42.選手勧誘
名前変換
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「鷹からメールが来た?」
「うん。泥門の部室に来てって」
「泥門、ねぇ。あんまりヒル魔氏と会わせたくないんだけど」
「…つーか、なんでナチュラルに西部メンツが揃ってんだ」
「なんだよ。年越しは譲ったんだから、お前らが空気読むべきだろ」
「まぁまぁ、神聖な場所で喧嘩するもんじゃないよ」
年越し後は軽く睡眠を取ってから、巨深と西部メンバー数名と初詣に来た。お賽銭前の行列に並んでる間、駿くんとりっくんはまた揉めていたけど。キッドさんと鉄馬さんは兄弟喧嘩を見守る親みたいになってるし。妹の私はどうしたらいいんですか。
そうこうしているうちに、自分の番が来た。たくさん祈願したいことはあるけど、まずは近い未来にするべきだよね。手短にお願いを済ませ、私は人混みを避けてキッドさん達と合流した。
「ちゃんとお願い事は出来た?」
「はい。キッドさんの腕が早く治りますように、ってお願いしました」
「…優しいお願いをありがとう。でも、口に出すと効力切れるんじゃなかったっけ?」
「ええええ!?ど、どうしましょう!」
「はは、逆に出す方が良いって解釈もあるけどね」
「良かった…ちなみに、キッドさんはなんてお願いしたんですか?」
「ん~内緒かな」
「ズルイー!教えてくれてもいいじゃないですかー!」
ぽかぽか叩いていたら、すぐに鉄馬さんに止められた。そっか。まだ完治してないから、下手に触って悪化させたら困るんだ。慌てて頭を下げて謝ると、大丈夫だよ、とやんわり微笑まれた。一日でも早く、キッドさんが活躍している姿を見れるといいな。
「どうせ筧は名前呼び捨てにしてほしい、だろ」
「お前はこれ以上変な虫付くな、か」
「まぁな。願い事なんて毎年同じだよ。それ、俺が実現してやってもいいけどな。駿」
「おいやめろ気持ち悪い」
「弟分を可愛がってやってんだよ」
「完全に嫌がらせだろ。実行するなら俺もりっくん、って呼ぶぞ」
「………悪かった」
あれ?珍しくりっくんが負けてる。駿やりっくんって聞こえた気がするけど、気のせいかな。仮にそう呼び合ってても少し怖いような…
「んんーひゃん!ふぁへっほわひ!!」
「健悟くん。一つ大人になったばかりなんだし、いい加減食べながら喋るのやめようね」
「ふぁい!んーとね、これ昨日連れ回したお詫び!」
「お詫びなんていいのに、わざわざありがとう」
貰ったベビーカステラを食べていると、次第におみくじの行列が減ってきた。今ならすぐに引けるかな。丁度食べ終わった頃に人がいなくなったから、私は巫女さんに声を掛けてくじを引いた。
「ンハッ!おみくじか~!俺もやろっと!」
「こっちにいたのか」
「おみくじは毎年引いてるもんな」
「うん。いつも当たるんだよ。今まで待人は来ないってあったけど、去年は来るってあって叶ったし」
いつもとは違った当たり方だけど、大吉の後の文は大抵その通りになる。そうわかっていても、中を見るまでドキドキしちゃうんだけど。
紙が破れないように気をつけながら、私は内容を確認してみた。
学問『日々精進すべし』
失物『身の回りをよく探すこと』
:
:
待人『おとづれなく来る』
「おとづれ、なく…」
前触れもなくやってくる、って意味だよね。連絡なしに攫われたり~はしょっちゅうあるけど、それとは違う気がする。近いうちに…私の待っている人と、会えるんだ。
なんとなく枝に巻くのは勿体無い気がして、くじをポーチに締まってから私達は神社を出た。
「それでは、泥門に行ってきます」
「鷹がいる分、まだマシか。気を付けろよ」
「何かあったらすぐ連絡するんだよ」
「もういっそ一緒に付いて「今年初練習をサボらないで!!」
