39.Christmas Eve
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「本当にこの格好でやるんですか?」
「そう恥ずかしがらないで、笑顔で客寄せ頼むよ~!」
「…はい」
街は華やかに彩られ、定番の曲をBGMに賑わっている。今日はそう、クリスマス・イヴ。夜は巨深と西部で合同パーティーをすることになっているけど、私はその前にバイトを入れた。日給一万円というなかなかおいしいお仕事なんだけど、ケーキを売り切らないと帰れないから、早く完売出来るように頑張らないと。
「…は?花音?」
「ひゃあああ!駿くんー!?」
私に気付いた駿くんは、この衣装に負けないくらい真っ赤になった。多分、ミニスカサンタという酷い衣装だからだと思う。ブーツで多少隠れても太ももあたりは寒いし、何より恥ずかしい。
身内にバレたくなくてわざわざ雨太市までバイトに来たのに、いきなり知り合いに出会うなんて運が悪すぎる!
「な、なななんて格好して…っ!」
「私だってこんな衣装だと思わなかったの!」
「バイトするってこれかよ!ズボンかタイツはねぇのか!?仕事くらい選べ!」
「そう言われてもっ、ふわっ!」
「一旦それ着てろ。で、店長は何処だ」
「待って!いいから!そこまでしなくていいから!」
自分のコートを羽織らせ、店長さんに喰いかかろうとする彼を必死に止めた。コートの下は薄いトレーナーしか着てないくせに、どうして平気でそういうことが出来るんだろう。
お願いだからやめて!と訴え続けると、渋々といった感じで諦めて自分のマフラーを巻いてくれた。まだ彼の体温が残っていて温かい。この過保護なところは相変わらずだ。
「バイトはノルマとかあんのか?」
「うん。100個。合同パーティー用に5個は予約してもらったんだけど、全部売らないと終わらなくて」
「あと95個もあんのかよ。なら俺も、家用に一つ買ってく」
「いいの?今夜食べるのと同じケーキだよ?」
「早く終わったら、早く帰れるんだろ。そんな格好で長時間外にいて、風邪引いたらどうすんだバカ」
「あうっ!」
ぺしっとデコピンされて、思わず額を押さえた。彼はあの後も、ほとんど態度が変わらない。散々傷つけたのに私の心配をしてくれる。嬉しいけど、同時に泣きたくもなる。ありがとうって、何回言えば足りるのかな。
じわじわと泣きそうになっていると、お店側から店長さんの声が響いた。
「ええっ!?困るよ君ぃ!ちょっと!ああ~…」
「どうかしたんですか?」
「バイトの子が彼氏とヨリ戻してデートするから、急に辞めるって言いだしてねぇ」
「ということは、バイトは私一人ですか?」
「…うん」
店員さん達が次々にインフルエンザに感染し、急遽駆り出されたのが私達。二人と聞いた時も少ないと思ってたのに、残り94個を私だけで売り切らないといけない。
店長さんは予約された特大ケーキを作っているから、フォローは期待しないほうがいい。呼び込みや雑用もあるというのに、どう考えても人手が足りない。ドタキャンの怒りよりも、やりこなせるかどうかの不安でいっぱいだった。
「すみません。そのバイトって、男でも出来ますか?」
「え?」
「おー!助かるよ!彼はなんだ?花音ちゃんの彼氏か!?」
「いえ、お友達で…って大丈夫なの?」
