41.感謝と約束
名前変換
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「さぁ、駿くん!今こそアイシールド21センサーを活用する時だよ!」
「そんなもんねぇし、寧ろお前にホイホイされると思ってたんだよ」
「人を某虫みたいに言わないでっ!」
「それってゴキ「やだー!名前も聞きたくない!」
クリスマスボウル自体は一段落したけど、まだこちらには大事な用が残っている。駿くんが大和くんにお礼を言うこと。ただ、隣の彼は『コイツは敵だ』センサーの方が作動しているし、大和くんも肝心な時に見当たらなくて困る。
何度か名前を呼びながら探していると、先に別の選手を発見した。
「鷹くん!お疲れ様でした」
「ありがとう。まだ残っててくれて良かった。メアド教えてもらっていい?」
「え?う、うん」
「おい、本庄」
「鷹でいい。多少下心はあっても、業務連絡用だから気にしないで」
「…驚くほど正直だな」
業務連絡って何のことだろう?と不思議に思いつつ、連絡先を交換した。帝黒へ行った時に済めば良かったんだけど、うやむやになっちゃったんだっけ。少し遅くなったけど、ようやくアドレス帳に『本庄鷹くん』が追加された。
改めてこちらの用件を話そうとすると、いきなり後ろから誰かに抱き締められた。
「ひゃあっ!?」
「ははっ!俺ともメアド交換してほしいな!」
「てっめ、花音を離せ!」
「君は、昨日のトナカイくん?悪いが俺は絶対に「だから別の勝負をしないで!まず大和くんは私から離れる!駿くんは怒るのをやめる!」
「「わ、わかった」」
「この二人をいっぺんに…凄い」
前回の二の舞になりそうだから、今日は私が仕切ってなんとかしないと。やや距離を取りつつ、二人の間に入って仲立ちを始めた。自慢じゃないけど、毎日誰かしら(主に大平くん達)の喧嘩を止めて慣れてますからね!
「はい。数年前を振り返って、こちらがノートルダム大付属でアイシールド21を名乗っていた大和猛くん。そして、フェニックス中でエースになった筧駿くんです」
「フェニックス中、の…カケイ?そうか、君はあの時の!また再戦しようって約束したんだったね!」
「あ、ああ」
「花音が話していた友人は君だったのか。でもその約束の前に、一緒に戦うことになりそうだな!」
「…は?一緒に?」
「えっと、どういうこと?」
「そのために連絡先を交換したんだけど、ごめん。そろそろ出発の時間なんだ」
「大和ー!鷹ー!バス出てまうぞー!」
「続きはまた今度だね。それじゃ「大和!」
「ん?」
「お前のプレイを見て、自分の未熟さに気づけた。ありがとう。でも再戦する時は、ラインバッカーとして必ずお前を止めてみせる!」
「っ、ああ!楽しみにしているよ!」
彼は最後まで爽やかなスポーツマンらしさを崩さず、鷹くんと一緒にバスへ乗り込んだ。帝黒メンバーは窓から顔を出して騒いでいるけど、一斉に話されても誰が何を言ってるかよくわからない。なんとか見送りを終え、ほっと溜息をついた。
そして、さっきから黙ったままの駿くんを見てみると、いっぱいいっぱいの様子で顔を押さえていた。大丈夫?と声を掛けると、小さく呟く声が聞こえた。
「…やっと、言えた」
「うん。良かったね」
「勝てるかなんてわかんねぇけど、花音には傍で見ていてほしい」
「もちろん応援するよ。頑張ってね」
「ああ。絶対止める。絶対に…勝ってやる」
さっきの言動のせいか少し恥ずかしそうにしつつも、やっぱり嬉しさを隠せず笑う彼が、今までで一番素敵に見えた。そうだよね。やっと約束が果たせそうなんだもん。きっとこれが駿くんにとって、最高のクリスマスプレゼントになったと思う。
…先にお礼をいっておいて良かった。ありがとう、大和くん。
「そろそろ、泥門のお祝いパーティーに合流しよっか」
「あのデカいケーキ食うんだろ?連日ケーキばっかだな」
「来週は健悟くんの誕生日だから、私が作るよ」
「それはちゃんと食う。あー…しまった。まだプレゼント買ってねぇ」
「一つアドバイスすると、服はいらないと思うな」
「確かに」
意見が一致した直後に、同時に噴き出した。どうしようかと相談しながら歩いていると、本人が現れたため一旦中断。何の話ー?と犬のように駆け寄ってきても、今は内緒としか言えません。
駿くんとの約束は果たしたから、今度は健悟くんの番。当日は彼に楽しんでもらえるように頑張ろう!
