36.関西オールスター
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「ほあ~ここが帝黒学園かぁ…」
王城とはまた別の豪華さを感じる学校だ。普通に入っていいのかな。届け物に来ましたとか、適当に誤魔化してなんとかなるといいんだけど。
とりあえず、アメフト部の人を探そう。月刊アメフトの内容を思い出しながら、私は辺りを観察した。関東ばかりみていたから、関西はあまりチェックしてないんだよね。有名なのは大和猛くんや本庄…
「鷹くん?」
あの長い髪と容姿からして、彼以外考えられない。噴水の前で読書する姿はすごく絵になってるけど、急に話しかけて大丈夫かな。偵察だとバレないよう祈りながら、私は恐る恐る彼に近づいた。
*****
「あの、すみません」
突然声を掛けられ、すぐに本から目を離して顔を上げた。花梨と同じくらいの背の、コートを着た女の子。私服のようだから、ウチの生徒じゃないんだろうか。彼女は綺麗な瞳を不安げに曇らせて、じっと俺を見つめていた。
「本庄鷹くんですよね?」
「そうだけど。何?」
「アメフト部って、何処でしょうか。会いたい人がいるんです」
なんだ。ファンか何かか。大和?それか、天間さんかな。真面目そうな子に見えたのに、少し冷めてしまった。でもそろそろ部活に出ないといけないし、構わないか。俺は読み途中の本にしおりを挟み、目線で合図をした。
「こっち」
「ありがとうございます!あの、他に他校の人は来ていませんか?」
「…?知らないけど」
「届け物に来たんですけど、見つからなくて困ってるんです」
どうやらウチの選手のファンだから、という訳ではなさそうだ。他校のマネージャーかな。今日練習試合があるなんて聞いてない…けど、急にやり出すのも考え得るな。未だに慣れない主将を思い出して溜息をつきつつ、もう一度彼女に視線を落とした。
「君、何処かのマネージャー?」
「え!?な、なんでそれを!?」
「なんとなく…っていうか、本当なんだ」
「ああああー!墓穴掘っちゃったー!」
がっくりしょげる姿がとても可愛くて、思わず噴き出してしまった。しょ、正直過ぎる。全く隠す気がないじゃないか。そんな俺の様子を見て、彼女は少しきょとんとしてから、何故か嬉しそうに笑った。
「本庄くん、笑えるんだね」
「そりゃ笑うけど…その呼び方、好きじゃない」
「名字嫌いなの?」
「…本庄二世とか呼ばれるのにうんざりする」
どうして俺は、出会ったばかりの子にこんなことを話してるんだろう。数秒前の発言を若干後悔していると、彼女はまた不思議そうな顔をして首を傾げた。
「本庄一世は誰?」
「…は?」
「ほんじょ…鷹くんは、有名人の息子さんなの?」
恐らく俺は、とんでもなく間抜けヅラをしていると思う。俺の父さんって、そんなに知名度なかったのか?いや、それなりにあるだろう。知らない人からも「本庄選手の息子さん」って声を掛けられるくらいだ。一応、名前を言えばわかるかな。
「本庄、勝」
「本庄勝って、そっか!あの関西アメフト連盟理事長さんの息子さんなんだ!」
「……うん」
合ってるけど。合ってるけど、俺の予想していた返答と違う。でも、それを嬉しいと思える俺がいた。初めてだ。本庄選手の、本庄二世の、とかいわれなかったのは。それだけでこんなに嬉しいものなのか。
にしても、なんか調子狂うなこの子。それ以前に俺は、彼女の名前すら知らなかった。
「君の名前は?」
「ごめんなさい。まだいってなかったね。水瀬花音です」
「何処の学校?一年?」
「うん。巨深高校の…あっ」
「巨深…知らないな」
「そ、そっか」
急にしゅん、としょげてしまった花音(…でいいかな。名前のほうが合ってるし)
面白いくらいコロコロ表情が変わる。可愛いな。そんなことを考えていると、いきなりガバっと顔を上げられ、思わず後ずさった。ビックリした。なんで急にそんな真剣な顔するんだ。
「来年は、ウチのチームがクリスマスボウルで戦うからね!」
「え、あ、うん」
何処のチームかも知らないのに、迫力に負けてそう答えてしまった。彼女はその返答に満足したのか、ふわりと花を咲かせたように笑って「絶対だよ」と付け足した。
一瞬、目を奪われた。風で舞う髪とか、笑みとか、全てが絵になるようで。普段はポーカーフェイスだといわれてるのに、今日はやたらと間抜けな顔をしている気がする。おかしい、俺。…何も知らない彼女を、抱き締めたいと思うなんて。
「鷹くん?」
「ごめん。部室はこっち」
