32.本音と涙
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「…?どちらさま、ですか?」
「急に押しかけてごめんなさい。私は氷室丸子。白秋のマネージャーよ」
突然の訪問者は、白秋のマネージャーと名乗る綺麗な女性だった。わざわざ家まで来てどうしたんだろう?と首を傾げていると、一枚のルーズリーフを渡された。白秋の試合結果が書いてある。そして、負傷した選手の名前や、その怪我が全治何ヶ月に及んだかも…
「申し訳ないけど、少し調べさせてもらったわ。西部の甲斐谷陸くんの従妹なんですってね。率直に言うと、貴女の従兄は潰される」
「………」
「大切な家族だって聞いてるわ。貴女が言えば、もしかしたら棄権を考えてくれるかもしれない。だから「それは出来ません」
「出来ないって、太陽戦観ていたでしょう!?それでもっ!」
「今まで危ないことは私がやめてって言ったらやめてくれました。でもアメフトに関しては、ダメなんです」
りっくんは昔から危険なことは全部自分が引き受けて、私を守ってくれた。そんな彼も、止められる範囲なら止められた。駄々をこねれば、いつも向こうが折れて諦めてくれた。
それでもダメなんだ。アメフトだけは、何を言っても絶対に…
「わかってます。潰される可能性のほうが高いって。わかって、ますから」
「…ごめんなさい。マルコさえ、ああならなければ」
「いえ…でも、良かった。マルコくんは大切な人なんですね」
「急に、どうしたのかしら」
「ただの直感ですよ」
なんとなく彼を想っている時の顔を見てそう感じた。嫌ってる訳じゃなくて、本当にどうして?なんで?って悲しんでるような…昔のマルコくんは愛していたのに、って顔だったから。否定をしないってことは、この推測は合ってるんだろう。
「彼の生き方を否定はしません。力に屈した時、そこには何も残らない。それは絶対です。ただ、僅かな希望が与えられたなら…また歩き出せる」
「………」
「見捨てないであげてください。まだマルコくんのことが、大切なんですよね」
「変なところでバカだから、気づいてないんじゃないかしら」
「ふふ、そうかもしれませんね」
「貴女も、ね」
「え?」
「マルコに似てるわ。この前、峨王に向けた酷く冷たい瞳なんかそっくりだった」
太陽戦の、あの時かな。りっくんに何かあったらって必死だったから、どんな顔をしていたかはわからなかったけど…マルコくんと同じ目。最初に会った頃のように、冷たくて悲しい瞳をしてたんだ。
「でも貴女は、話していて違うと思ったわ。とても優しい子ね」
「わ、私はそんな…!」
「峨王だけじゃなくマルコも敵になるっていうのに、彼まで心配するなんて。お人好し、のほうが合うかしら」
「友達なんです。確かに似てる部分もあって、放っておけなくて」
「私は彼と違って、全てを調べた訳じゃないわ。でも、貴女なら大丈夫。きっと、マルコと違った勝ち方で進めるはずよ」
「…ありがとうございます。あと出来れば、貴女じゃなくて名前で呼んでほしいです」
「名前?…花音ちゃん、でいいかしら」
「はい。貴女なんて言われると気恥ずかしくて」
「わかったわ。ここまで来て良かった。ありがとう、花音ちゃん」
「こちらこそ、ありがとうございます」
彼女はとても優しくていい人だった。後々りっくんのハンカチを返してくれたから、本人にも直接忠告してくれたんだろう。
マルコくんのやり方は間違ってない。一般的には卑劣だとしても、勝つための選択肢としては正しい。たとえ、りっくんやキッドさん達が傷つくことになっても…
「信じてる、よ…陸」
私に止める権利はない。ただ、信じるしかない。こんなに不安な夜を過ごしたのは、お父さんの事故以来だった。
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