31.glory on the kingdom
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Bブロックの決勝当日。あいにくの雨で、少し早めに会場に向かっていると、見覚えのある子供達を発見した。
「何すんだよ!傘壊れたじゃんか!」
「どないすんねん!試合前やで!」
あの車いすに乗った子とか、王城戦や学園祭に来ていた気がする。桜庭さんの知り合いかな?このままだとびしょ濡れになって、全員風邪引いちゃう。私は急いで、その子達の元へ駆け寄った。
「はい。傘とタオル、良かったら使って」
「え!?そんな、ええって!姉ちゃんが濡れてまうやろ!」
「いいのいいの。私も桜庭さんのお友達だから」
「桜庭の?」
「うん。だから、貴方達ともお友達ってことで。風邪引かないようにね」
「ちょっ、お姉さーん!」
屋根のある場所まで距離はあったけど、走って待ち合わせ場所へ向かった。まだ駿くんしか来ていないようだ。彼はすぐ私に気づき、タオルを掛けて拭いてくれた。慌てて止めようとしたけど、もう手元にはハンカチくらいしか残っていなかった。
「なんでこんなに濡れてんだ。傘はどうした」
「えっと、壊しちゃって」
「壊した?タオルは?」
「わ、忘れてきちゃって…」
「………」
あげたなんて言ったら怒るかなーと思って咄嗟に嘘をついたものの、どっちにしろ怒られそうな雰囲気だ。今はかろうじて軒下にいるけど、試合が始まったら困るな。少し傘に入れてもらったとしても、その分駿くんが濡れちゃうだろうし。
とりあえず、筧先生に怒鳴られる前に耳を塞ぐべきでしょうか…?
「おったー!そこの姉ちゃ~ん!」
「え?あ、さっきの子供達」
「虎吉や!やっぱ傘もタオルもええよ!姉ちゃんが濡れてまうし!」
「それ、花音の…?」
「ううん。虎吉くん達が使っていいよ」
「アカンて!桜庭の彼女に風邪引かせられへん!」
「「彼女!?」」
お、おかしいな。ちゃんと友達って言ったよね?混乱しつつ言葉を探していると、駿くんが固まったまま私を凝視していた。ななななんか確実に勘違いしてそうなんだけど!
「い、いつの間に彼女になった!?」
「違うよ!友達って言ったのに!」
「でも桜庭のファンやなくて、友達っていうた女の子は初めてや!だからホントのところは彼女「違うってばー!」
この前の大田原さんといい、なんでこんなに勘違いされるんだろう。桜庭さんだっていい気はしないと思うし、この内容を聞かれたらファンの子に殺されちゃうかもしれない。今更だけど、友達なんて図々しかったのかな。
「とりあえず、花音。傘は返してもらえ」
「そんな!それだと、この子達がっ!」
「ほら、お前らは俺の傘使えよ」
駿くんは自分の傘を広げて、虎吉くんに手渡した。確かに私の折りたたみ傘と違って大きいから、子供2、3人くらいなら入れるはずだ。でも、いいのかな。見たところ、傘くらいしか雨具は持ってなさそうなのに。
「駿くんは大丈夫なの?」
「花音が体張ってんのに、俺が何もしない訳にはいかねぇだろ。第一、女子供に風邪引かせられっかよ」
「つ、つり目の兄ちゃんかっけーー!!」
「わかった!えっと、花音姉ちゃんの彼氏こっちなんやな!」
「どっちも違います!彼は私のお友達の、筧駿くん」
「筧ー!かっこええで!」
「呼び捨てかよ」
「はい。優しいお兄ちゃんにありがとうって言おうね」
「「「ありがとう!!」」」
「…先に花音に言えって」
続けて私にもお礼を言われたけど、最終的に体を張ってくれたのは駿くんだ。私の傘じゃ半分こしても濡れちゃうし、素直にこの男気に甘えるしかないのかな。見た目で怖いって誤解されやすいけど、根は真面目で優しい人だもんね。虎吉くん達も最初は少し怯えてたけど、すっかり懐いたみたいだ。
「花音姉ちゃん達も、王城の応援するん?」
「うーん。一応泥門寄り、かな」
「ええー!桜庭の友達って言ってたのにー!」
「お姉ちゃん達の学校は泥門に負けちゃったから、出来ればこのまま勝ち続けてほしいの」
といいつつ、西部戦や盤戸戦は微妙にしてなかったんだけど。神龍寺戦の後から、やっぱり勝ってほしい気持ちが強くなった。何より、りっくんがセナくんとの再戦を望んでいるから。王城や白秋の選手達には申し訳ないけど、決勝の理想は二度目の西部VS泥門なんだ。
「んーまぁ、しゃーないな!花音姉ちゃんと筧は優しいから許したるわ!」
「…何様なんだこいつ」
「まぁまぁ、子供の言うことなんだから」
「でも、ぜーったい王城が勝つでー!俺ら一生懸命応援するからな!」
「ふふ、頑張ってね。桜庭さん達によろしく」
「「「おう!!花音姉ちゃん、筧兄ちゃんありがとう!!」」」
子供達は元気良く、王城側の応援席のほうへ走っていった。その後、入れ替わりのように健悟くんと小判鮫先輩がやってきた。
「傘持ってたらビデオ撮れないでしょ?俺のレインコート着る?」
「でも、小判鮫先輩が濡れちゃいますよ!」
「いいよ気にしないで。ちょっと大きいかもしれないけど」
「じゃあ俺は、花音ちゃんのほうに傘差してんねー!」
「なんでみんな、そんなにカッコイイんですかー!!」
駿くんだけじゃなく、周りはみんな紳士ばかりだった。申し訳なさもありつつお言葉に甘えて、完全防備で空いている席に座った。これ以上、雨が強くならなければいいんだけど。濡れないようにビデオカメラを補強してから、いつものように録画スイッチを押した。
