3.従兄妹
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「そろそろ力量も試したいし、他校と練習試合を組みたいところですね」
「え、ああ、そうだね!俺も言おうと思ったんだけど!」
「小判鮫さんそればっか…」
水瀬の返事を待ちつつ小判鮫先輩達と打ち合わせをしていると、後ろから「すみませーん」と小さな声が聞こえ、振り向くと水瀬がドア付近でちょこんと立っていた。…まだ水町が来てなくて良かった。きっとまた抱き着くだろう。
「ああ。とりあえず座れよ」
「え、そんなお構い無く」
「コーヒー飲めるか?」
「ごめんなさい。私苦いのダメで…」
「なら渋谷ちゃんが間違えて買った紅茶があるから、これ使うといいよ!うん!」
「ありがとうございます。えっと、」
「俺は一応主将の小判鮫!シクヨローね!」
「はい。よろしくお願いします。小判鮫先輩」
「こ、ここここちらこそ…!」
「ほら、水瀬。どうぞ」
「ありがとう」
適当に茶菓子を出しつつ紅茶を淹れると、水瀬は柔らかくお礼をいった。そして砂糖を大量に入れ口に含むと、すぐに泣きそうな顔をしてカップを置いた。どうやら猫舌らしい。
「急かすようで悪いけど、返事をしに来てくれたのか?」
「あ、そうなの。ごめんなさい。のんびりしちゃって」
「あはは、いーよいーよ~!で、ジャーマネの件はどうかな?」
「それが、従兄がですね」
「例のアメフトやってるってヤツか?」
「うん。その彼が、ウチと張り合えるくらいのチームなら考えてもいいって」
「…へぇ」
「ご、ごめんなさい。プライド高い人で」
「気にしない気にしない!ちなみに、その従兄くんは何処の学校だったりする?」
会ったこともない相手に、完全に舐められているようだ。水瀬の従兄というから真面目かやんわりしたタイプと思いきや、真逆らしいな。一体何処だ?この辺の強豪なら王城、柱谷。もしくは全く別の…
「西部高校。西部ワイルドガンマンズです」
「せ…」
「西部ぅううう!!?」
驚いた。まさかあの西部とは。春大会であの王城と接戦だった西部ワイルドガンマンズ、か。ということは、完全な攻撃スタイル。俺達守備がなんとかすれば、水瀬をマネージャーに出来るかもしれねぇ。
「面白ぇ。受けて立ってやる」
「う、うん!俺も言おうと思ってたんだ!で、えっと、試合はいつ頃って?」
「明日でも明後日でも、いつでも来い。だそうです」
「なら明日にしよう。早い方がいい」
「そうそう俺も…って明日ぁああ!!?」
*****
「どーも。本日はお手柔らかに」
「あは、あはは…こちらこそ」
グラウンド整備をしていると、続々と西部の選手がやってきた。ざっと30人くらいか。ウチのほうが多いな。その中でも、この早撃ちキッドと鉄馬が厄介なんだが。肝心の水瀬の従兄、ってのはどいつだ?スポーツ的にごつい選手が多いけど、水瀬に似てるヤツは…
「ところで、こちらにあのお姫様は「キッドさーん!」
「あらら、いたいた。花音ちゃん久しぶり」
「はい。お久しぶりです」
「よしよし、いい子だね。お土産あげるよ」
と、何故か大量のまいう棒を渡してきた。…この人、舐めてんのか? でもこの人は水瀬の従兄じゃなさそうだな。とても喧嘩売りそうなタイプには見えねぇし…
「くぉらキッドー!」
「あ、やば。監督カンカンじゃないの」
「花音ちゃんには、こっちのキャンディの詰め合わせをやれって言っただろうがー!」
「それ部費で買ったやつじゃないですか~俺は個人的に…」
「つべこべいうなー!ったく、ほら花音ちゃん。西部からお土産だよ」
「わぁ、こんなに。ありがとうございます」
「いいのいいの!またいつでも応援に来ていいからね!」
「はい。また機会があれば是非」
……とりあえずわかったことは、西部は水瀬に甘すぎる。砂糖に蜂蜜掛けたくらい甘すぎる。部費からってなんだおい、そんなんでいいのか西部…!
