30.選択と決意
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「すっげー!!城みてぇ!!」
「つーか、城だな」
「内装もかなり豪華だったよ」
「マジ!?中も!?」
「うん。受験前に、見学も兼ねて見て回ったから」
お休み許可を取って、三人で王城高校にやって来た。この学校は、広い敷地の中にお城という名の校舎が建っていて、とても煌びやかだ。
校門には赤絨毯が敷いてあり、そこからたくさんの出店が出ていた。すごーい!楽しそう!美味しそう!と、キョロキョロ見回しながら歩いていくと、早々に知り合いの姿を発見した。
「いらっしゃいませ!お一ついかがですかー?」
「小春ちゃん!わー可愛い!お菓子売ってるんだね!」
「うん。いらっしゃい。花音ちゃんも良かったらどう?」
「じゃあ、これください。ロケットベアが好きな友達にも見せたいんだけど、写真撮ってもいい?」
「いいよ。これが一番上手に出来てるかな」
「おおー!剣みたいなのもあんじゃん!かっちょいー!」
写真を撮ってから、何個かお土産に買ってみた。健悟くんが持ってるのは剣の形になっていて、かなり凝ってる。一切躊躇せずに食べちゃうと勿体ない気もするけど…
あれ?あっちには桜庭さんと大田原さんがいる。お弁当屋さんかな。
「桜庭さーん!」
「花音ちゃん!いらっしゃい。遊びに来てくれたんだ」
「んん?なんだ、桜庭の彼女か?」
「ななな何言ってるんですか!この子は進の知り合いで…そういえば、大田原さんにはまだ話したことなかったですね」
「ばっはっは!わかったぞ!進の彼女か!」
「「「「違いますって!!」」」」
思わず、桜庭さんも含んだ長身組と同時に突っ込んだ。おバカさんとは聞いていたけど、ここまで話が通じないとは思わなかった。失礼だから誤解を解こうとしていると、急に誰かに引っ担がれた。
「きゃあっ!?」
「花音!うわっ!」
「まさか…うぐっ!」
「ああ。すまん」
謎の騒動が起きている桜庭さん達のお店から、どんどん遠ざかっていく。状況が理解出来ずにぽかーんとしていると、頭上で落ち着いた声が聞こえた。
「…間に合ったか」
「進さん!?」
「大田原さんは悪い人ではないが、放屁の異臭だけはどうにもならなくてな」
「は、はぁ…大変ですね」
被害を受けないように、進さんが急いで助けてくれたのかな。女の子に大して俵担ぎはどうかと思うけど、多分男でも女でも関係ないんだろう。
その状態で移動した後、ようやく降ろしてもらった。学園祭で騒がしいはずなのに、遠くまで来るとこんなに静かなんだ。お礼を言うと、続けてベンチに座るように促された。
「今、時間は構わなかったか」
「はい。今日は進さんのために来たようなものですし」
「…そうか。まず、礼を言いたい」
「こちらこそ、お誘い頂きありがとうございます」
「その件もあるが、
「助言って…バリスタは、進さんが攻撃に加わる戦術なんですか?」
「………」
「あっ、試合前なのに私「そうだ」
そうだ、って…私にバラしちゃっていいんですか。でも、進さんは一年前の会話を覚えていて、本当に実現してしまったってこと?律儀というか真面目というか、彼は守備だけでも十分凄かったというのに…
「両面で出るってことですよね?」
「ああ。サポートしてくれたことに感謝している」
「きっとすぐに完成してましたよ。現に貴方は、自分の力で光速の世界へ入ったでしょう」
「わかるのか」
「憶測です。無闇に答えちゃダメですよ。もしかしたら私、泥門のスパイかもしれないじゃないですか」
「水瀬は巨深のマネージャーだ。そのような真似はしない」
「…随分と、過信しますね」
「もしお前が王城にいても、変わらなかったはずだ」
王城にいれば、か。王城を選んでいたら、また別の道へ進んでいただろう。真面目に聞かれたら、私もりっくんのように教えてしまったと思う。アメフト部と関わりたくないって言いながら、やっぱり関わる運命だったのかな。
…それにしても、この言い方。彼と話すたびに、一つ気にかかることがあった。
「進さんは、私が王城の推薦を蹴ったこと…怒ってますか?」
「そういうつもりではない。ただ、残念ではあった」
「折角受験も応援してくれたのに、ごめんなさい。でも、これで良かったと思っています」
「ならばいい。自分で選んだ道を、後悔しているようでは困る」
少し話した程度なのに、私をどう評価しているんだろう。見た目よりは強いとは言われるけど、進さんと同等くらいに思われている気がする。
…早めに誤解を解いておいたほうがいいよね。元々こういう人かもしれないけど、万が一のこともあるし。
「あの、過大評価しすぎだと思いますよ」
「水瀬は、誰よりチームのために動ける人間だと直感で感じていた」
「ええ!?そんなっ、私なんかとても!」
「謙遜する必要はない。お前は十分にやっている。手の怪我も、いつまで経っても治っていないだろう」
「ペンだこくらい誰だって出来ます!」
覚えるためには、ひたすら書くしかない。凡才の私が出来ることなんて、ただ知識を溜めることだけだ。特に進さんに出会った時は、成績に響く試験前で、ペンを持つのも辛いくらい勉強していた。
そんな姿を見て、チームや選手に尽くすと思ったのかな。でも、凄すぎる天才に褒められると、どうしていいかわからなくなる。だって彼は、私にとって…
「し、進さんは私の憧れなんです!」
「俺が?」
「はい。進むって漢字の通り、真っすぐで一直線で。私も貴方のように頑張りたいです」