****
「…ごめん。ちょっと休憩したい、かも」
「えー!?もう!?」
拝啓、数日前の私へ(前文略)もう少し計画を練るべきでした。(末文略)敬具。
本人の希望で遊園地にやってきたけど、入場から1時間弱で既にギブアップ寸前。絶叫系をこんなに連続で乗るのは流石に辛い。それが顔に出てしまっているのか、不思議そうに首を傾げられた。
「もしかして、具合悪いの?」
「ううん。ただ、もう少しゆっくりしたのがいいな」
「ゆっくりっていうと~コーヒーカップ?観覧車?」
「…みんな怖く思えるのは気のせいかな」
ぐるぐる回し続けたり、はしゃぎすぎて揺らしたり、絶叫マシンと大差ないアトラクションへと変わりそうだ。全部がイヤって訳じゃないけど、せめてゆっくりのと速いのを交互に…とか。どう提案しようか迷っていると、彼は思い出したように声を上げた。
「いっけね!俺、ピーターパンだって忘れてた!」
「え?」
「花音ちゃんはどれ乗りたいの?俺もそれがいい!」
「でも、今日は健悟くんに合わせ「だーめ!誕生日の特権発動~!」
いいのかな?と悩んだ末に、空中ブランコを選んでみた。スピードもそこまでないし、飛んでいるような感覚がすごく楽しい。そして、終わってからお互いの姿を見て「髪の毛ボサボサだー!」と指差し合って笑った。
次は健悟くんが、次は私が…と譲歩しながら乗って行き、お昼を食べてから観覧車へ。荷物を置いて向き合って座ると、試合中のような凛々しい表情で見つめられた。
「あのさ、花音ちゃんのこと教えて」
「…どういう意味?」
「絵本の意味とか、黙ってたこと全部聞かしてよ」
「聞いてて楽しいものじゃないと思うよ」
「それでもいい。全部知りたい」
珍しく真剣な彼に負けて、自分の過去について話した。駿くんに伝えたときよりは簡潔に。辛かったとか悲しかったなんて一言も言わなかったのに、終わり頃になると鼻を啜る音が聞こえてきた。
「け、健悟くんが泣くことないよ」
「だって…さ、すっげぇ寂しくて」
「ごめんね。話さない方が良かっ「なんでそうやって隠すんだよ!」
「…っ」
「ずっと我慢する必要ねぇじゃん!辛いなら辛いって言えよ!どんなに大人ぶったってガキなんだよ!俺みたいにバカやってもいいんだよ!」
…そうだ。私は嘘ばかり付いていた。自分を守る嘘や、都合のいい嘘。寂しくない。私は間違ってない。そう信じ隠し続けることで私が出来ていた。
だから、健悟くんに出会った時はかなり驚いた。楽しい時は楽しい。悲しい時は悲しい。喜怒哀楽の表現が上手で、作り笑いが得意な私は、嘘を付けない彼を羨ましいと思うことが多々あった。
「ありがとう。素直な気持ちをぶつけてくれて。マネージャーに誘われて良かった。こうやって泣いてくれる、素敵な友達を持てて良かった」
「花音、ちゃん…」
「誕生日おめでとう。私に希望をくれて、ありがとう」
言い終わってすぐ、力強く抱き締められた。ぐらっとカゴの中が揺れたけど、どうにか持ちこたえたようだ。苦しいよ、とトントン合図してもなかなか離してもらえない。少し顔を上げてくれた時に、首筋に涙が零れ落ちた。
「何、それ…ずりーってマジで」
「うん。ごめんね」
「ずっと知りたかった。今日聞けて良かった。でもさ、もう最後みたいな言い方すんなよ」
「だって本当のことだよ。健悟くんがいなかったら遊園地にも来れなかったと思うし」
「…え?まさか、初めて?」
「うん」
