7.水族館
名前変換
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「えー水曜日の遠足の件についてですが…」
この年になって遠足かよ、と思うが毎年恒例だから仕方がない。場所はいつもどおり、この辺で一番でかい水族館。それをこの前花音に話したらすげぇ喜んでたけど、アイツああいうところが好きなのか…とぼんやり考えながら話を聞いていたら、急に担任が思いがけない発言をし始めた。
「ウチの学校は人数が多く、他のクラスと交友を深める機会が少ないため…今年の班決めはクラス外でも構いません!男女6人で行動してください」
「……は?」
「「「「「やったーー!!」」」」」
周りは嬉しそうに友達と一緒になれると騒ぎ出し、何人かは教室を抜けて早速誘いに向かっていた。俺も悪寒を感じ、すぐに教室を抜け出した。まさか、まさかと思うが…と花音の教室に向かってみたら…
「花音ちゃん俺と一緒に行こうってーー!!」
「水瀬さん!僕と「大西じゃなく俺と!!」
「邪魔するな大平!!」
「お前こそ邪魔するな!!水瀬と同じ班になるのは俺だ!!」
「いや、僕だ!!」
「な、何の話?」
「あのバカ共…」
予想通りすぎて、思わず頭を抱えた。ちなみに説明途中に乱入されたらしく、花音自身はぽかーんとしていたが。クラスの連中もまたお前らかって目で見てるし…いや、俺は違ぇよ。
「すみません。このバカ共は俺が責任持って連れて帰ります」
「ああ、うん。頼んだぞ筧」
「え、と。筧先生お疲れさまです」
「先生言うな。あと、お前らは早く教室に戻れ」
「花音ちゃん!絶対だかんねー!俺と水族館行こうねー!!」
「わかったから、ちゃんとHR受けて?大平くんと大西くんも」
「「水瀬(さん)がそういうなら!!」」
「単純だなお前ら」
とりあえずコイツらを引きずって教室を出た。花音は小さく手を振りながら、また後でね、と笑っていた。
…そう、最近は花音を含めていつものメンバーで昼飯を食っている。たまに渋谷を混ぜて。
「俺、花音ちゃん、筧、大平、大西、摩季ちゃんで6人ぴったしじゃん!」
「アンタらと一緒とか超イヤだけど、花音がいるならいいわよ」
「ンハッ!相変わらず毒舌ー!」
「ふふ、班長は筧先生ですか?」
「…勘弁してくれ」
なんで部活以外でもコイツらの面倒見なきゃなんねぇんだよ。花音は少しからかった口調で笑うし。コイツ優しそうな見た目に反して、結構言うよな。
「花音がやれよ、班長」
「えーやだよー駿くんのがちゃんとしてるし」
「…てゆーかぁ、アンタ達いつの間に仲良くなったわけ?」
「「え?」」
「そういや筧、水瀬っていってたじゃん!いつの間にー!」
しまった。あれから出来るだけ人前では名前で呼ばないようにしてたのに、コイツらの前で呼んじまった。その失態のせいで、水町も名前で呼んでくれと騒ぎ始めるし…
「じゃあ、健悟くん?」
「っしゃー!超進歩!!」
「うん…?」
「水瀬さん、僕も洋くんと!!」
「いや、俺を洋くんと!!」
「え、や、あの。ややこしいからごめんなさい。名字でもいい?」
「「お前のせいかー!!」」
「ああもう、喧嘩しないで」
「「ならせめて水瀬(さん)!!」」
「は、はい?!」
「「花音(ちゃん/さん)と呼んでも…!!」」
「そのくらいなら、どうぞ?」
「「よーーし!!俺(僕)が先に…なんだとおお!!?」」
…ホントにこんな班で行かなきゃならねぇのか。今日何度目かの溜息をつくと、花音が背伸びしながら俺の頭を撫でてくれた。少し複雑だったけど、嫌でもないから良しとする。なんつーか、コイツだけが唯一の癒しだ。
*****
「はいはい!俺、花音ちゃんの隣がいいです!!」
「俺が隣だ!!」
「いいや、僕だ!!」
「花音の隣はアタシよ」
「いやいや、女の子で固まると俺ら超むさ苦しいことになるから!しかも狭いし!」
そして、当日。早々に問題が発生した。花音の隣は誰が座るかってことだ。揉めている間に他の連中がどんどん乗っていくから、もう前の席しか残ってねぇのに。すると、俺の後ろでオロオロしていた花音が、スッと顔を出した。
「ね、じゃんけんのポーズが一緒の人同士で座ったら?」
「そっか!グー・チョキ・パーで3組出来るもんな!」
「それなら異論はないです!」
「うおおお!やるぞー!!」
「じゃあ、いくよー?じゃーんけん…」
「「「「「「ぽん!!」」」」」」
*****
「…ほら、海見えたぞ」
「ホントだー!綺麗だねー!」
「そうだな」
日頃の行いの差、とでもいうのか。グーを出したその手は、無意識にガッツポーズへと変わっていた。花音と同じポーズをした俺が隣で、チョキ同士の渋谷と水町、パー同士の大平と大西が一緒だ。
まぁ結局五月蝿いし、やたら菓子は回ってくるし、ロクなことがねぇんだが…
「ふぁ…」
「もう疲れたのか?」
「えへへ、楽しみでなかなか眠れなくて」
「小学生かよ」
「あ、ひどーい!だって水族館初めてなんだもん!」
「…初めてなのか?」
「うん!」
だからあんなに嬉しそうだったのか。確かにさっきからパンフレット眺めながらニコニコしてるし、よっぽど楽しみだったんだな。
「そういえば、ペンギンって昔は食用とされてたんだって」
「…へえ」
「今は絶滅危惧種で保護されてるから大丈夫なんだけど、駿くんが食べられないように私が守ってあげるからね!」
「花音、落ち着け。俺はペンギンじゃない」
「でも、この前のぬいぐるみも駿くんに似てたし!人間はともかく、シャチとかには間違えて食べられちゃうかもしれないよ!」
「いや、間違う訳ねぇだろ。なんでお前変にバカなんだ」
「でもあれだけ似てたら、大物だって勘違いして「いいから菓子食って黙ってろ天然記念物」
「んぐ、なんふぇっ」
はぁ…こんなにペンギン扱いされるなら、あんなぬいぐるみ取らなきゃ良かった。しばらく花音は嬉しそうに雑学を披露していたが、次第にうとうとし始めた。到着までまだ時間もあるし「眠かったら寝ていいぞ」というと本当に寝てしまったから驚いた。花音が寝たから静かにしろっていったら、バカ4人はすぐ黙ったし。なんなんだよお前ら。
「あ~あ。花音ちゃんの寝顔みてぇな~」
「見たら全力で殴るわよ」
「くっ、背が高すぎて見えない!」
「何故背が高く生まれてきたんだ僕は…!」
…いや、黙ってなかった。地味にうるせぇ。背が高い俺達からすると、寝顔はほとんど見えないからな。しかし、カーブに差し掛かると花音が俺のほうに倒れてきて、そのまま寄りかかってしまった。ヤバイ。なんか腕の辺りが温かいっつーか…顔は見えねぇけど、くそっ!