「雨天ながらも決行。泥門VS王城…試合開始です」
*****
「あ、りえねぇ…っ」
「…これが、駿くんが超えるっていった化け物だよ」
前半一番の見どころになった、セナくんと進さんの一騎打ち。あまりに衝撃的な展開に、会場にいる全員が息を飲んだ。
進さんが光速の世界へ…人間の限界である40ヤード4秒2の世界へ入った。純粋なスピードとパワーを持った完璧なプレイヤー。彼の努力の全てがそこにあった。
「進は…俺の見たアイシールド21と互角か、それ以上の相手だ」
「この前の発言、撤回しようって思った?」
「そりゃ俺は、身長くらいしか勝ってねぇよ。でも、今更そんな格好悪い真似出来るか。勝つまで必死にもがいてやるよ」
「…うん」
雨で視界が悪くなっても、視線を落とすことは一度もなくて。もし試合に出れるものなら、今すぐにでも戦いにいきたいって様子だった。どんなに難しいとわかっていても、この夢を諦めない姿勢が羨ましくて仕方ない。
「ー…前半終了。13対6で王城がリードです、っと」
「っくし!」
「だ、大丈夫?」
「ああ。花音は?」
「私はお蔭様で、そんなに濡れてないよ」
試合の途中で土砂降りになってしまい、タオルしか掛けていない駿くんや、雑誌でガードしていた小判鮫先輩はかなり濡れてしまった。健悟くんに至っては脱いじゃうくらい元気だけど、やっぱり心配だ。
…こんな悪天候で試合してる選手達のほうが、よっぽどキツイんだろうけど。
「ん?水町のやつ何処行った?」
「そういえば、見当たらないね」
『さて、フィールドでは、有志によるチアリーディングのハーフタイムショーが行われています!』
「「…まさか」」
“ギュイーンッ”
「お前らかよ!!」
「何この妙な即席コンビ…」
「筧もやろーぜホラ!!」
「やらん!」
「あはは…」
健悟くんがダンスで赤羽さんがギター担当という、謎のバンドが誕生した。続いて私も勧誘されたけど、丁重にお断りさせてもらった。確かにボーカルは必要かもしれないけど、こんな大勢の前で歌う勇気はありません。
あと、健悟くんがいつチアの衣装を準備したのか気になるけど、最初から踊る気満々だったのかな。今度から荷物チェックもしておこう。
「ごめんね。ちょっとお手洗いにいってきます」
「ああ。荷物持っててやるから、迷わないようにな」
「うん」
駿くんに荷物を預けて、一旦その場を離れた。試合が始まる前に戻らないと。それにしても、
悶々と考えながら来た道を戻っていると、サングラスをかけたおじさんが辺りをうろついていた。もしかして、迷ってる…?
「どうかなさったんですか?」
「え?あー、場所がよくわからなくてね」
「試合を観に来られたなら、入り口はこちらですよ」
「ありがとう!いやぁ、初めて来たもんだからさ!」
「ふふ、そうですか。どちらの応援に?」
「どちらの、というか…純粋に試合を観に来たって感じかな」
とても気さくなおじさんだった。何処かで見たことがあるような気がするんだけど、気のせいかな。軽く話をしながら歩いていると、後ろからアメフト協会の理事長さんが走ってきた。
「マサ!何やってんだお前は!」
「ああ、悪い。迷っちゃって。こちらのお嬢さんに助けてもらったんだよ」
「…?理事長さんとお知り合いなんですか?」
「知り合いっていうか、俺は関西の理事長だから」
「えっ…ええええ!?おじさんが!?」
この人が、関西アメフト協会の理事長さん。だから見覚えがあったんだ!…って、いきなりおじさん呼ばわりするなんて失礼過ぎる!ぺこぺこ頭を下げて謝ると、気にしないでと笑ってくれた。ああ、いい人で良かった。その後、私のことを聞かれたから、簡単に自己紹介をさせてもらった。
「そうか、花音ちゃんね。息子と同い年か。えーと、巨深っていうと…」
「残念ながら東京大会で敗れてしまったが、ベストイレブンの選手が二人いてな」
「はい!自慢のチームです!」
「おっ、逞しいな。自信があるのはいいぞ!そういうチームこそ伸びる!」
そういって関西の理事長さんこと、本庄さんがぽんぽんと頭を撫でてくれた。なんていうか、お父さんって感じだ。私のお父さんはどちらかというと、武蔵さんみたいに口数は少ないけど見守ってくれる人だから、なんとなく嬉しい。こういうタイプもいいなって思う。
「君、さっきから携帯のバイブが鳴っているようだが」
「ああー!もう後半始まって…す、すみません!お先に失礼します!」
「いや、悪かったね。ありがとう」
「こちらこそ!失礼致します!」
ぺこりと頭を下げてから、観客席まで急いで走った。後半開始5分で、駿くんから5件も着信があるなんて…1分おきに掛けてるの?迷子じゃないのにー!
もちろん、経緯を説明してもネチネチ怒られました。途中まで撮ってくれてたけど、この音声も入っちゃってるだろうな。…後で消しておこう。
「なぁ、キヨさん。俺ってそんなに知名度ないか?久々におじさん呼ばわりされたぞ」
「ははは、引退後だし仕方ないんじゃないか。アメフトしか見てないようだしな」
「でも、もし例のアレを頼むなら花音ちゃんがいいな。いい子そうだし」
「マネージャーとしても優秀だと聞いている。考えておこう」
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