22.対決と嘘
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「まず先にAブロックの準決勝が…って、進?」
「んー何処から観ようかな」
「…お前は、あの時の受験生か?」
「へ?し、進さん!?」
俺が驚くのも無理はないと思う。もう長い付き合いだけど、進が自分から女の子に声掛けてる姿を初めて見たから。若干知り合いのような雰囲気だけど、進が異性と“普通に話す”って相当レアなんじゃないかな。
相手の女の子は、やけに焦りながら頭を下げていた。一つ一つの動作が丁寧で、なんとなく真面目な子だと感じ取った。
「以前は本当にお世話になりました!私失礼なことばっかりして、後々とても反省しまして…っ」
「反省する点などない。それより、あのレモンの蜂蜜漬け…」
「お、お口に合わなかったですか?」
「いや、美味かった上に効果があった。何か手を加えたのか聞きたくてな」
「そうですね。少し炭酸と生姜、ローヤルゼリーを入れています。蜂蜜はアメリカ産のもので…」
「成程。参考になった。感謝する」
「いえ、お役に立てて良かったです」
…一体、何回驚けばいいんだろう。あれだけ自己管理してる進がレシピ聞くって…そんなにそのレモンの蜂蜜漬けが美味しかったのかな。そのまま二人の様子を傍観していると、相手の女の子が俺に気づいて声を上げた。
「わっ、桜庭さんだ!」
「あ、もしかして俺のファンかな?」
「はい!」
「ごめんね。悪いけど今はサインとか「エベレストパス素敵でした!!」
「…え?」
「私、あんなに高く飛べるレシーバーを見たことがなくて!今後は桜庭さんのようなレシーバーも育てていこうと、参考にさせていただきました!」
「あ、ありがとう。ファンってまさか…」
「…?桜庭選手のファンです。身内のせいか長身贔屓気味ですけど、応援してます!」
キラキラと瞳を輝かせてそういう彼女が、嘘を言っているようには思えなかった。てっきり元モデルとして見てると思ったのに、選手としての俺を見てくれた。純粋に最近のプレイを褒められると、やっぱり嬉しいものだな。もう一度お礼をいうと、柔らかく笑ってくれた。
ああ、なんだろう。ふわ~ってお花が舞う感じで癒される。癒し系で可愛い子だな。
「あれ?でも参考に、ってことは…君は何処かのマネージャーかな?」
「はい。巨深ポセイドンのマネージャーです」
「…巨深に行ったのか」
「は、はい。そうなんです。すみません…」
「いや、謝らなくても。巨深なら知ってるよ。名前聞いてもいい?」
「水瀬花音です」
「花音ちゃん、か。よろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
こんなに良い子なら、進が気に掛けたくなる気持ちもわかる。女の子をどう思ってるか知らないけど、若干残念そうにも見えるな。確かに巨深って、王城からはちょっと遠いし…
「進、桜庭。何をしているんだ?」
「す、すみません!今、巨深のマネージャーの子と知り合いになりまして」
「マネージャー?巨深ってことは、来年のために偵察かな?」
「はい。それもありますけど、純粋に従兄の応援に来ました」
「従兄?」
「西部の甲斐谷陸くんです」
「「ええっ!?」」
「やはりか。骨格が似ていると思った」
「こ、骨格…ですか」
甲斐谷くんか。期待のルーキーらしいけど、言われてみれば端正な顔立ちは似てる気がする。一通り挨拶が済んだ後、折角だからと花音ちゃんも一緒に観戦することになった。同じ一年の若菜とはすぐに仲良くなったみたいだ。
そんな彼女を、進が真剣に見つめている。いやダジャレとかじゃなくて…珍しいな。どうしたんだろう。
「あの的確なアドバイス、努力を怠らない勤勉さ…王城を支える逸材になったはずだったんだが」
「…進?」
「うお!?花音じゃねーか!なんで王城にいんだよ!」
「コータローさん!実は先程仲良くなって…あ、今日もスマートだぜ!です!」
「そういうお前もスマートだぜ!」
「え、何この会話」
「挨拶…じゃないのか?多分」
「ここで会ったのも何かの縁だ!この佐々木コータローがキックについて教えてやるぜ!」
「わーい!お願いします!」
「花音ちゃん、もうすぐ試合始ま…って聞いてないね」
盤戸の彼とは既に知り合いのようで、なんだか楽しそうに話している。でも次に俺達と戦うのに、こんな普通に敵の近くまで来ていていいのかな。偵察とかそういう類いではなさそうだけど。
「俺らもこのあと試合だから、楽しみにしてろよ!」
「はい。王城の方々と仲良くなったばかりで気が引けますが、応援してます」
「流石花音!スマートだぜー!」
「スマートだぜー!」
「…水瀬、試合が始まるぞ」
「あああそうだビデオの準備がっ!ありがとうございます!」
「ん?そういやお前、西部のちっこいの従兄なんだろ?やっぱ西部の応援か?」
「はい。…キッドさんの早撃ちと、鉄馬さんの正確なパスルート。そして陸のロデオドライブがある限り、西部は絶対に負けません」
急に表情を変えた彼女はさっきのふんわりした感じと違って、とても凛々しかった。進もそれに気付いたのか、またじっと花音ちゃんを見つめていた。スイッチが入ったのか、もうビデオを撮り始めて試合しか見ていなかったけど。
「準決勝…西部VS泥門。試合開始です」
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