「にしても、またアイツは遅刻か…!」
「はは、花音ちゃん起こさなかった?」
「起こしたんですけど、私もお手伝いに行くところだったので…そういえば鉄馬さんは?」
「あーちょっと指令ミスで、巨深中学校のほうへ行っちゃったみたいでねぇ」
「ンハッ!花音ちゃん来てくれたんかー!何それお菓子ー?」
「きゃっ!?」
「おい、水ま「いっ!!でーー!?」
一瞬の出来事だった。水瀬に抱き着いた水町の後ろに高速で回り、腕を捻って彼女から離れさせた。それも水瀬と変わらないくらいの、小柄な銀髪の少年が…
「…花音に触るな」
「りっくん!離してあげて!」
「このバカ花音!お前もイヤって言わないから、こういうのが付け上がるんだ!」
「悪い人じゃないよ!と、友達だよ!」
「お前にいきなり抱き着いて潰すコイツの何処が友達だ!」
「ストップ。陸も手離して、謝りなさい」
「でもキッドさん、コイツが…!」
「流石に自己紹介の前でこーいうのはねぇ。礼儀がなってないよ」
「…失礼しました。1年、甲斐谷陸。花音の彼氏です」
「へ?花音ちゃんの…カレ、シ?」
何故か、鈍器で殴られたような衝撃があった。そして水町が珍しく固まって黙った。あの水町が、だ。彼氏と名乗った甲斐谷が差し出した携帯には、水瀬と撮った仲睦まじい2ショットが映っていた。
…コイツが水瀬の彼氏か。意識すると胸の奥がモヤモヤした。どうした俺…今はそんなこと関係ねぇだろ。とにかく水瀬をマネージャーにするために、従兄と話付けねぇと。
「で、水瀬の従兄は?」
「あ…じゃあ、キッドさんです」
「いや、じゃあって。それならもっと先に教えるだろ」
「え、えっと…本当は鉄馬さんで…!」
「お前、従兄を名字で呼んでんのか?」
「それは、その…」
「…情けないぞ、花音」
「もー!りっくんのせいなんだからね!」
そういって水瀬が怒ると、甲斐谷が呆れつつも宥めていた。なんつーか彼氏っていうより、コイツのほうが兄っぽいような気がしないでもないけど…
「…俺だよ」
「は?」
「え?だって、花音ちゃんの彼氏じゃ…?」
「って、初対面の人には言ってるけど…りっくんこと陸が私の従兄です」
そういわれて、ふと肩の荷が下りた気がした。さっきからなんなんだ俺は。でも確かに、この中で一番似てるのは甲斐谷だった。身長的にも整った顔からしても、近いと言えば近い。
「えええー!ひっでーじゃん!何それ!」
「花音はしょっちゅうナンパされるから、断るときに楽なんだよ」
「世の中変わった人も多いからね」
「いや、花音が可愛すぎるせいなんだけどな」
「りっくんだってカッコイイから、よく逆ナンされるくせに」
「あれ?何このらぶらぶな感じ」
「この二人はいつもこんなんだよ」
と、やんわり返すキッドさん。とりあえず、この従兄妹は異常すぎるほど仲がいいらしい。確かに、何も知らなかったら恋人に見えなくもない。現に一瞬、騙されたからな。
すると、急に水町がハッとして、何故か敬礼をした。
「シツレーしましたオニーサン!!花音ちゃんを俺にください!!」
「花音。マネージャーの件却下な」
「ええ!?まだ何もしてないよ!?」
…しかし兄のほうが依存気味らしい。こういうのなんつーんだったか。ああ、そうだ。sister complex…シスコン、か。なんで水瀬が躊躇してたかわかった。絶対渡す気ねぇぞコイツ。
それでも、巨深にはどうしてもほしい人材だ。あれだけの腕を持って、応援するといってくれた彼女を手放すのは惜しい。
「水瀬をマネージャーにするために、今回は一年も隠さず全力で行きましょう」
「そうそう!俺も言おうと思ってたそれ!うん!」
「っしゃー!花音ちゃんのために頑張んぞー!!」
「高波(ハイウェーブ)準備はいつでも出来てます筧先生ー!!」
「すぐにでもヤツらを止めましょう!!」
「その前に先攻で攻撃だからラインバッカーは出ねぇんだよ下がれ!!いい加減ルール覚えろ!!」
「…キッドさん、頼みがあります。出来るだけ俺にボールをください」
「んー陸のことだから、花音ちゃんにいいとこ見せたいから…って単純な理由じゃないよね?」
「ええ。あいつらがどれだけ本気か、どれだけの力があるか試したいんです」
「じゃあ、陸に任せますか。鉄馬が来るまで頼むよ」
「はい」
「そんな感じでいいですかねぇ、キャプテン」
「おう、司令塔はお前だ」
「よっしゃー!!GUNGUN行って来い!!」
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