そろそろ初めてのおつかいを見送る親みたいな態度はやめてほしい。ヒル魔さんも毎回ああいう言動をする訳じゃないと思うし…多分。
保護者達と別れてから、私はバスを使って一人で泥門へ向かった。そして派手な部室のドアを開けると、いきなり黒い影が襲ってきた。
「失礼しま「花音!あけまシーザーズチャージッ!」
「きゃあっ!?」
影の正体は大和くんだった。ちょ、ちょっと待って。いきなり熱い抱擁を交わされても、苦しいだけなんだけど。挨拶はアメリカ式なのかな。同じく留学したはずの駿くんには、こんな挨拶されたことないけど。
ぐったりしている間に、ゆっくりと大和くんが離れていった。彼を引きはがしたのは鷹くんみたいだ。
「大和。みんな見てるし、花音じゃなかったらどうするつもりだったの」
「俺が花音を間違える訳ないじゃないか!」
「大和くん!ウチの娘になるかもしれない子に何をするんだ!」
「お前もお前だマサ。落ち着け」
大和くんで何も見えなかったけど、どうやら鷹くんと本庄さん、理事長さんもいるらしい。まもりお姉ちゃんは後ろのほうで、お茶とシュークリームを用意している。
どういう状況かサッパリわからないけど、先に挨拶をしないと。私は身なりを整えてから、理事長さん達のほうへ向かって丁寧にお辞儀をした。
「新年のご挨拶が遅れましたが、あけましておめでとうございます。本年も部員共々、ご指導とお力添えのほどお願い申し上げます」
「はぁああ~礼儀正しい娘さんだな」
「あまり贔屓は出来んが、期待しているよ」
「ありがとうございます」
マナーについて勉強しておいて良かった。私が粗相をしたら、巨深全体の評価も下がる。いい印象であればあるほど、こちらとしても有難い。ほっと一息つき、もう一度礼をしてから席へ座った。
「あの、今回はどういったお話なんでしょうか」
「ん?鷹、詳しく言わなかったのか?」
「また話すなら二度手間かと思って。メール打つの大変だし」
「なら俺が説明したのに!第一、どうして鷹も花梨も花音のアドレスを教えてくれないんだ!」
「独断で個人情報を教えられない。それに、大和が一方的にメールしまくってただの迷惑メールになるのは目に見えてるから、花梨と黙秘を貫いてるだけだよ」
…多分、鷹くんと花梨ちゃんの判断が正しいんだろうな。常識人さもこちらが勝ってるし。小声でお礼をいうと、少し微笑んでから自分のシュークリームをくれた。鷹くんも紳士的で優しいな。でも一つで十分だから、これはまもりお姉ちゃんにあげよう。
そう思って声を掛けようとしたら、勢いよく部室のドアが開いた。
「いやいやいや見損なってもらっちゃあ困るぜ!俺らは泥門を裏切る気なんざこれっぽっちもねーー!!」
「わっ!モン太くん!?」
「あれ?花音ちゃんに、アメフト協会長さんと…」
「本庄さん!な、なんで!?」
部室は彼らのものだし、ここに来ても不思議じゃないんだけど…クリスマスボウルの最優秀選手が集結したってことは、相当大きな話なのかな。
「役者は揃ったし、そろそろ説明しようか。高校アメフトワールドカップについてだ」
「ワールド、カップ…?」
世界各国が集まって行われるユースのワールドカップ。その日本代表として会長さん達が選抜したのが、この4人だった。
その際に、大和くんが日本に帰国した理由にパンサーくんが関わってる…と言っていたけど、よくわからなかった。あのパンサーくんが誰かを追い出すような真似をするはずがない。でも、いずれ大和くんが話すっていってたから、私はそれを待とう。憶測だけで判断するのは失礼だ。
「そして、全日本選抜のメンバーは…君達自身の手に委ねる!」
「へ…!?」
「大人の主導で寄せ集められた帝黒は、自分達の想いで集まった草の根の泥門に敗れたんだ」
「意志が必要なのだッ!確固たる覚悟がッ!」
「きゃっ!?」
