43.学園祭
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「花音、海外から手紙来てるぞ」
「手紙?お父さんから?」
「いや、相手の宛先は書いてなくてさ。でもお前宛てなんだよ」
「…書き忘れちゃったのかも。ありがとう」
“D”ear ALICIA.
Welcome to United States.
(ようこそ、アメリカへ)
中に入っていたのは、一枚のメッセージカード。
見覚えのある筆跡と大きなDの文字を見つめながら自分の推測を当て嵌めると、徐々に不安が募っていった。差出人は、もしかしたら…
「っと…ちょっと!聞いてんの花音!」
「へ?どうしたの?」
「どうしたの?じゃなくて!出し物決めるっていったじゃん!」
今朝のことが引っ掛かって、打ち合わせ中だってことをすっかり忘れていた。内容は『学園祭の出し物』について。こういうのが苦手そうな駿くんまで真剣なのは、アンケートで1位だった部の部費が上がるからだ。
多数決で人気の劇をするとは決まったけど、肝心の演目が絞れていないんだった。ぼーっとしてる場合じゃない!私も真剣にアイディアを考えないと!
「去年、他の部が使ったシンデレラの衣装は借りられるらしい」
「それなら準備の手間が省けるね。私はお姫様の役以外ならなんでもいいよ」
「何いってんの。ビジュアルからして、どう考えてもアンタが適役でしょ」
「別に無理強いすることねぇだろ」
「そーそー!イヤだっていうならいんじゃね?俺も王子以外がいいな~」
「はぁ!?水町までー!?」
事情を知っている二人は私の意見を尊重してくれるけど、乗り気そうな健悟くんまで否定的なのは無理があったみたい。確かに率先して私を候補に挙げそうなタイプだし。でも、他に何の役があったかな?
ぼんやり絵本の内容を思い出していると、大西くんが真っ青な顔をして片手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待ってください。まさかシンデレラ役は渋谷さんなんですか?」
「うん。誰かが女装してくれるなら話は別だけど」
「ンハッ!俺やっても「「「「「「「却下」」」」」」」
「てゆーか、そんなにアタシのお姫様がイヤなら大西がやれっての!」
「冗談じゃない!僕は花音さんがやると思っていたからっ!」
「私より摩季ちゃんのお姫様のほうが可愛いよ。王子様は小判鮫先輩、どうですか?」
「へ!?お、俺が王子なの!?」
「はい!是非、高校最後の思い出作りと思って!」
もうすぐ先輩達は卒業してしまう。きっとこれが、今の巨深ポセイドン全員で何か出来る最後のイベントだ。部費の件もあるし、気合を入れて頑張らなきゃ!
「よーし、たくさんの人に見てもらえるように招待状を作らないとだね!まずはお返しに王城の人達と、キッドさん達と、あとは…」
「それ、投函前に宛名だけ俺に見せろよ」
「大半は破る気でしょ!!ぜーったい見せないからね!!」
「どうせセナや盤戸マネージャーとかにも渡すんだろ!?ならほぼ確実にヒル魔や赤羽にバレるからやめろ!!」
「やだー!ヒル魔さんや赤羽さんにも来てほしいもん!」
「来させるな!!出禁にしろ!!」
「駿くんのバカー!!バ筧ー!!」
「あーあ、またやってるよ…」
保護者の妨害もあったけど、彼の目を盗んで色んな人宛てに出しました。ヒル魔さんにも個人的に出したから、驚いてるかな。なんだかんだお世話になったし、お礼も込めたつもりだけど…すぐに燃やされてたりして。せめてセナくんやまもりお姉ちゃん達だけでも来てくれるといいな。
「学園祭は9時からだからね!遅刻しないように!」
「わかってるって。どれだけ俺を遅刻キャラにしたいんだよ」
「だってりっくん、大事な時ほど寝坊するんだもん」
「…否定は出来ないけど」