巨深高校って何処の学校だろう。ぼんやりと記憶を巡っても、何も思い浮かばなかった。結果はわかっていたから、他校のアメフト部は詳しく見ていなかったし。でもクリスマスボウルでってことは、関東かな。彼女も関西弁じゃないし。いいな、花音に応援してもらえて。お疲れ様っていってもらえて。
…俺やっぱり、さっきから変だ。
「だーかーらー!!俺がクォーターバックやりゃいいんだっつーの!!」
「まぁまぁ…」
「ね、アメフト部ってあっちじゃない?」
「…うん。通り過ぎた」
「眠たいの?」
「そういうことにしておいて」
「ふふ、了解です」
可笑しそうに笑われたけど、そんなに悪い気はしなかった。この感じ、なんだろうな。花音といると温かい気持ちになって、心地いい。この笑顔をずっと眺めていたいくらいだ。
でも、その彼女の目線の先には、別の男性が映っていた。
「もしかして、さっきの人がイバラダさん?」
「ん…多分。人数が多くて、俺も把握仕切れてないけど」
「ふーん。そっか」
まだ彼を見つめている姿を見て、胸の奥がモヤモヤした。俺のさっきからのコレ、なんだろう。前に本で読んだ主人公に似てるな。ヒロインに片思いしていた、不器用な男。そうなると、俺は花音のことが…
「おーっす鷹ー!女連れとか珍しくね!?もしかして、またスカウト!?」
「…天間さん」
「つか、レベルたっけー!超俺好みなんだけど!君、名前は?」
「え、えっと水瀬花音です」
「花音ちゃん!愛してるぜー!俺の6番目の彼女になんない!?」
普段は流すところだけど、今日の彼の言動は許せない。ダメだ。他の子ならいいけど、花音だけは…
止めようと口を出す前に、花音が「6番目?」と呟いた。少し声のトーンが違う。視線を下げて表情を窺うと、彼女はやや冷めた目で天間さんを見つめていた。
「お断りします」
「えー!?大丈夫大丈夫!俺の中では「軽い人は嫌いです」
はっきりとそう答えた花音を見て、心底驚いた。てっきり花梨のように、もっとオロオロして戸惑うものかと思ってた。天間さんも同様の考えだったらしく、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。
花音はすっと息を吐いて、更に棘のある目で天間さんを睨んだ。
「そんな言葉に騙されるバカな女と思われるのは心外です」
「え、あの…」
「本気でもない癖に、簡単に愛してるなんて言わないでください」
…女の子をカッコイイ、と思ったのは初めてだ。凛とした花音はとても綺麗で、思わず見惚れるほどだった。こんなに何かに惹かれることなんてなかった。彼女は俺の中で、初めて見るタイプの素敵な女性だった。
ただ、あまりに夢中になりすぎて失態を犯した。こういう女の子が好きな彼が、この様子を見ていたことに気付けなかったんだ。
「…彼女は、まさか」
「花音ちゃん!?」
「セナくん!探したんだよー!」
「えっ、ぼぼぼ僕を!?」
「ヒル魔さんが持ってけっていうから。はい、これ」
「だ、だよね。ユニフォームね。わざわざありがとう」
「君はっ!君の名前は、花音で間違いないね!?」
「そ、そうですけど…」
セナくんというのが花音の探し相手だったのは、まだいい。しまった。確実に今のを見ていた。大和の好きな女性のタイプはなんだといっていた?
『しっかりした気の強い女性』
マズイ。大和の自信に満ちた目からして、これはどう見ても…
「絶対予告をしよう。必ず、俺のものにしてみせる」
「…はい?」
花音はドストライクだったらしい。思わず重い溜息を付いて、頭を抱えた。天間さんより、よっぽど厄介な敵を作ってしまった。花音は控えめに「彼がいますので」といったけど「そんなこと関係ないさ」と押し切っていた。
こちらはかなりのダメージが合ったのに、物ともしないあたりは流石帝王というべきか。でも、近すぎるだろ。どれだけ詰め寄ってるんだ。俺は彼女を引っ張り、強引に後ろへ隠した。
「鷹、邪魔をしないでくれ。俺はこれから花音と親密になるんだから」
「花音が困ってるの、わからないのか」
「友達だろ?応援してくれよ」
「ダメだ。花音だけは、絶対にダメ」
「…へぇ、鷹がライバルとはね。女子に興味ないんじゃなかったのか?」
「大和こそ、女の子は可愛いけどめんどくさいっていってただろ」
大和のしつこさは、よく知っている。だから俺が花音を守らないと。そんな使命感に燃え、いつの間にか花音が俺から離れていることに気づけなかった。
それに、彼女を連れ去ったのが花梨だなんて思いもしなかった。
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