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33.わずかな休息

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デフォルト名は「水瀬花音」です。
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「おめでとうございまーす!2等のこたつセット大当たり~~!」

「「こたつ?」」



カランカラン、と独特の鐘の音が鳴り響いた。毎度お世話になる商店街で、よく当てさせてもらっている福引き。旅行券とかは都合が合わなくて大家さんや近所の老夫婦にプレゼントしてきたけど、今日はなんとこたつが当たった。



「4人用かな。大きいね」

「んー…どう持ってくか。郵送じゃ高くつきそうだな」



ウチにはストーブしかないから暖房器具が増えるのは嬉しいけど、こんなに大きな家具を子供2人で抱えていくのは難しい。何より買い物した後で、両手も塞がってるし。どうしようかとりっくんと一緒に悩んでると、急にぽんっと頭を撫でられた。



「こんにちは。こんなところで会うなんて、奇遇だねぇ」

「………」

「「キッドさん!鉄馬さん!」」

「さっきの大当たりは君達だったのか。随分と大きな戦利品だね」

「はい。持ち帰れなくて困ってるんです」

「成程ね。鉄馬、持てる?」

「わー!すごーい!」



状況を理解した鉄馬さんは、大きなこたつが入った段ボールを軽々と持ち上げてくれた。そんな元気いっぱいの彼と違って、まだ痛々しいのがキッドさんだ。片腕にはギプスと包帯が巻いてある。



「お体は大丈夫なんですか?」

「なんとかね。心配ありがとう」

「また2人で飯作りに行きますよ」

「それは助かるよ。今も適当に夕飯を買いに行くところでさ」

「あっ!またハンバーガーとかお惣菜とかコンビニのお弁当じゃダメですよ!」

「はは、バレちゃってたか」



キッドさんは元々ズボラなところがあったけど、更に手を抜き始めている。ジャンクフードやコンビニご飯ばかりだと体に悪い。只でさえ骨が折れてるのに!むーっと睨みつけても、苦笑して誤魔化されるだけだった。どうしたらいいのかな…あ、そうだ!



「夕飯はお鍋にする予定なんですけど、一緒に食べませんか?」

「それは有難いけど申し訳ないっていうか、良すぎるとロクなこと「起こさせません!だから来てください!」

「…たまに強引で困るよ。でも折角だし、お言葉に甘えようかな」

「やったー!みんなでこたつに入りましょうね!」

「人数的にはピッタリだしな。この前貰ったみかんも出すか」

「…これには、入ったことがない」

「え、そうなんですか?」

「うん。俺と鉄馬は初めてだね。家も洋風だったからさ」

「私達も久しぶりなんです」



家に到着してすぐに、鉄馬さんがキッドさんの指示に従ってテキパキと机を組み立ててくれた。

その間に、私達は料理の準備を進めることにした。お鍋の具材はりっくんで、私は食後のデザート作り。でも準備した段階で、もう何を作るのか気付かれてしまったらしい。



「チョコブラウニーにするのか」

「うん。キッドさん達も好きらしいから」

「ならコーヒーのほうがいいな。あとは、花音用の紅茶」

「お、お手数掛けます…」

「そんな手間掛からないし、気にすんなって」



私以外はコーヒーだから、それに合わせて味を調整したほうがいいかな。少しアレンジを加えた生地をオーブンに入れると、タイミング良くキッドさんが完成したと報告に来てくれた。急いで見に行ってみると、かなり大きなこたつが出来上がっていた。



「ありがとうございます!電源入れてみましょうか。鉄馬さん、一番どうぞ」

「…いいのか?」

「はい。運ぶのも組み立てるのも頑張ってくださったので」



背中を押して促すと、おすおずと入ってくれた。丁度温かくなってきた頃らしく、心なしか少し嬉しそうに見える。続けてキッドさんにも勧めたら「これは温かいね」と笑っていた。



「洋室なのに、一気に和室みたいな雰囲気になったね」

「これが日本の伝統…というものか」

「ふふ、お茶をお出ししますね。ちょっと待っててください」



なんだか外人さんが初めて日本の家に来ました!って感じのノリで、思わず笑ってしまう。キッドさん達がこんな感じなら、パンサーくん達はもっとはしゃぐだろうな。久しぶりにエイリアンズ…じゃなくて、シャトルズのみんなに連絡したいかも。

