24.東京大会の結末
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『今…ついに、謎の選手アイシールド21の仮面を脱ぎ去ってフィールドへ赴くは、泥門高校1年2組小早川瀬那!!』
「えっ、嘘だろ!?」
「あのセナが、アイシールド21…!?」
「…セナくん、アイシールド取ったんだね」
「そうだな」
3位決定戦当日。ドライアイスの演出と共に現れた選手達に続いて、セナくんは初めてアイシールドを取って出場した。知らなかった人達は驚きの声を上げ、知っている私達は遠目で見守りつつ微笑んだ。
「りっくん、ちょっと声掛けてきてもいい?」
「いいけど、巨深の連中はまだ来ないのか?」
「うん。時間、間違えちゃったのかな。駿くんが忙しそうだったから、健悟くんに伝えたんだけど」
ちゃんと4時からって言ったし大丈夫…だよね?不安になりながらも、前のほうに出てセナくんに声を掛けた。アイシールドがないから、緊張しているのがよくわかる。でも、小早川瀬那くんとして出る初試合だから、頑張ってほしいな。
『本当のアイシールド21…赤羽隼人!!』
「あ!赤羽さーん!頑張ってくださいねー!」
手を振りながら応援すると、一瞬だけ口元を緩めて笑った後、優雅に振り返してくれた。同じ21番でも、やっぱり彼のほうが余裕がある。キックチームがどれだけすごいかコータローさんに延々と語られたけど、今回のキーマンは間違いなく赤羽さんだろう。
彼が加入した場合、盤戸がどう変わるのか。まだ慣れない独特の雰囲気に緊張しつつも、ビデオカメラをセットした。
「3位決定戦、泥門VS盤戸戦。試合開始です…って!いきなりすごいキック!」
流石キックチーム、というべきか。開始早々、オンサイドキックでガンガン攻めていった。赤羽さんの動きは無駄がないし、パワーも凄い。去年のMVPも頷けるくらい、彼はオールマイティーなプレイヤーだった。適応性・柔軟性に優れた完璧なリードブロックと、コータローさんの確実なキック。これはなかなか、泥門には厳しい試合になるんじゃないかな。
『盤戸、タイムアウトー!』
「…え?タイムアウト?」
特に必要あるように思えなかったんだけど、タイムアウトを取ったのはコータローさんだった。何かと思えば、ビシッと武蔵さんにライバル宣言。さ、流石にそれだけじゃないですよね?と不安げに見つめていると、そのまま先輩達の因縁について語り始めた。まさか、本当に大事なタイムアウトで昔話…?
「―…だから!!負けるわけにはいかねぇんだよ!!」
手前にいたから、話はよく聞こえた。強豪校に引き抜かれた人達と違って、赤羽さんは親の転勤に連れ添い転校する予定だったという。それでも彼は、仲間を裏切らずに盤戸に残った。
彼らの過去を知るまで、赤羽さんは冷静な理論派だと思っていた。でも、内心は外見に映える真っ赤な色と同じように、とても情熱的な人。仲間思いで優しい人。頭が良いのに、半年試合に出られないとわかっているのに、それでも貴方は…
「赤羽さんっ、負けないで!!」
その瞬間、彼のスピードが増した気がした。アイシールドではっきりとは見えないけど、きっと赤い瞳はこちらを見つめている。負けないで。貴方の決意を無駄にしないで。思いが通じたのか、赤羽さんは勢いを落とさず怒濤の進撃を見せた。
「あれ?この戦術は…」
「ランフォース、だな」
