29.守りたいもの
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「GYYYYAAAAH――!!!」
…とても、見れたものじゃなかった。次々と破壊していく圧倒的な“力”。最初は怖くて震えてしまったけど、りっくんが私の手を握って落ち着かせてくれた。
でもこのまま勝ったら、白秋と当たるのは西部。そう思うと、やっぱり怖くて堪らなかった。
「勝つよ」
「………」
「安心しろ。絶対勝つから」
臆することなく前を見る従兄は、はっきりと勝利を宣言した。そんな彼をいつものように応援出来なくて、私は返事代わりに静かに頷いた。
試合は太陽が棄権して、白秋の勝利。地区大会では峨王くんがQBを潰してきたけど、今回は無事だった。番場さん達が自らを犠牲に、原尾さんを守り切ったんだ。
「あっはーだっせぇええ!番場だかバン馬鹿だか知んねーけど!瞬殺された瞬殺!」
「誰だ」
「…!」
「今、番場を笑ったの誰だ。降りて来い」
笑った本人が名乗り上げなくて、峨王くんはメキメキと柵を折り曲げながら全員の背中の骨を折るなんて言い出した。この怒り方…認めた人間を侮辱されたのが許せない、ってこと?思ってた人と違うのかな。
でも、そんな彼を止めようと泥門の人達は戦闘態勢に入ってるし、放っておくと大変なことになる。どうしよう。今すぐ、この場を収めるには…
「俺だよ…俺がいった」
「り、りっくん!?」
「どうしたよ。俺をへし折るんだろ?」
スタスタと峨王くんの近くまで降りていってしまったけど、ロデオドライブでかわすつもりなのかな。その前に潰されてしまう可能性があるのに。彼がただ力任せの怪物なら、一瞬で…
「お前じゃない」
「っ!」
「目が腐ってない。そのくらいはわかる。何より、あの女の兄のようだしな」
「…お前、花音を知ってるのか」
「ああ。そこら辺の男よりもずっと肝が据わっている。殺気がヒシヒシと伝わるぞ」
私は太陽の生徒を押し退けて、前の方で威圧を掛けていた。大半の人は、さっきの言動に怯えて動けていない。私だって、敵うなんて思ってない。
それでも、問答無用で大切な従兄に危害を加えるような人だったら、その時は全てを捨ててでもこの怪物に復讐する覚悟はあった。
「何やってんだバカほら!みんなこれほらドッキリ!はい、ドッキリ大・成・功~~!!」
「ドッキリにしては、笑えないんじゃないかな」
「俺だって予想外だっての!花音ちゃんもコーラあげるから許し「全員“撃ち”のめすから覚悟しててね」
そういって銃を持ったポーズのまま、二人を撃つマネをした。…カッコつけながら、私じゃなく西部がって意味なんだけど。それを見た峨王くんは満足そうに笑い、マルコくんは肩を落として苦笑した。
「フン…やはり面白い女だ」
「かァ~やだやだ。ホ・ン・トこの子は敵に回したくないなー」
「だから君は西部じゃないでしょうに。まぁ、よくやったよ二人とも」
「キッドさん」
「なんともね…クールだったよ最後まで彼。自分の力を制御出来ないんじゃなくて、制御する気がないんだ。ああいうのが一番厄介だな」
「…はい」
「とりあえず、俺達は目先の試合の準備をしようか」
「わかりました。ほら、花音。元気良く応援してくれよ」
ぽんぽんと頭を撫でられて、なんとか笑顔を作った。今回は西部の配慮で一番前で見れるし、浮かない顔してちゃダメだ。気持ちを切り替えて手を振りながら応援すると、ぐっと拳を上げて“頑張るよ”ってアピールを見せてくれた。
その様子を傍観していた岬ウルブス主将の狼谷さんは、りっくんに向けて挑発的な笑みを浮かべていた。
「なっ!あの手前のコ、お前の従妹なんだって?」
「…そう、ですけど」