そんなことを考えながらお茶を入れて戻ると、キッドさんがだらーんとしていました。鉄馬さんは全く姿勢を崩してないけど。そんなにこたつが気に入ったのかな。



「はい。お茶とみかんどうぞ」

「悪いね。あ~なんかここで一日過ごせそうだよ」

「ぽかぽかして眠くなっちゃいますよね」

「ねぇ」

「風邪を引くぞ」

「はーいテツママ!気を付けます!」

「………」

「お、怒ってます?」

「照れてるだけだよ」



まだ上手く鉄馬さんの感情が読み取れないけど、嫌がっていないなら良かった。まったりとお話していると、りっくんがコンロを持って来てくれた。私も手伝おうと立ち上がると、何故かお客さんである二人も台所へ向かおうとしていた。



「俺達は何を運べば「待ってください!キッドさんはダメです!鉄馬さんもお客さんですから!」

「む…」

「これくらい平気ですよ。あと花音、ケーキ焼けたっぽいぞ」

「本当?じゃあ、先に見てくるね」



ブラウニーは綺麗に焼けていたから、ラップをして包んでおいた。それからお皿や具材を並べると、机の上がいっぱいになってしまった。軽く6~7人前くらいはあるかな。ちょっと多かった気もするけど、育ち盛りの男子高校生が3人もいればすぐに無くなりそうだ。



「最初は普通の鍋で、後でトマト鍋にしようと思ってるんですけど」

「俺は構わないよ。というか、鍋自体初めてだからお任せで」

「お鍋も初めてなんですか?」

「うん。こういう大人数でつつく感じの料理は、あんまりしなかったから」

「じゃあ、鉄馬さんも?」

「ああ」

「二人とも初お鍋なんですね!今日は豚肉メインにしたんですけど、他にも色々と…」

花音、菜箸」

「は、はい!」



りっくんは料理モードになると、周りの会話が聞こえていません。ダシ作りのお手伝いをしていると、キッドさんと鉄馬さんが不思議そうにじーっと見つめていた。そんなにお鍋が珍しいのかな?

ダシが出来れば、あとは鍋奉行のりっくんにお任せ。これは出来てるとか、もうちょっととか、テキパキ仕分けしてくれたものを二人に渡した。



「はい、どうぞ。召し上がれ」

「美味しそうだね。でも、少し冷まさないと」

「あ、片手だと食べづらいですよね。お手伝いしますよ」



白菜を掴んで冷ますようにフーフー、と息を掛けてから口元まで持っていくと、きょとんとしたまま固まってしまった。あれ?白菜苦手だったのかな?



「さ、流石にそれは…子供じゃあるまいし」

「キッドは“子供”って意味でしょう?」

「そんな痛いとこ付かれても、ねぇ」

「怪我人なんだから甘えてください。はい、あーん」

「……あーん」



渋々といった感じだったけど、なんとか受け入れてくれた。子供扱いしてる訳じゃないのに、キッドさんって大人っぽいのか子供っぽいのかわからないな。

その様子を見て『止めたいけど今回は仕方ないだろ…!』とりっくんが葛藤していたことに、私は全く気づかなかった。



「鉄馬さん。次は白菜・大根・しいたけの順で食べてください」

「ああ」

「りっくん、私のも残しておいてね。つみれ食べたい」

「ちゃんと残してあるって。花音も冷めないうちに食えよ」

「はーい」

「…鍋ってのも、いいもんだね」

「はい。美味しいですよね」

「美味しいのはもちろんだけど、賑やかで楽しいから」



キッドさんは一緒にご飯を食べるとき、毎回こんな表情をする。嬉しいけど、寂しいって感じの顔。私はりっくんと一緒だからいいけど、一人暮らしって寂しいんだろうな。キッド子供と名乗りながらも、彼は十分大人だと思う。だって、キッドさんはいつも…



「…花音ちゃん?」

「あ、いえ。なんでもないです。次は何食べたいですか?」

「君が好きなつみれ、っていうの?それ食べてみたいな」

「美味しいんですよ。はい、あーん」

「あーん」

「くっそー!キッドさんに嫉妬とか、情けないぞ俺ー!」

「陸…頑張れ」



普通に食べた後は、りっくんがトマト鍋にアレンジし始めていた。彼の手に掛かれば、あっという間に洋風料理に早変わり!今度はジャガイモやにんじんをベースに煮込んでいる。  

…私もお菓子じゃなくて、お料理を極めたほうが良かったんだろうな。レシピ通りだけじゃなくて、アレンジ系も増やしていこう。
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