「今日は十文字達の様子見に来ただけだし、構わねぇよ。パーティー準備は人数も足りてるし大丈夫だろ」
そういえば、クリスマスボウルを控えた泥門の選手達だけで作戦会議をするから、コーチお休みだったんだ。それでも様子を見に行ってあげる辺り、改めて面倒見の良さを感じる。準備も健悟くん達が楽しそうにやっていたから大丈夫かな。
「良かった良かった!給料は奮発するよ!」
「いや、通常の給料で構わないんで。バイトって何すればいいんですか」
「主に会計かな。花音ちゃん、彼に教えてる間に呼び込み行ってきて」
「はい!」
折角駿くんが手伝ってくれるんだし、こっちも頑張ろう。用意された看板を持ち、私はお店の前で宣伝を始めた。
「今日は待ちに待ったイヴでーす!クリスマスケーキはいかがですかー?」
「一つ貰おうかな」
「本当ですか!?ありが「おまけに君も付けてくれるならね」
「…はい?」
どうしよう。いかにもナンパ大好き、って感じの人に捕まってしまった。スカート辺りをジロジロ見られると嫌だな。中が見たいですと言いたげで気持ち悪い。早く抜け出したいけど、なかなかしつこくて解放して貰えないし…
「っていうか君さぁ、イヴにバイトとか彼氏いないの?」
「すみません。バイト中なので…」
「いいじゃん。暇そうだし話そうぜ?」
「ひっ!やっ、やめ「ぐはっ!!」
「へ?」
「フー…危なかったね。大丈夫かい?」
「赤羽さん!?」
クールにサングラスを外しながらナンパ男を撃退してくれたのは、赤羽さんだった。今のはスパイダーポイズンの応用、かな。いきなり腰を触られて驚いたから助かった。栗田さん突撃事件といい、阿含さんの時といい、彼には助けてもらってばかりだ。
「ちょっとアンタ!花音ちゃんに何してんのよ!」
「いだだだすみませんすみません!」
「いいぞいいぞ!超スマートだぜ!」
「ま、待ってくださ…コータローさんも応援してないで止めてー!」
何故かジュリさんが一番キレて、ナンパ男をブーツで踏みまくっている。コータローさんはひたすら唾を飛ばし、赤羽さんに至っては黙々と触られた箇所に香水を付けている。
それより、あの、皆さんやりすぎだと思います。泣きながら謝ってるしその辺にしてあげてください。
「花音ちゃん!大丈夫だった!?」
「はい。お蔭様で」
「ったく、セクハラとかスマートじゃねぇんだよ!お前もお前だぞ!可愛いけど服装がヤバイ!」
「そうよ!そんな格好してるから変態が寄るの!さっきタイツ買ったから、これ使いなさい」
「いえ、悪いですよ!」
「またさっきみたいなのが来たらどーすんの!安物だけど、アタシからのクリスマスプレゼント!はいはい!あげるから絶対履くこと!」
「ご、ごめんなさい。ありがとうございます」
毎度ながらジュリさんの押しには弱い。でも、足は寒かったから有り難いな。後で新しい物を買って返さなきゃ…と思っていたら、いつの間にか赤羽さんが急接近してた。
「花音。ヴィーナスもたじろぐ美しさだが、そういう格好は僕の前だけにしてくれ」
「ヴィーナス?」
「おい待てギター野郎。花音に触んな」
「駿く…ぷふっ!な、何それ。トナカイさん?」
「…衣装入んねぇから、付けてろって」
頬を赤らめながらそっぽを向く駿くんの頭には、トナカイのカチューシャがついていた。どうしよう、可愛いかもしれない。コータローさんにまで笑われて、更に不服そうだったけど。あとでこっそり写真撮っちゃダメかな?