「でも、ちゃんと学園祭するの初めてだから、すっごく楽しみだよ!」
「ああ、転校先はもう終わってたからな」
「それと、劇は午後からだから。もし失敗してもシンデレラの劇に票を入れてね!」
「心配しなくても見に来た西部メンバーは全員入れると思うぞ。先に『俺の妹の演技が一番良くて可愛かった』って書いとく」
「そんなこと書いたらりっくんだってバレバレだよ!」
少しずつ、その日が近づいていく。来てくれた人に楽しんでもらえるといいな。選手として以上に、素敵な人がたくさんいるんだってわかってほしいな。抑えきれない嬉しさを胸に、学園祭は無事当日を迎えた。
*****
「花音姉ちゃ~んっ!」
「虎吉くん!来てくれてありがとう!」
「そら、こんな可愛ぇ招待状貰ったら普通は来るやろ!」
「はは、虎吉はカレンダーに印付けて楽しみにしてたからな」
「あああアホ桜庭ー!!余計なこと言うなー!!」
そこまで楽しみにしてくれてたんだ。虎吉くんにも送って良かった。微笑ましく二人の掛け合いを見ていたら、進さんが持っていた大きな包みを私の前に差し出した。
「水瀬、弁当を作ったんだが」
「お弁当ですか!?こんなに!?」
「えっ、それ弁当なの!?トレーニングセットかと思ってたよ!」
「ああ。見かけるたびに筋力が落ちているように感じたからな。本番前こそ、栄養を摂るべきだ」
「わー!ありがとうございます!でも、こんな大家族用のお重箱なんて、どうしたら「ああ!?進先輩の弁当が食えねぇっつーのか!?」
「きゃー!?」
確か猪狩くん…だったよね。そんなに怒鳴らなくても、食べないとはいってないんですけど。一人で食べるのは無理かもってだけで…ちゃんと話したの初めてなのに、誤解されて印象悪すぎだよー!
「やめろ猪狩。水瀬は今後、世界大会にも携わる優秀なマネージャーだ」
「マジっスか!?このちんちくりんが、あの進先輩が認める巨深マネージャー!?」
「私は怒るべきなのか、泣くべきなのか…」
「と、とりあえず泣かないでくれると、俺は嬉しいかな」
「スンマセン姉御!これからは気を付けるっス!」
「…同い年だし、姉御はやめてほしいです」
ヤンキー上がりというのか、独特の師弟関係がある気がするけど…十文字くん達みたいにわかりやすい感じだったら良かったな。怖く見えるけど本当は優しいとか。
あと、淡々と進さんがチェーンを巻き付けてるけど、その状態で校内に入ると完全に不審者だから外してほしいです。喧嘩さえしなければ自由に回ってくださって結構です。
「そういや、姉ちゃんが案内してくれるんやろ?姉ちゃんのクラスは何するん?」
「実は、私達のクラスは数研と理研に乗っ取られちゃってね」
「スーケンとリケン?」
「数学研究会と理科学研究会。マニアックな仕上がりになってて、私はポスターとかPOPのお手伝いしかしてないの」
「ホントだ。可愛い絵に反して、内容がよくわかんないねコレ」
「そんな難しいのイヤやな~」
「ごめんね。今日は友達や先輩達の応援をしながら学園祭を見て回るから、楽しんでいってね!」
王城の学園祭は楽しませてもらったけど、こっちも負けてないぞ!ってところを見せないと!
そう思っているのに、周りが海や魚、人魚姫をモチーフにしていて、私のほうが楽しくなっちゃう。あれ?あそこにいるのは…
「知念先輩ー!」
「あ、丁度良かった。寿司握ったけど食べる?」
「すごーい!出張のお寿司屋さんなんですね!」
「花音ちゃーん!その前にこっちのお好み焼き食べてきなよ!」
「焼きそばもなかなかイケるぜー!」
「せ、先輩方!私そんなにお金持ってないですから!」
「何いうてんねん!うちのお姫さん相手なら、み~んなタダやで!」
「渦潮先輩まで!?」
出店のクラス担当の先輩達が多くて、すぐに捕まってしまった。タダなんて訳にはいきません!お金出しますよ!
