26.悪魔と悪魔*
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「…なんだテメー、そのカスの女だったのか」
「違います。今だけ手を組んでるだけです」
「えーと、貴女は巨深の敏腕マネージャーの水瀬花音ちゃんね」
「つか、あのカスチームにマネージャーいる意味あんのか?」
「ヒル魔さん、ちょっとその銃貸していただけませんか。あのサングラス割りたいです」
「貸してやってもいいが、撃てんのか?」
「スタンダートなものなら、キッドさんに教わりました」
「女の子が増えたから多少マシになったかと思ったら、全く状況が変わらない!!」
阿含さんは相変わらずで、やっぱり怒りが治まらない。ヒル魔さんに至っては、かなり近い。手を貸すと手を出すは違うんじゃないですか。腕を回されてるから、離れようにも離れられないし。
色々言いたいことはあるけど、今回はインタビューがメインだ。埒が明かないから、私はリコさんの進行を促した。
「すみません。お話続けてください」
「あ、ありがとう。では、お2人にも他の6チームと同じ質問に答えていただこうと思います!」
「名前と学校名、長所だそうですが…」
「長所、無敵なところ」
「長所、勝つところ」
「えええええ~~!!」
「あ、キッドさんも答えてるー」
「貴女は貴女でマイペース!」
他にもいくつかの質問をしていったけど、この二人の仲の悪さは異常だった。多分、何か因縁があるんだろうな。同族嫌悪っていう言葉もあるから、確信はないけど。
そして、アメフトをする理由について問われると、阿含さんは更に悪い笑みを浮かべた。
「プチッと踏み潰してやりてぇからだよ。凡才は頑張っちゃった挙句、才能にひれ伏すっていう現実を…体で教えてやろうと思ってさ」
「………」
「え、えーと…ヒル魔さんは?」
「面白ぇから」
簡潔な回答だった。でもそこにあるのは、駿くん達と同じようにアメフトへ込めた思いの強さだと感じた。そっか。この人は色んな悪事もしてるし、怖い見た目だけど、なんだかんだアメフトが好きなんだ。そう思うと、不思議と怖いと思わなくなった。目の前にいる悪人と比べたら…かもしれないけど。
「では、アメフト選手にとって最も重要なものはなんだと思いますか?」
「―…才能。それも完っ璧な才能…スピードも、テクニックも、パワーも」
「そのフォーク、誰が弁償すると思ってるんですか」
「あ゛?知るか」
いいながら、阿含さんはいとも簡単にお店のフォークを丸めてコップの中に入れた。唖然としているリコさんとは対照に、私はこんなに正反対の双子も珍しいな…とぼんやり考えていた。
「俺が22人いりゃそれがドリームチームだ」
「ケケケケケ!同じコマ22枚なんてチームほど、ぶっ殺しやすいカモもねぇわなぁ」
「確かに、パターンわかりやすいですもんね」
「…よく聞けよカス」
「カスカスカスカス…ボキャブラリーの少ない阿含さんのほうが、頭カッスカスなんじゃないですか?」
「このアマ、いい加減にしねぇとぶっ殺すぞ」
「いいぞ糞姫、もっと言ってやれ」
「栗田とかいったか、あのデブ」
「「………」」
散々栗田さんを罵倒した後、阿含さんはファミレスを出て行ってしまった。
…栗田さんは、とても優しい人だ。例の件もあるけど、丁寧に菓子折りを持って謝りに来てくれたし、純粋にアメフトが好きな人だと思った。それを、頑張ってる努力家の彼を、そんな形で潰すなんて。私はまた阿含さんを追いかけて、出口ギリギリのところで叫んだ。
「貴方がカスと罵る努力家が!もし貴方に勝ったら、ちゃんと謝ってください!!」
「そんな奇跡起こるわけねぇだろ」
「きちんと謝罪するまで…私は、貴方を許さない」
「ククク…いってろ」