「花音ちゃんも筧くんも、そんな格好してどうしたの?」
「バイト中なんです。筧くんは、さっき手伝ってくれることになって」
「へー!それでケーキ売ってるのね!」
「はい」
「なら、僕が買うよ」
「いいんですか!?」
「いや僕がっていうか、元々泥門の応援後にケーキを買いに行く予定だったのよ」
「本当は何個か買ってあげたいところだが、甘いものは苦手でね」
「十分嬉しいですよ。すぐ準備しますね。行こっか、トナカイ先生」
「トナカイ先生ってなんだよ。つーか、先にそれ貰ったなら履いてこい」
「はーい」
タイツを履きに抜けている間に、駿くんがきちんとお仕事を済ませてくれていた。会計時には赤羽さんと揉めてるというか、一方的に怒ってたけど。でも、そのカチューシャのせいで怖さが半減してるよ。見た目のギャップもあって、どうしても可愛く見える。
「花音」
「はい?」
「クリスマスプレゼントだ」
そういって、赤羽さんがイヤーマフを渡してくれた。お花とリボンが付いていて、とても可愛らしい。防寒に加えて音楽も聞ける仕様で、付けてみても周りの声が聴きやすく、かなり良い物みたいだ。
慌ててお礼を言うと、彼は私を褒めながら微笑んでくれた。この前、寒さで耳が赤くなっていたことを指摘されたけど、覚えていてわざわざ買ってくれたのかな。
「フー…明日渡そうと思っていたんだが、会えて良かった。それで少しでも寒さを凌いでくれ」
「はい!ありがとうございます!」
「そうだ、俺も手櫛やるぜ!お気に入りのやつ!」
「アタシも合わせて鏡買ったから使って!」
「嬉しいですけど、私何も用意してなくて…っ」
「気にすんな!頑張れよ!」
「風邪引かないようにねー!」
まともにお礼も言えないままコータローさん達も帰ってしまったけど、遠くからでもまた喧嘩してるのがわかる。うう、明日改めてお礼を言おう。
その後、香水のせいか赤羽臭いと言われ、駿くんにお店の消香スプレーをかけられた。赤羽さんを敵視しすぎだよ。まだアイシールド21って名乗ってたことを怒ってるの?そろそろ仲良くなってもいいんじゃないのかな。そう思いつつ呆れていると、また見慣れた人がお店にやってきた。
「花音ちゃーん!メリークリスマス!…っ、かァ~~想像以上に可愛い!」
「マルコくん!?」
「風の噂で、花音ちゃんがバイトしてるって聞いてね。遥々東京までやって来たよ」
「一体何処で得た情報なんだよ」
「それは秘密だっちゅう…ぶはっ!か、筧!?似合わねー!!」
「放っとけ!冷やかしなら帰れコーラ人間!」
「トナカイ人間に言われたくないっちゅう話だよ!」
どっちもどっちな気がするんだけど。マルコくんは私服…なのかな。相変わらずスーツが好きみたいだ。あとはお馴染みのコーラ。スーツ+コーラ=マルコくんといっても過言じゃない。その後ろでは、峨王くんもスタンバイしている。
…でも、駿くんの言うとおり、どんな情報網を使ってるんだろう。元マフィアのおじさまがバックにいると怖いです。
「ちゅーか、俺も一応客だからね。ケーキ貰える?」
「うん。一つでいいかな」
「ん~そうだな。アメフト部でパーティーする予定だし、3つ頼むよ」
「そんなにいいの!?ありがとう!」
「なーに、当然の「俺も一つくれ」
「え?峨王くんも?」
「弟妹用だ。俺は食わんがな」
「ふふ、ありがとう」
「…フン」
駿くんに包装を任せて、私は二人のお会計を済ませることにした。すると、ふとマルコくんが私のサンタ帽に触れた。何かついてたのかな?ときょとんとしていたら、何やら満足げに微笑まれた。
「うん。よく似合ってるよ」
「何かしたの?」
「コサージュを付けてみたんだ。丁度イヤーマフと合ってて良かった」
「えっ!貰っていいのかな。ありがとう。これはさっき赤羽さんに貰ったの」
「…ああ、よりにもよって彼ね。先越されたか」
「マルコばかりにいい顔はさせられんな。これもやろう」
「また生肉!?」
慌てて二人にお礼を言うと、どうってことはないと言わんばかりに笑って帰って行った。コサージュに気付いた駿くんは薔薇臭い、と不服だったけど。コロン付きなのかな。フェミニスト達の手によって、色んな匂いが混じっていそうだ。
今日のお給料を貰ったら、赤羽さん達やマルコくん達にもお返しに何か買いたいな。早めに終わるといいんだけど。
1/3ページ