「へーなかなか可愛いじゃん。彼女いるけど、この試合瞬・殺した後に貰ってこっかなー」
これを聞いた、私達従兄妹を知っている全員が「コイツ死んだな」と思ったらしい。りっくんは一度も喋ることなく、冷静に相手を睨んでいた。彼は怒りの頂点まで来ると、黙ってキレる。こうなったりっくんが負けたところを見たことがない。
という訳で、試合は本当に瞬殺だった。岬ウルブスが。もうビデオいる?撮る必要ある?ってくらいの圧勝。一時期、王城以上だと評価されただけあって、このチームの強さは桁違いだった。
「わざわざ北海道から御苦労でしたね。なんとかウルブスさん」
「いや、もうそのへんで「実際に俺の妹に手ぇ出したら、この程度じゃ済まないからな」
「そんな顔見たら花音ちゃんも泣くから、落ち着きなさい」
「り、陸ー!おめでとう!すごく強くて格好良かったよー!」
「当然だろ!お前の兄貴なんだからな!」
「…うん。通常運転で良かったよ」
こんな状態でも、いつも通り抱き着けば機嫌は良くなる。若干問題もあったけど格好良かったのは本当だし、一番におめでとうが言えて良かった。白秋戦の不安は放って、今はただ純粋にこの勝利をお祝いしたかった。
「「「「「かんぱーい!!!」」」」」
「西部の皆さん、お疲れ様でした!でも、私までご馳走になっていいんですか?」
「おう、大歓迎だ!GUNGUN飲んで食べてきな!」
「また部費で無駄遣いして…」
「監督はいつもこうだろ。花音も一緒にジュース飲もう」
「うん。ありがとう」
「―…陸、ちょっと。お客さんだよ」
「…?はい」
試合の打ち上げでジュースを貰ってると、りっくんが誰かに呼び出された。もしかして、女の子の告白?さっきの試合で出来たファン?と、オロオロしていたら、キッドさんが苦笑しながら手で4と0を作った。40番、って…進さん?
気になってこっそり跡をつけていくと、本当に彼だった。そして、進さんは真顔でとんでもないことを頼んでいた。
「え…今、なんて?」
「ロデオドライブの走法を知りたい」
流石に、私も驚いた。春大会ではりっくんに勝ったというのに、何の躊躇もなく聞きに来るなんて、進さんは何処まで真っすぐなバカなんだろう。
…その秘密を教えちゃう私のお兄ちゃんも、同様にバカなんだけど。りっくんが去った後、いつ出ようかと悩んでいたら、私の前にゆっくりと影が出来た。
「…やはり水瀬か」
「ひゃあ!?すみません!気になってつい!」
「いや、ついて来ていたことは知っていた」
「バレバレだったんですか…」
尾行もそうだけど、二人きりは気まずい。初めて出会った時と重なるから、また失礼なことを言いそうで怖い。寧ろ、既にしている私で新技の練習をされたら笑えない。冷や冷やしながら固まっていると、彼は徐に口を開いた。
「お前にも話がある」
「私に?」
「ああ。これを見てくれ」
「はい。あ、王城の学園祭があるんですね」
「出来れば来てほしい。その時に、水瀬に話したいことがある」
「電話とかメールでは難しいお話なんですか?」
「機械類は勝手に壊れるため、俺には扱えん」
「…噂には聞いています」
貴方が機械クラッシャーだと。更に、無自覚だからタチが悪いとも。何の話だとばかりに不思議そうにしていたから、曖昧に笑って誤魔化した。
でも、進さんからお誘いを受けるなんて思わなかった。こんな素敵な招待状まで用意してくれるなんて…大事な話がメインのようだし、予定を合わせて行けるようにしたいな。
「どうにか調節して、遊びに行きますね」
「ああ。頼む」
『本日の最終試合の準備が整いました。出場校の選手は―…』
「そろそろでしょうか。新技が完成するといいですね」
「問題ない。必ず完成させる」