「おっと、大丈夫かい?」
「あ、ありがとう」
会長さんが勢いよく机を叩いた拍子に紅茶を溢しかけたけど、大和くんがすかさず助けてくれた。鷹くんとモン太くんは問題なくキャッチ。セナくんは頭から被っちゃったけど、まもりお姉ちゃんがすぐにフォローしていた。
「あと、花音ちゃんに来てもらったのは、マネージャー代表として頑張ってほしいからだよ」
「私…が?」
「君の噂は常々聞いている。冷静な分析と判断が出来るはずだ」
「それならまもりお姉っ、姉崎さんでもいいのでは?」
「なら聞こうか。君はまず、ラインバッカーとラインに誰を入れる?」
「確実に抑えたいのは、進さん。ラインは栗田さん、峨王くん、番場さんです」
「次に入れたいのは?」
「…筧駿と、水町健悟。彼らも世界に通用するレベルだと思っています」
もっと上がいるから、一番に名前は上げられない。でも、傍で見て来たからわかるんだ。この二人も日本選抜チームで戦えるほどの強い選手だって。そう胸を張って言える。
同じく真剣な顔をしていた本庄さんは、ふと柔らかい笑みを見せた。
「いいね。上手な判断が出来る。そして、敵味方に関係なく選手が大好きな子だ」
「…え?」
「アメフトも、選手自身もよ~く見えてる。だから君がいいと思ったんだ。王城戦の時から決めてたよ」
あんな少し話した程度で、そこまで考えてたんだ。アメフトやチームの話ばかりした後に、褒めてもらったっけ。技量以上に、その思いまで汲み取ってくれたのは嬉しいな。
「ありがとうございます。最初はバラバラでも、いいチームになれるように私も最善を尽くします」
「ああ。頼むよ。マネージャーの件は追々で、先に選手の方を優先してほしい」
「花音ちゃん、頑張ってね!そんな薄着で歩き回ると不安だから、私の上着とカイロと、あとこれとそれも…」
「そんなに必要ないよー!」
ここにも過保護な人がいたんでした。結局3つほどカイロを貼られ、寒さ対策は万全になった。そのあと選手4人と部室を出て、簡単な話し合いをした。ヒル魔さんとは連絡が取れないようだから、自分達でなんとかするしかない。
そして、関東側が全員候補に上げたのは…もちろん進さん!
「王城久しぶりだ~!」
「花音は前にも来たことがあるのかい?」
「うん。この前、学園祭にも来たよ」
「…そうか。わからないことだらけだな」
もっと君と話がしたい。もっと君を知りたい。大和くんの瞳は、そう語りかけているようだった。私もあと少しで彼を思い出せそうなのに、はっきりとした答えが出ない。
悶々としている間に、進さんは日課のジョギングに行ってしまった。みんなで追っていくと、先回りしていた大和くんは彼の前に立ち塞がり、アメフトボールを取り出した。
「あのセナくんが尊敬する関東最強のラインバッカー、進清十郎。その実力を知りたい!」
「大和、猛か…!」
唐突に始まった進さんVS大和くんの対決。両者共にアメフト界のトッププレイヤー。どうなるか見当がつかない。大和くんが上着を放ったのを合図に、進さんは勢いよく彼へと突っ込んだ。
…結果は引き分け、でいいのかな。大和くんは抑えきれなかったけど、トライデントタックルを喰らって倒れず、1ヤード以上押し切った。この二人が仲間に…なんて頼もしいんだろう。
「じゃあ、関東側は任せたよ!」
「花梨達も会いたがってたから、また遊びに来てね」
「うん。大和くんと鷹くんも頑張って」
進さんを仲間にした後、大阪へ戻る彼らを見送った。関西の選手は、帝黒の中で絞るだけで十分だろうな。こっちはこっちで、各校の選手を集めていかないと。わくわくした気持ちのまま、私はざっとポジション別に思いついた名前を書き出してみた。
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