…でも、流石に全部は食べられないかも。味見係くらいなら、なんとかなるかな。
「たこ焼きの焼き方はそんなんちゃうで!俺が手伝ったるわ!」
「あー!待てって虎吉!」
「進さんは何か食べますか?」
「いや、弁当があるからな」
「そうだった!進さんのお弁当があるので、これはいただけません!」
「弁当ぉおお!?うちの子に餌付けすんなやボケェ!!」
「んだとぉおお!?進先輩の優しさがわかんねぇのかコラァ!!」
「ま、待ってください!揉めないでー!!」
さて、ここで問題です。どうやってこの場を収めたでしょう。
①駿くんがやってきて怒鳴った
②近くにいた峨王くんが参戦した
③ヒル魔さんらしき人が謎のミサイルを飛ばしてきた
…正解は全部です。まだ始まったばかりなのに酷い目に遭った。ヒル魔さんを呼んだのは失敗だったかなぁ。校内で乱射および発砲はやめていただきたかった。来年から私物検査も検討しないと。
「けほっ、けほ!お客さんが集まる前に早く片付けを…」
「はぁ~い!ここはメイドの俺におっ任せあれ~い!」
突然やってきたのは、大柄なメイドさん…こと健悟くん。なんでメイド服を着てるんだろう。そういえばG組は、喫茶店だったよね。喫茶店=メイドさんはわかるけど、健悟くんも着る必要ある?なんて疑問はすぐに吹き飛んだ。既にチア衣装を着たことのある彼相手に愚問すぎました。
苦笑いを零していると『D組お化け屋敷』のプレートを持った駿くんが再び怒鳴っている。客寄せの途中だったんだろうな。でも折角モデルさん並みにカッコイイのに、怒ると怖いからお客さん引いてるよ…お化けより駿くんが怖い。
「ったく、気色悪い格好のまま出歩くんじゃねぇよ!」
「えー?俺そんなに似合ってない?ちょっとはイケてね?」
「男のメイドの何がいいんだ!ど、どうせなら…」
「うんうん。そうだよなぁ花音ちゃんのがいいよな!フリフリのメイド服に猫耳とか付けてさ~『ご主人様♪』って呼ばれちゃったりして!」
「なっ、な、ななな…!」
「もう何言ってるの。桜庭さんは似合ってたけど、私なんてまるで萌えんなって感じになって終わるだけよ」
「花音ちゃん、さり気なく俺の黒歴史を掘り下げるのやめない?」
結局、メイドさん以上に片付けや修復作業を頑張ってくれたのは王城の方々でした。猪狩が揉めたせいでもあるから、と先輩である二人はとても優しかった。彼もチェーンなしでも静かになってくれたし、ようやく一息つけそうだ。
「すみません。色々巻き込んだ上に片づけまで手伝ってもらって」
「ううん、こっちも悪かったから。それに案外楽しいし」
「楽しい…ですか?」
「こういうアクシデントや、さっきの水町くんとかね。インパクトが強い出来事があると思い出に残りやすいでしょ」
「そうですね。ちょっとやそっとじゃ忘れないと思います」
「それが後輩が先輩に出来る最後のことじゃないかなって。花音ちゃんも、悔いのないようにね」
も、ってことは桜庭さんも含んでるんだろう。特に高見さんは医大へ行くみたいだし、また王城の選手として一緒に戦うことは出来ない。あの時の涙はきっと、その悔しさも含んでる。
…先輩達と過ごす1日1日を大切にしよう。私だって巨深高校の1年生でいられるのは、あと少しだけなんだから。
「ありがとうございます。私も精一杯、頑張ってきます」
「うん。楽しい学園祭になるといいね」
「花音ちゃーん!劇の準備するよー!」
「ええっ、もう!?ごめんなさい!いってきます!」
「はは、忙しいね。いってらっしゃい」
思いのほか時間が掛かってちゃんと案内出来なかったけど、今はとにかく来年度の部費のために頑張らないと!そう意気込みながら、私は進さんに貰ったお弁当に手を付けた。
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