「んー…」
「…花音?」
「ふぁ…着いたぁ?」
「も、もう少し」
「んぅ~」
そういって花音は俺に擦り寄ってから、また目を瞑ってしまった。ちょっと待て。なんだこの生き地獄。寝惚けているからか、甘えてるようで妙に可愛い声。これでドキドキするなってほうが無理な話で。必死に理性と戦ってると、花音は更にぽつりと呟いた。
「着いたら、起こして…り、く…」
……ああ、だろうな。俺と甲斐谷を間違えているらしい。結局理性が勝ったが、起きてすぐに顔を真っ赤にして謝られると、流石にこっちまで照れてしまう。本当に無意識だったらしい。俺としては役得だったから、構わねぇんだけど。
「ンッハー!着いたー!」
「僕が先に館内に入るんだ!」
「何をー!俺だぁああ!」
「お前ら騒ぐな!まず、まとまって話を聞け!」
「本当に筧先生って感じだね」
「だから、先生はやめろって」
「花音~その辺のカフェでお茶しない?」
「え?えっと、カフェはあとにしない?」
そして、到着したらしたでこれだ。バカ3人が騒がしい。渋谷に至っては花音にひっつきすぎだし。まあ、女同士ならではの特権か。
「あっちの鮫から!!」
「まずは熱帯魚コーナーから!!」
「イルカショーー!!」
「花音は何処から見たいんだ?」
「え?んーと…普通に順路から見たいかな」
「おい。早く来い3バカ」
「別に私に合わせなくてもいいよ?」
「いいんだよ。何回も来たし、初めてのやつ優先で」
「そうそう。ほら~花音がこっちがいいって~」
「「「はーい!」」」
コイツを基準にしたほうが、3バカも扱いやすくていい。花音がそうしたいっていえば、素直に従うだろうし。楽しみにしていた花音に一番楽しんでもらいたいからな。
「わー!なまこー!ヒトデー!気持ち悪いっ!」
「気持ち悪いのかよ」
「花音ちゃーん!こっちの触れるよー!」
「ふふん、僕のほうがたくさん持てるぞ!」
「何をー!?俺のほうがもっと!」
「いやー!!可哀想だからやめてー!!」
…まだ30分も経ってねぇのに、疲れてきた。それから、イルカショーと騒ぐ水町に花音が合わせ、全員でショーのほうに向かった。流石に人も多く、席も後ろの方しか空いていなかったけど。
「人いっぱいだね」
「ほとんど生徒ですね。僕達は前に行くと非難されるので、ここでも構いませんが」
「花音~アタシと前の席探す?」
「ううん、大丈夫。それよりあそこにいるの…」
「面白ぇ~~!ざっぱーーん!!」
「お、お客様ー!プールから出てください危ないですからー!」
「「「「「………」」」」」
「…頭痛が痛い」
「駿くん、大丈夫?日本語変だよ?」
「「俺(僕)達で押さえてきます!!」」
「アンタ等二人で水町止められんのー?」
「「う゛っ」」
「あ、確か右肘が完治前だからそこ押さえてー」
「…お前も容赦ねぇな」
他人のフリをしたいがそうもいかず、水町を捕獲してから、また館内を回った。とにかく騒がしく疲れることも多いが、なんだかんだ楽しい。花音もよく笑っていて安心した。
…のに、だ。バカ3人を叱っている間に花音がいなくなった。渋谷もメイク直しにトイレに行っていたから、誰も彼女の行方を知らない。学校の連中も大勢いるから、はぐれたとみて間違いない。
「うお~い!花音ちゃーん!!何処行ったー!?」
「花音さーん!!」
「花音ちゃーん!!何処だあああ!!」
「男共ー!花音に危害加えたらわかってんでしょうねー!!」
「落ち着け。館内は静かにしろ」
「だってよ~…このままじゃ見つけらんねーじゃん!」
「一旦別れて探すぞ。見つけたらメールしろ。わからなくても受付で、14時集合」
「「「「了解(しました)!」」」」
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