9.初銭湯
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あー疲れたー!銭湯行きてぇなー!」
「久々に行きたいよなー」
「…せん、とう?」
戦闘?先頭?銭湯…でいいのかな。じゃなきゃ変だよね。部誌を書きながら先輩達の話を不思議そうに聞いていると、健悟くんが上着を脱ぎながら驚いた声を上げた。あーもう脱がなくていいから!恥ずかしいから!
「えー!?花音ちゃん銭湯知らねーの!?」
「なんとなくしかわからないの。行ったことなくて。あと服着てほしいな」
「ちぇ~暑ぃのになー」
「まぁ、簡単に言えばでかい風呂みたいなもんだな。運動部はよく利用してる」
「そうなんだ」
「行きましょうよー!小判鮫先輩!」
「そうだなーたまにはいいか!うん!切り上げて行こう!」
「「「「「おー!」」」」」
「はい。皆さんいってらっしゃい」
「「「「「えっ」」」」」
「え?」
小さく手を振っていると、何故か全員に驚いた顔をされた。あれ、なんでだろう?私まできょとんとしていると、健悟くんがぐいっと前に出てきた。
「いや、花音ちゃんも入れるよ?女湯あるし。なんで留守番係??」
「だって私、そんなにお金持ってないし」
「とりあえず500円あれば大丈夫だ。タオルとかも普通に借りられるし」
「そ、そうなの!?」
「…お前頭良いくせに、微妙に一般知識足りねぇんだよな」
「そんな言い方しなくたってー!」
「いや、ワイカーじゃん!ワイカーな範囲じゃん、ね!」
「流石小判鮫先輩!意地悪なしゅ…筧くんとは大違いです!」
「誰が意地悪だ」
「とにかくー!さっさと準備していこーぜー!」
ああ、いけない。先輩達の前で駿くんって言いそうになっちゃった。気をつけなきゃ。
でも、みんな銭湯セットみたいなものがあるんだ。借りられるっていってたけど、私も今度から用意してこよう。そう思いながら外でみんなを待っていると、駿くんが部誌で軽く私を叩いてきた。うう…そんなに痛くはないけど、怒ってる?何か間違ってたのかな?
「部誌に絵描くなよ。何気に上手いし」
「小判鮫先輩が可愛いからいいよ、っていってくれたよ?」
「あーそうそう、ゆるかわ~かわゆる~みたいなね!俺的には全然アリだよー」
「癒されるもんなー花音ちゃんの絵。つーか、花音ちゃんに」
「先輩らマジでコイツに甘すぎる…」
「駿くんは今度から、ペンギンさんにしてあげるね」
「おいやめろ」
私はいつも簡単に似顔絵を描いて、人の名前と顔を覚えている。ポジションも番号よりイラスト付きの方が覚えやすいから。それを小判鮫先輩がすごく褒めてくれたから、時間がある時はたまに描いていた。駿くんはどっちかというと呆れてるだけみたいだし、やめなくてもいいのかな?
