34.絶対的な力
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「マルコ、いいのか」
「ん?何が?」
「花音といったか。最後まで見届けたが、態度は変わるだろうな」
「まあ、男相手には力で押し切るしかないからね。花音ちゃんには悪いけど、例え泣かれても嫌われても、俺は勝利だけに貪欲だ」
「フン。お前はよくわからん」
「…お前に言われたくないっちゅう話だよ」
そんな会話を峨王としたばかりだった。きっと彼女も、俺を嫌う。汚いものを見る目で離れていくだろう。覚悟はしていた。
…いや、してたけど。試合前のこんな時に会うなんて予想外だっちゅう話だよ。泥門にコーラを差し入れてる途中で、手前の応援席にいる花音ちゃんと目が合った。
「あ、あー…えっと、コーラ飲む?」
「うん。投げてもらっていい?」
普通に会話出来たことにホッとした。少し高めに投げると慌てていたけど、隣にいた筧が難なく受け取った。うん、ナイスキャッチ。QB舐めてもらっちゃ困るよ。こんな高いフェンス越しに投げて取れなかったら怪我しちまうから、最初から筧に向けて投げたんだ。
「泥門の応援だと思うけど、そんな中立的なところで応援するの?」
「うん。白秋も見に来たから」
「へーえ?俺のこと憎くて堪らないのに?」
自虐的にそういうと、彼女は大きな瞳を俺に向けた。ああ…その目。綺麗すぎて、汚い俺には眩しすぎるんだよ。どんな非難のオンパレードかと思いきや、発せられたのはあまりにも意外な言葉だった。
「それ以前に、マルコくんはお友達だから」
「…え?」
「私の知ってる、優しくてキザなマルコくんは応援するよ」
変わらず笑いながら、彼女はそういってくれた。…なんだよ、それ。俺のこと嫌いだって言ってくれて構わないんだよ。君の大事な人を無残にも潰したのは俺だ。そうやって、勝ち上がって来たんだ。
「―…これが、あなたの勝ち方なのね」
どんなに嫌われても、夢を…叶えるために…
「…怒るどころか応援って、お人好しにも程があるよ」
「あっ、怒るといえばマルコくん!小判鮫先輩とあの天狗鼻の先輩を一緒にするってどういうこと!?ふざけないで!」
「怒りどころそこぉ!?」
「はぁあああ!?お前ら東京大会で負けた雑魚のくせに!番場以上のゾウリム、シッ!?」
一瞬の出来事だった。天狗ちゃんに巻いてあった包帯をピンポイントに掠めて、舞い散らせた。あれは、ま・さ・か…銃弾?そういやこの子、キッドの一番弟子だったな。速すぎて肝心の銃が見えないってどういうことだよ。
そんな手品紛いの偉業をやってのけた彼女はというと、やけに冷たい目で天狗ちゃんを睨んでいた。
「…包帯増やしたくなかったら、黙っててもらえますか」
「うへぁあああ!?なんだあの女ヤバイだろおおお!!」
「そっか。天狗ちゃんは初対面だったな」
「ま、マルコくん!あの強く美しい女性は誰!?」
「あ~…お前もお前だよね」
普通の可愛い子も如月には不細工に映るけど、強い女の子ならモロタイプっぽいもんな。にしても、保護者の筧らの前で暴走するなんて。こんなに可愛らしいお姫様が、ただ黙って守られてるだけじゃないってのが面白い。
「彼女の言うとおりに頼むよ。あの子には敬意を払ってほしいな」
「な、なんであんなヤツに!」
「俺も峨王もお気に入りなんだよね」
「やはり、その辺の精気の少ない屑とは違うな。お前の従兄も、なかなかいい相手だったぞ」
「…!当たり前だよ!私の自慢のお兄ちゃんだもん!」
「はは、峨王にも相変わらずか」
ブラコン乙って感じだけど、どっちかというと甲斐谷のシスコンぶりのほうが目につくんだよな。それに峨王とも変わらず話すって、もういい子を通り越して怖いって。容赦なく潰したのコイツなのに。
呆気に取られつつ美女と野獣を見守っていると、お姫様のほうがやけに自信満々に言い放った。
「でも、クリスマスボウルに行くのは泥門だよ!ウチに勝ったんだから、このまま優勝してもらわなきゃ困ります!」
「やっぱ、なんだかんだ泥門寄りな訳ね」
「セナくんや栗田さん達も強くなったし、絶対に負けないんだから!」
「ああ。久々に腕が鳴る」
「今回は手加減しろよ?何度も間近で見たら花音ちゃんも「無理だな」
「…だろうね」
肩を落として、残りのコーラを一気に飲み干した。ふと視線を上げると、上手く蓋を開けられない彼女を見兼ねて、筧が代わりに開けてやっていた。あの二人は割と典型的だと思うんだよな。
女には愛。男には力。愛し愛されながらも相手を守っていく。理想っちゃ理想だ。俺もあんな風に…いや、今更遅いか。
「さ・て・と、行きますかね」
「稀に見ぬ好敵手だ」
「マルコくん!峨王くん!力は絶対だって、見せつけよう…!」
勝っても負けても、花音ちゃんはお疲れ様と笑ってくれる。俺を見捨てたりなんかしない。なーんて、思い上がりもいいところ。最悪ヒル魔は潰すことになるだろうけど、君だけはこんな俺でも…
「愛して、くれるかな」
小さく呟いた言葉は、周りの歓声に掻き消された。
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