「俺に憧れる必要はない。自分なりに進めばいい」
「っ、はい!わかりました!」
駿くんとはまた別の意味で先生みたいだ。私こそ、こんなに助言を頂いていいのかな。嘘は付かない人だろうし、こうして応援してもらうと元気が出る。誘われた時は驚いたけど、遊びに来て良かったな。
「たくさんお話出来て嬉しいです。更に励ましてもらって、本当にありがとうございます」
「…水瀬は、面白いな」
「へっ!?な、何か変なこと言いましたか!?」
「話が出来て嬉しいなど、初めて言われた」
「すぐ口に出てしまうので、不快に思われたらすみません。でも、皆さんそう思ってると思いますよ。私も進さんが面白くて好きです」
「俺も面白いのか?」
「はい。一緒にいて楽しいですよ」
へらっと笑うと、やけに難しい顔をされた。失礼だったかな。若干ズレてるところや、天然なところが面白くて好きなんだけど。
これって褒め言葉じゃなかったのかな?今度こそ怒りのトライデントタックルされたら、死んじゃうかも…!?と、焦っている私とは対照に、進さんの表情はだんだん穏やかになっているように見えた。
「…よくわからないが、温かいな」
「そうですか?日に日に寒くなってきましたけど」
「気のせい、か。礼を言いたかっただけなんだが、長居させてすまなかった」
「私こそ、お時間を取らせてごめんなさい」
「筧達と来ていただろう。そこまで送ろう」
「一人でも大丈夫ですよ」
「もうこの校内を把握しているのか?」
「た、確かに迷子になりそうですね。ちょっと待ってください」
どちらかに連絡を取ろうとしたら、駿くんと健悟くんから交互に連絡が来ていた。「助けてくれ!」とか「へるぷーーっ!」と危機迫ったメッセージまで残っている。ど、どういうこと!?何が起こってるの!?
「進さん!筧くん達が大変みたいなんです!」
「では、俺も探索を手伝おう。筋肉の断面図なら把握している。あの高さと筋力がある人間は、そう何人もいない。すぐに見つかるはずだ」
「かなり不思議で変なこと言ってますけど、非常に頼もしいです!ありがとうございます!」
それから二手に別れて校内を回り、一生懸命名前を呼んだ。何処に行っちゃったんだろう。あの二人が助けを求めるなんて…私が止められるかもわからないのに。自分でなんとか出来ない範囲ってことは、相当危ない状況に違いない。
「「花音(ちゃん)ーー!!!」」
「駿くん!健悟くん!どうしたの!?」
ようやく姿が見えたと思ったら、勢いよく横切って私の後ろへと回った。何から逃げてるのかと思って前を見ると、神龍寺のサンゾーさんがいた。サンゾーさんが、彼らを追い詰めていた犯人…?
「私の友人にご用ですか?」
「ホホホ…いい男ウォッチングしてただけよぉ。あー見れば見るたび、良いわねぇ。筧クンと水町クン。その服の上からでもわかる胸筋といい、長身でイケメンってス・テ・キ!貴方達すっごくタイプよぉ~っ」
「だーかーら!!俺は花音ちゃんが好きです!!花音ちゃん一筋ですっ!!」
「おおお俺も花音が、す、好きで…っ」
「そこは私じゃなくて、普通に女の子がって言えばいいんじゃないかな」
「そんな鈍感な子は放って、メアドとケー番教え「「断るっ!!」」
若干オカマっぽい気がしてたけど、駿くん達を狙っていたとは思わなかった。でも、この前の練習試合のハーフタイム中に「…すげぇ変な目で見られてる気がする」とか「変なとこ触られたー!お婿にいけない!」とは言っていた。特に耐久性がなさそうな駿くんは、真っ青で血の気がない。
この人は、私の友達に何をしようとしてるんだーっ!!
「俺の身も心も花音ちゃんに捧げてるんで、そんな目で見ないでください!!」
「やぁねぇ、そんな目ってどんな目よ」
「冗談でも嫌なのに、あのオカマ目がマジだ…っ」
「そんなに怯えなくても、悪いようにはしないわよ」
「これ以上危害を加えないでください!!せめて私に「興味があるのはいい男だけなのよねぇ~」
「ううう…!」
女であることが、これほど役に立たない日がくるなんて。駿くん達は怯えながら私を盾にし始めたけど、流石に無理がある状況になっている。この二人が隠れられるサイズって、栗田さんや峨王くんくらいじゃないかな。普段私を守る!って意気込んでいるけど、そんな余裕もないらしい。この鳥肌は、気候的な肌寒さのせいじゃないよね。
…ここはどんな手を使ってでも、私が彼らを守ってあげなくちゃ。
「こっそり雲水さんの写真持ってるの、本人にバラしても「いやああああ!!なんで知ってるのよぉおおお!!」
「各校何人かの弱点は把握してます!!嫌なら今すぐ立ち去りなさい!!」
「お、覚えてらっしゃいーー!!」
「やっべー!!超かっけーっ!!」
「これほど味方で良かったと思ったことはねぇな…ヒル魔寄りになってるのが不安だけど」
「はい。もう大丈夫だよ。よしよし」
「うあーもっと撫でてー!!花音ちゃん補給させてー!!」
「…今日撫でてもらうのは、なんか安心する」
大型犬を同時に撫でてるような感覚だけど、ちゃんと人間です。そして落ち着いたところで進さんと再会して、お礼を言った。これからアメフト部の公開練習もあるのに、迷惑ばかり掛けてしまった。必死に謝っても「気にするな」の一点張り。逆に、進さんが調理を手伝ったという、白騎士亭のお弁当まで頂いてしまった。
私の中の男前ランキング、堂々一位ですよ進さん!カッコイイ!憧れる必要はないといいつつ、やっぱり貴方は素敵です!
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