そして、全員揃ったところで一緒についていくと、すぐに健康温泉センターの文字が見えた。へーここが銭湯かぁ…
「やたー!久々の銭湯ー!」
「おい、走るな水町」
「そうだ!恥ずかしい目に遭うのは僕達だぞ!」
「やめろぉおお水町ー!」
「3人とも、他のお客さんもいるんだから公共の場で騒ぐと迷惑だよ」
「「「すみませんでした」」」
「はぁ…花音、助かった」
「どういたしまして」
「えーと、花音ちゃん。あそこの受付のおばあちゃんにお金出して、タオルとか貸りてくるといいよ!」
「はい。ありがとうございます。お先に失礼します」
女湯のほうは、まだ誰もいないみたいだ。私はおばあちゃんの説明の通り、脱いだ衣服を籠の中に入れた。その他の必要品も閉まって、扉を開けると…
「わー!大きいお風呂ー!」
実際に入るのは初めてでわくわくしちゃう。早速、体を洗ってからお湯の中に入ってみた。まるで貸し切りしてるみたいだ。修学旅行は個室でシャワーだけだったから、こういうお風呂に入るのは初めてだった。本当に泳げるくらい広いかも。泳ぐ、といえば…
「水町選手~いっちゃくごーーるっ!!」
「銭湯で泳ぐのは、ごばっ!水町くん!!」
「やめろみずっ、ごぼぼっ!」
「水町!!」
予想通り健悟くんが泳いでるみたいで、思わず笑ってしまった。お風呂って、こんなに騒がしいんだ。いつもりっくんと交代で入って、考え事しながらぼんやり入ることが多いからわからないや。
「…あら?花音ちゃん?」
「やだ花音ちゃ~ん!最近会えないから寂しかったわよ!」
「乙姫先輩!浦島先輩!それに、チア部の先輩方!」
「ふふ、花音ちゃんもいるなんて珍しいわね」
「はい。アメフト部のみんなと来たんです」
「やだ!なら、あっちに大平くんもいるのね!」
「(…!?何か悪寒が…!!)」
比較的静かだったけど、チア部の先輩達も増えてこっちも騒がしくなってきた。それにしても皆さん発育がいいというか、私が子供体系なだけなのか、妙に切なくなるんですけど…!
「汗は掻いてない?髪洗ったらサッパリするわよ」
「髪の毛も洗っていいんですか?」
「もちろん。もしかして銭湯は初めて?」
「は、はい。何か間違ってたら教えてください」
「ふふ、大丈夫よ。私が洗ってあげましょうか」
「え!?そ、そんな申し訳ないです!」
「遠慮しないで。私、花音ちゃんのことは妹みたいに思ってるんだから」
「やだ乙姫ずるいわ!私だってそうよぉ!」
「アタシもー!」
「うちもうちもー」
乙姫先輩に負けて椅子に座ると、先輩達がみんなそういってくれた。可愛がってくれてるのは知ってたけど、そんな風に思われていたなんて。どうしよう。泣きそうなほど嬉しい。必死に涙を堪えていると、乙姫先輩が優しく髪を濡らしてくれた。
「本当に綺麗な髪色ね」
「ありがとうございます」
「クォーターらしいけど、どっち似なの?」
「母がハーフでした。同じ髪色なんです」
「お母さんも、綺麗な人なんでしょうね」
「…はい」
それから丁寧に髪の毛を洗ってもらった。美容師さんみたいに上手で、とっても気持ちがいい。またゆっくりと髪にシャワーを当てながら、先輩は私に色んな事を話してくれた。
「花音ちゃんがアメフト部のマネージャーになってから、やっぱり少し寂しいのよね」
「あっ、ごめんなさい」
「いいのよ。花音ちゃんが決めたことですもの。でも意外だったのよね。他の部は断ってたのにどうしてかしら?って」
「花音ちゃん、もしかしてアメフト部に好きな人でも出来たの!!?」
「浦島先輩!声が大きいです!違います!」
「じゃあ、どうして!?」
「え、えーと…」
そういう理由じゃないんだけど、ちゃんと答えないとわかってくれなさそうだな。興味津々の先輩達に、私はちゃんと思ったことを口にした。
「本当は、断る予定でした。従兄の応援が出来なくなるから、アメフト部だけはダメだと思って。でも…」
「「でも?」」
「筧くんが、本気だったからです。先生だと勘違いするくらい真面目な人が、真剣な顔で全国制覇するっていったんです。そんな姿見たら、応援しない訳にはいかないじゃないですか」
「…花音ちゃんらしい理由だと思うわ」
「ああ、悔しいわ!男なのね!可愛がってた妹分は結局男に取られるのねぇええ!」
「もう先輩!言い方に悪意を感じるのでやめてください!」
そういいながら辞めろっていわないのが、先輩達の優しさだと思う。またチア部も見に行きますねっていったら、とても喜んでくれた。
…私、いい先輩に恵まれたな。
1/2ページ