25.抽選会と最強の悪*
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「白秋さん。SIC地区代表おめでとう」
「ありが、と…?」
声のしたほうを見ると、私服姿の男の子がニコニコしながら俺に手を振っていた。女の子の声だと思ったんだけど…あれ?髪型はされど、この可愛らしい容姿と瞳の色からすると、もしかして…
「花音ちゃん?」
「あ、わかった?」
「そりゃわかるって。そんな男物着て何してんの」
「抽選結果が気になるから、こっそり紛れてきたんだよ」
知り合いからすればすぐにわかるけど、美少女が美少年になっただけだっちゅう話。普通に注目を浴びている。まぁ、元が良いんだからウィッグなり帽子なり被って短髪に見せても可愛いだろう。服は恐らく、甲斐谷のかな。
「今日は怪獣さんいないの?」
「はぁ…俺が苦労するだけだっての。置いて来たよ」
「なんか、大変なんだね」
「くっ、わかってくれるのは君だけだよマジ天使!」
「ふふ、天使じゃないよ。もしかしたら悪魔かも」
悪魔ならマジモンのヒル魔妖一がいるだろうに。確かに、納得出来る理由もいくつかあるけど。可愛い顔して、この子も色々と凄いからね。俺は話を流しつつ、空いている席へエスコートしてあげた。普段の彼女相手なら喜んで行う行為にも、若干違和感がある。女の子だって知ってるから、こうしてる訳だけど。
「ありがとう。ねぇ、良かったら他の出場校がどんなところか教えてくれない?」
「いいけど、花音ちゃんも調べてんじゃないの?」
「東京だけで精一杯だったんだよね。特に、神龍寺…とか」
そういいつつ、彼女は急に真剣な表情をした。まさか戦う気じゃないよな?でも、今度練習試合がどうこうって噂を聞いたような気がする。そこが巨深だったら笑えないけど、俺から言えることは…
「金剛阿含には近づかな「それはもう聞いたよ」
「二番煎じかよ!ちゅーか、ぶっちゃけ全員ヤバいって!」
「だよね。あの神龍寺だもんね」
『それでは、抽選会を始めます!』
「もう始まったか…ん?甲斐谷ってあんなんだっけ?」
「王城に負けたのが情けないんだって。気持ちをスッキリさせるために、私が切ってあげたんだよ」
この子の従兄なのも頷けるくらい、真面目な性格なんだろうな。そして、その彼が引いたのは2番。Aブロック、ね。西部との対戦はご遠慮願いたい。ここは上手くBブロックのほうにいきたいけど…
『SIC地区代表、白秋ダイナソーズ!』
「マルコくん、いってらっしゃい」
「はいはい。いってきますよ、っと」
見た目は美少年に送り出され、ボールの入った箱に手を突っ込んだ。どうかBに、5~8辺りに…と祈りながら恐る恐る番号を見ると、3と書かれていた。ってことは、西部と同じブロックかよ!うわ~当ったりたくねー!
「え、えっと5番っていうと…」
「やったぁああ!西部と逆のブロックだ~!」
俺の後に引いたのは泥門か。今なら関係者も見てないし、こっそり替えても…と話を進めたけど、王城がBに行った瞬間にこの話はなかったことにした。ああもう、強敵同士で潰し合っとけっちゅう話だよ!次いで泥門に自己紹介した後、彼女にもコーラ瓶の蓋を取って渡してあげた。
「ん、花音ちゃんも飲む?」
「うん。ありがとう」
「花音ちゃんって…ええええ!?」
「マジかよ!コイツといるから、白秋のメンバーかと思ったぜ!」
「しー!大きい声出さないで!バレたくないから変装してるのに!」
「バレる…?」
『神奈川代表、神竜寺ナーガ!』
「出・た・よ金剛兄弟。この大会9連覇とか冗談じゃねぇ」
「…金剛、阿含」
花音ちゃんが、やけに天才様に向かって熱い視線を送っている。ったく妬けちまうよ…なんて呑気に思っていたら、いきなり抽選ボールが飛んできて、飲みかけのコーラ瓶を割った。お、おいいい!嘘だろ!?てか、避けなかったら今当たってたのは…!
「セナくん、平気?」
「な、なんとか…!」
「この破片危ないから、片付けよっか」
「あ、ああ」
…なんて冷静なんだ、この子は。あの峨王にも対抗してたし、見てるこっちの方が怖いっての。俺も淡々と片付ける花音ちゃんに習っていると、ガラスの破片が刺さり、指から血が出てきた。あちゃー…やっちまったよ。
「っ!大丈夫!?」
「平気平気、こんなの舐めとけ、ばっ!?」
一瞬ぞくっとしたのが、何の躊躇いもなく俺の指の血を舐めたこと。更に声を掛ける暇も与えず、テキパキと止血をして丁寧に絆創膏を付けてくれた。あ、なんかファンシーな柄…
「駄目だよ!QBは指が命なんだから、気をつけなきゃ!」
「そう、だね。ありがと」
「あっ、急に舐めたりしてごめんね。汚いかも」
「いいよ。俺のほうが…」
―…汚いから。そう言いかけた口を閉じて、きょとんとした花音ちゃんへ誤魔化すように笑ってみた。俺達の試合観てないのかな。観てないから、俺に優しくしてくれるのかな。今まで散々非難されて、大切な彼女にも見捨てられたのに、なんで今更…苦しいんだろうな。
指先の代わりに、今度はじんじんと胸が痛んだ。
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