そう答えると、勢いよく私を離してくれた。口をぱくぱくして唖然としてから「嘘だろ!?そんな人いんの!?」と詰め寄られたけど、ごめんなさい。ここにいます。一人苦笑していると、彼は急にニカッと笑ってガッツポーズをした。
「やーりぃ!ってことは、花音ちゃんの初めての遊園地デートもーらいっ!」
「いや、デートじゃないんだけどね」
「俺からすればデートなんだって!やっべ超嬉しい!最高の誕生日だ~!」
喜んでもらえるのは嬉しいけど、これ以上暴れると落ちそうで怖いな。冷や冷やしている間に、無事地上に着いて良かった。
…と、安心したのも束の間。扉が開いてすぐ、健悟くんは私の手を引いて走り出した。
「よーし!全部回ってこっ!」
「ぜ、全部!?」
「初めてなら一回ずつ乗るべきだって!目指せコンプリート!」
ままま待って。まだお化け屋敷とか、一番すごい絶叫マシンに乗ってないんだけど。それもやるの!?やだやだ絶対乗りたくないよ!
でも、どんなに喚いても嫌がっても、本日主役の彼が折れることはなかった。
*****
「…お疲れ。もうちょっと寝てろよ」
「ううん。なんとか、平気」
帰宅後、かなり疲れて駿くん達と合流してすぐダウンしてしまったらしい。その間に駿くんの怒鳴り声が聞こえたのは気のせいじゃないと思う。今は少し回復したため、二人で全員分の年越し蕎麦を茹でているところだ。
「ん~でも、今年は色んな事があったよね 」
「そうだな。水町と花音が入ったのが大きかった」
「私も?」
「去年は隣にいなかったんだから当然だろ」
確かに。去年の大晦日に一緒にお蕎麦を茹でていたのもりっくんだ。年末のこの日だけは必ずりっくんの家族と過ごしていたから、友達と年越しするなんて考えたこともなかった。それに「今年中にやり残したことは済ませろ!」って怒られて大変だったっけ。
…やり残したこと、か。どうしよう。まだあった。私は何度か心の中でイメージしてから、そっと口に出してみた。
「あの、しゅ、駿…っ」
「なんだよ」
「っ、ふぁああ~やっと言えた」
「…ん?あれ、今っ!」
一気に赤くなった彼を見たら、私も恥ずかしくなってきた。みんな名字で呼んでるし、駿くん呼びに慣れていたから、このお願いを叶えるのはかなり大変だった。互いに混乱していたけど、タイミング良くアラームが鳴ってくれたお蔭で、気を逸らせて助かった。
先にお蕎麦を運んでいくと、健悟くんが室内でもマフラーを付けていた。誕生日プレゼントは気に入ってくれたみたいだ。上半身裸にマフラーという、不思議な組み合わせになってるけど…
「うわ、もう日付変わんじゃん!行くぜカウントダウンー!3!」
「2!」
「1!」
「「「「「「ハッピーニューイヤー!!」」」」」」
「アーンドッ!小結っち誕生日おめでとー!」
「ああー!なんで!?あけおメール送れないんですけどー!」
「新年早々騒がしいな。ちゃんと挨拶くらいさせろ」
「はい!皆さんあけましておめでとうございます。今年こそは、巨深ポセイドン全員でっ」
「「「「「「てっぺん行くぞー!!」」」」」」
しばらく一緒に騒いだ後、りっくんがお迎えに来たから摩季ちゃんを送ってから帰路へ着いた。そして初詣は何時に行こうかと話している間に、鷹くんの言っていた『業務連絡』が届いていた。
ー…その話がこれから、私の人生を大きく変える出来事になる。
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