ちがいい。駿のお蔭で、もう涙が出ることはなかった。
翌日、講義を終えて帰る頃、私を振った彼が泣きながら謝罪しに来た。一体どうしたのか聞いてみると、朝一で「愛の悪口を言った挙句、傷付けたのはお前か」と強烈な威圧感を放ちながら、大柄な男性に押さえつけられたらしい。…うん。これは間違いなく駿だろう。
別にもういいよ、っていっても泣くのをやめない彼。なんでこんな人を好きになったのか、今となっては謎だ。それにお前の目は綺麗だって必死にいわれても、何にもときめかないことに気付いた。
「愛の目は綺麗だ」
駿みたいに真っ直ぐな目で、綺麗だ。好きだ。っていってくれないとダメなのかな。でも19年生きてきて、そんな人は駿しかいなかった。こんなんじゃいつまで経っても恋なんて出来ない。
「ちょっと駿ー!話があるんですけど!」
「…愛を傷つけるから悪い」
「もう!どんだけ私のこと好きなのよ!」
「アメフト並みに好きだ」
「…!」
目付きが悪いのは生まれつき。背は小学生の時に抜かされた。同じく怖い、とよくいわれますが、姉思いで優しい自慢の弟です。そんな弟がいるので、当分彼はいいかなーと思ってしまいます。
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