「駿くん!」
「遅くなって悪い。水町が時間を間違えてた。午前4時って時点でおかしいとは思ってたのに、連絡付かねぇし…」
「あ、電源切っててごめんね。お疲れ様。ねぇ、ランフォースって?」
「いいか。セナと赤羽の辺り、ズームして撮ってみろ」
「うん」
言われた通り、ボールを持っているセナくんの近くをズームして撮った。もうすぐで抜けられる、と思っても赤羽さんはわかっていたかのように、あっという間にセナくんを捕える。これは、もしかして…
「そこしか、迷路の出口がねぇんだ」
「す、ごい…」
即座に計算して迷路を作り、誘導して捕えたんだ。こんなこと、頭の回転が速くないと出来ない。流石去年1年生でMVPを取っただけある。赤羽さんのプレイは一つ一つが完成されていて、観戦側としてはとてもわくわくした。
「ごっめーん!時間うっかり間違えちった!」
「ううん。私も気を付けるよ」
「花音ちゃんはそこ座んなー?」
「はい」
それから、小判鮫先輩達と合流した。試合は接戦で進んでいき、後半はかなり風が強くなってきた。この風を上手く使えるかどうかで、結果も大きく変わるはずだ。
「…コータロー、お前と俺は心底音楽性が合わない」
「音楽だかなんだかしんねーけど、合わないのは心底同意すんぜ!」
「だが、自ら最強を名乗ってチームの為に背水の陣に赴くお前の覚悟…認める。俺も同じものを背負ったつもりだ」
私は早い段階で、赤羽さんが本物のアイシールド21じゃないとわかっていた。それでも、背負った覚悟を感じ取ったから応援した。コータローさんのキックが外れないように願ったのも、純粋に勝ち進んでほしかったから。セナくん達には悪いけど、諦めてほしくなかった。もしこのまま逃げ切れば、この試合は…
でも最後の最後で、赤羽さんは光速の走りを見せるセナくんを止めることが出来ず、逆転された。思いも虚しく、時計はゆっくりと0に向かっていく。
『試合終了ーー!!関東大会出場は、泥門デビルバッツーー!!』
「っ、もっともっと究極スマートに磨き上げて、来年こそ盤戸スパイダーズが制覇してやる…キックゲームでよ!! なあ、赤羽…!!」
「…ああ。必ずだ」
「…っ」
「花音。お疲れ様って言って来たらどうだ」
「でも私、他校だから」
「別にいいだろ、ただのファンってことで。ほら」
駿くんの後押しでもう一度前のほうに出ると、メットを外した赤羽さんと目が合った。コータローさんと違って泣いてるわけじゃないけど、悔しさと悲しさが入り混じったような表情をしているように見えた。
「赤羽さん、コータローさん、盤戸の方々お疲れ様でした!皆さん最高にスマートでした!」
「うおおおお!!花音やめろー!涙止まんねぇよ!!」
「…スマートはいらなかったな」
「す、すみません!」
コータローさんは更に号泣してしまったけど、赤羽さんには呆れられてしまった。うーん…なんて言えば喜んでもらえるんだろう。悶々と悩んでいる間に、彼は少し吹っ切れたように笑っていた。
「すぐ決勝が始まるだろう。従兄の応援の準備をしなくていいのかい?」
「あの、でもっ」
「僕は気持ちだけで「あとで!もっと近くで、お疲れ様って言わせてください!」
「フー…待っているよ」
「はい!」
それから手を振って、私は盤戸の人達を見送った。次は、西部と王城の決勝戦。鉄馬さんが出られないのが致命的だけど、精一杯りっくんやキッドさん達を応援しなきゃ!