…悔しい。駿くん達だけじゃなくて、ヒル魔さんや栗田さん達もバカにするし、やっぱりあの人は嫌いだ。クリフォードよりよっぽどタチが悪い。折角の才能を、魅せるどころか人を見下すために利用するなんて、最低すぎる。
どうしようもない怒りを残しつつ荷物を取りに戻ると、リコさんが真っ青な顔で挨拶して帰っていった。私もヒル魔さんに声を掛けようとしたら、無言でメニューを突き付けられた。
「ケケケ、威勢よく喧嘩売れたご褒美だ。好きなの選べ」
「…私は、何もしてません」
「あの糞ドレッド相手に、逃げるどころか啖呵切ったんだ。上出来だろ」
「そんなことないです!選手を傷つけられて!結局謝ってもらえなくて!何も…何も出来なかったんですよ!?」
思わずぎゅっと、痛いくらいに唇を噛んだ。あんな人に大事な人達をカスと罵られて、突っかかっても全然聞いてもらえなくて、圧倒的な力の差を見せつけられた。私一人でどうこう出来る相手じゃないから、ヒル魔さんにだって縋ったのに…全部、無駄だったなんて。
「…巨深で理数トップなんだってな。神龍寺との勝率程度、すぐに出るだろ」
「1%も、満たなかったです」
「こうなることくらい、わかってたんじゃねぇのか」
「わかってました。それでも選手を信じたかった。最後まで諦めない彼らを、応援したかった」
「………」
「バカ、ですよね。止めてればこんなことには…」
「あーバカだな。大バカだ。でもな…そーいうバカは嫌いじゃねぇよ」
わしゃわしゃと、容赦なく鋭い手で頭を撫でられた。そして唖然としている私の目の前に、店員さんがショートケーキを置いてくれた。ヒル魔さんはというと、無言でガムをフーセン状にするだけで。私はそっとお礼を言ってから一口食べた。美味しい。美味しいけど…心は全然満たされない。折角の好意を無駄にしてる気がしつつも、やけ食いのように一気に食べきった。
「…ご馳走様でした」
「さっき手ぇ貸すっつったよな」
「はい。力になれることなら、なんでもします」
「なら丁度いい。ドラゴンフライ対策でも考えてもらうか」
そういいつつ、ヒル魔さんは先にお店を出てしまった。あれ?やっぱりお代は私持ちなのかな…とレジでお金を払おうとしたら、店員さんが泣きながら「もう頂きました」と頭を下げていた。あの、ごめんなさい。お疲れ様です。
「ヒル魔さん!私、選手達と合流しな…きゃ…」
「何してやがる。早く乗れ」
何処で捕まえたのか、高級車がタクシー代わりになっている。こういう人は、敵より味方になったほうがいい。手を組んで正解だったのかも。そして乗り込んでから大事なことを思い出し、恐る恐る携帯を開くと、案の定見たことない程の着信とメールが溜まっていた。
「すみません。少し電話してもいいでしょうか」
「このまま泥門に行くっつっとけ」
「…はい」
予想通り、とても怒られました。耳がキンキンするほど、駿くんは電話口で怒鳴っている。さっき啖呵を切った時は怒り任せで我を忘れてたけど、落ち着いた頃にこんなに駿くんに怒られると心が折れそう。泣きたい。というか、既に涙目です。
『花音っ!!それ以上ヒル魔の傍にいるな!!こっちに帰ってこい!!』
「そういう訳には…あの、手貸すって言っちゃって『お前は何処のマネージャーだ!?ああ!?』
「筧先生怖い。怖いデス…」
最終的にごめんなさい、で一方的に電源ごと切ってしまった。青白い私と違って、なんだかヒル魔さんは楽しそうだったけど。脅迫ネタですか。ああ、そうですよ。私は筧先生に弱いですよ。教師や保護者的な意味で。
「テメーの弱点が、あの糞つり目だったとはなァ…“ARIEL”」
「…その名前を知ってるってことは、貴方が“DEVIL”さんですか」
「ケケケ、そうだ。アメフト部のマネになってるとは予想外だったがな」