「頑張ってください」とか「負けないでください」と言わなかったのは、もう結果がわかっていたからかもしれない。別れた後に駿くん達と合流し、予定より遅れたものの、王城ホワイトナイツVS茶土ゴーレムの試合が始まった。進さんが有言実行して、究極のディフェンス『トライデントタックル』を完成させた王城に、点を入れる隙なんてなかった。
同じく隙がないというか、鉄壁の守りを見せてる人も隣にいるんだけど…
「駿くーん。何も聞こえないよー」
「聞こえなくていい」
「どうして岩重さんが話すたびに耳塞ぐの?」
「…教育的配慮」
「へ?」
ちなみに、この試合の台詞は全てカットされていた。何を話してたんだろう。かなり気になるけど、絶対に教えてくれなかった。試合自体も彼並みの防御で一点も許さず、王城の勝利。
つまり準決勝は『泥門VS王城』と『西部VS白秋』…また厳しい戦いになりそうだ。
「今日は勝ったお祝いに「糞姫を連れて、泥門でミーティング兼打ち上げだ」
「いや、西部でって話はついてるんだけど」
「そうですよ。勝手に連れ回すのはやめてください」
「水瀬さえ良ければ、王城側で参加してほしい」
「力勝負で奪えるものなら、白秋が有利だっちゅう話だよ」
「あの「俺の約束が先だよな」
「うん。そうだね。お先に失礼します」
勝者チームが揉めている中、駿くんと一緒に帰って、以前約束した親子丼を振る舞った。どうしても今日がいいって言うくらいだから、またご両親がいないのかな。すごく嬉しそうに見えるのは、料理とは別のことな気がする。わかりやすくガッツポーズしていた。
「色々あったけど無事花音を守り切れたし、飯も美味いし、アメフト三昧でいい一日だったな!」
「はぁ…そこまでしなくていい、って言ってるのに」
「俺が守ってやるって言っただろ」
「守備範囲が広すぎるよ!」
毎回、手広く頑張りすぎだと思う。私の夢を守るって言ってくれたのは嬉しかったけど、何かズレてる。でも一度“守る”と言ったら、体を張って守ろうとする人だ。それが出来なかったら、この前のように自分を責める。
もしかして赤羽さんのいってた私の騎士って、駿くんのことなのかな。その前にりっくんもか。騎士と保護者がイコールで結べそうって、なんだか変な感じ。あ、そうだ。騎士といえば…
「じゃーん!王城学園祭の招待状を貰いましたー!」
「は?誰に?」
「進さん!」
「し、んっ!!?」
「それで、良かったら一緒に「折角守り切ったと思ったのに!あの試合見た後の進とか、どうしろってんだよ!」
…なんで駿くんはいつも、戦うこと前提で考えてるんだろう。ちゃんと招待状って言ったよね?決闘状なんて言ってないよね?念のためもう一度誘ってみると、今度は赤くなりつつ頷いてくれた。怒ったり照れたり忙しい人だな。今はチラシを見つめながら、何か考え込んでるけど。
「よし。この王城の公開練習を参考にするって名目で、俺は休む」
「新主将は真面目なのか不真面目なのかわからないけど、付き合ってくれてありがとう」
「花音の誘いを断るわけねぇよ。何せ二人きりで「あ、健悟くんも行くって連絡来たよ」
「…ああ。だよな。わかってた」
「えへへ…学園祭も初めてだから、楽しみだな。色々見て回りたいね」
「っ、俺がなんとかして、純粋に楽しませてやるからな!」
「そんなに張り切らなくていいから!普通に行こうよ!」
更に頑張ろうとしてくれている保護者を止めながら、今日は大変な一日だったなぁと苦笑いを溢した。でも、もっと大変だったのはここからで、先程放置してきた人達からのメールや電話の対応に疲れ切ってしまった。私とか駿くんのせいとかじゃなくて…!
「だから私は!巨深生ですーっ!」
この虚しい嘆きは、夜中まで続いたのであった。
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