「りっくーん!キッドさーん!西部の皆さん頑張ってくださーい!!」
「ああ!任せろ!」
「はは、ありがとねぇ」
「………」
「鉄馬さんはえっと、ゆっくり休んでくださーい!」
残念ながら読みが当たり、慣れない戦術でりっくんは何度も進さんに止められ、結果は準優勝という形で終わった。その後すぐに西部は反省会をするみたいで、私は巨深組と一緒に赤羽さんを探そうとしたけど、すぐに発見できた。出口付近で待っていてくれた上に、あの外見は人目を引くからだ。
「…花音」
「赤羽さん、お疲れ様でしたっ!」
「ありがとう。観客席から君の声が聞こえて、嬉しかったよ」
「それは良かったです。あと、間近で色んなテクニックを見て勉強になりました!結果は残念でしたけど、最後までとても素敵でした…!」
「っ…そう素直に褒められると、悔しさよりも嬉しさが勝るから不思議だな。この喜びを今すぐ曲に込め「ちょっといいですか」
良かった。さっきよりは辛くなさそう…なんて思っていたら、駿くんが割って入ってきた。真剣な顔をしてるから、もしかして「アイシールド21を名乗ってんじゃねぇよ!」ってキレるつもりなのかな。
そ、それは困る!赤羽さんだって悪気があった訳じゃないし!と、オロオロしている私とは対照に、彼は真顔で予想外の質問をしていた。
「花音のこと、どう思ってますか?」
「そうだね。僕の天使だと思っているよ」
「…想像よりマトモだと思った自分を殴りたいくらい、頭おかしいな」
「いきなり失礼だよ!」
「そういう君は、これ見よがしに花音と手を繋いでいるが…どういう関係かな」
「とりあえず、お前より近い仲ではあるな」
「フー…君とは音楽性が合わないようだ」
「は?」
「また揉めるんだからー!」
なんで貴方はそう、敵を作るのが好きなんですか。赤と青というイメージが反対の色同士、本当に合わないのか妙にバチバチしていた。両方共かなりの実力者だと知っている分、喧嘩されると困る。私は必死に間に入って、話を逸らした。
「あ、あの!きっとベストイレブンに赤羽さんが選ばれると思います!」
「んん?花音ちゃん、ベストイレブンって何ー??」
「東京大会の攻撃と守備で優秀な選手が、11人選ばれるんだよ」
「そうそう。架空のオールスターみたいな感じね!俺も丁度言おうと…」
「私は、健悟くんと駿くんも選ばれるって思ってるよ」
「ンハッ!マジで!?選ばれたらお祝いしてね!」
「ふふ、もちろん。赤羽さんの分も用意しておきますね」
「…ああ。楽しみにしているよ」
わかるかわからないか程度に、優しく笑ってくれた。ポーカーフェイスよりも、笑った顔のほうが素敵だと思う。たまには表情に出した方がいいですよ、赤羽さん。そう思いながら見つめていると、くいっとサングラスを直し始めた。
「そんなに見つめられると、ますます好きに「じゃあな。偽アイシールド21」
「ちょ、駿くっ、引っ張らないでー!」
「赤羽さーん!俺ダンスなら出来っから、今度バンド組もうなー!」
「そうか。君とは音楽性が合いそうだな」
「お前ら仲良くすんな!バカが移る!水町はもうバカだけど!」
「ARE!?酷ぇええ!!」
「ま、また閉会式で…!」
強引に帰ろうとする駿くんを追いつつ、必死に手を振った。彼は少し困惑しつつも、控えめに振り返してくれた。赤羽さんは確かに変わったところはあるけど、すごく優しい人なんだよ。なんとか誤解を解いて、仲良くしてほしいな。
「筧が過保護すぎんじゃねぇかなーいい人そうじゃん。面白ぇし」
「健悟くんはいい子!頭撫でてあげる!」
「ぃやったー!撫でて撫でてー!」
「う゛…!」
「筧、超ダメージ喰らってるけど、偽アイシールド21の件の方はいいの?」
「それより俺は、花音に危害が及ばないよう守ってやりたいんです…っ」
「その熱意溢れる台詞を本人が聞いてないとか。でもまぁ、頑張れよ」
「っ、小判鮫先輩!俺は立派な主将になって、花音を守り切ります!」
「それはぶっちゃけ主将関係ないけど、うん。バンガだバンガー」
健悟くんを褒め終わった後、小判鮫先輩が駿くんを励ましていた。その割に全く反省の色を見せず、寧ろ張り切ってボディガードしてくれたのは何故だろう。赤羽さんとの仲をどうにかしてほしかったんだけどな。今度会うまでに、もうちょっとマシになってると祈りたい。
1/2ページ