彼があの、異常に勝負を仕掛けてきた“DEVIL”さん。確かにヒル魔さんそのものって感じだけど、ネットでも態度が変わらないんだ。当然のように私のことを知ってるかはさておき、どうしてこの人は…
「ヒル魔さんならゲーム会社をハッキングすることくらい出来そうですけど、しなかったんですね」
「ただの息抜きだ。たまには実力勝負してぇ時もある」
「一度も勝てなくてもですか?」
「普通にやって、テメーの“強運”に勝てるわけねぇだろ」
知ってる…のかな。出来れば知られたくなかった。もしこの悪魔に邪魔されたら、今まで頑張ってきたことが全部無駄になってしまう。私は、恐る恐る質問を続けた。
「何処までご存知なんですか?」
「HNが母親の名ってことだな。あと、絵のセンスは父親似か」
「それ…ほとんどって、ことですよね」
「神に愛された強運の持ち主の娘となりゃ、有名だからな」
「私は神様に愛されていない。ついてるのは…悪魔です」
この力を使えば、ギャンブルだけで一生暮らせるかもしれない。でもお母さんは、そうしなかった。それを知らずとも、愛してくれたお父さんのために“普通の女性”として生きようとした。でも、それは許されないらしい。
この才能は神様じゃなく―…悪魔に愛されるから。
「敢えて母親の名前を使ってんのは、テメーのプライドか?」
「はい。自分の名前は捨てましたから」
「糞ゲジ眉毛に懐いたのも必然か。似た者同士だな」
「私が私であれば、名前はどうでもいいんです。今の名前も気に入っていますし。それより、どうするつもりですか」
「脅して泥門に来させてコキ使ってやってもいいが、そこまでするつもりはねぇよ」
「…どう、して?」
「死ぬ気で頑張ってきた凡才潰したら…あの糞ドレッドと変わんねぇだろ」
やっぱり、そうだ。同じ悪魔だけど、少なくとも阿含さんのような人じゃない。きっとあの人にバレたら、私はいいように使われていただろう。とりあえず阿含さんを倒すまで、この人は味方でいてくれるはず。私は悩んだ挙句、一つの結論を出した。
「ずっと貴方は敵でした。巨深・西部・盤戸…貴方と違うチームを応援しました。でも今回は、泥門につきます」
「そりゃ心強ぇな。強運のお姫様」
「その言い方やめてください。誰にも言ってないんですから」
「“糞強運”と迷ったんだがな。キッドに感謝しろよ」
キッドさん、本当にありがとうございます。「花音ちゃんはなんか、お姫様っぽいよねぇ」と、ゆるくあだ名付けられて良かったです。貴方がいなかったら、素性がいっぺんにバレてました。糞姫も微妙に嫌だけど、もうこの際なんだっていいです。
「でも、泥門にはまもりお姉ちゃんがいますよね。私が手を貸す意味あるんですか?」
「貸す以上に、こっち側に来るだけで利益になんだよ。その手首の怪我…糞ドレッドだろ」
「え?は、はい」
「ケケケ、なら好都合だ。証拠もあることだし『阿含に手ぇ出された』設定で行くか」
「一体なんなんですか?」
「“強運の娘”じゃなくとも“水瀬花音”に利用価値があんだよ」
喜んでいいのかな。それはそれで、複雑なんだけど。でも彼は楽しそうに笑いながら、あっさりと泥門の手の内を話し始めた。それだけ大っぴらに語るということは、完全に私を“味方”と捉えているということ。
「泥門に着くまで、15パターンは考えます。そこから絞ってください」
「テメーの作戦は奇抜なものが多いからな。じゃんじゃん考えやがれ」
車内である程度の作戦を練って、泥門の部室で一緒に神龍寺対策を手伝った。既に雪光さんを出すと決めていたから、別の戦術がいくつか出来たけど…正直、西部戦の時より勝ち目がない。“悪魔”は“神”に敵うのかな。
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