2.マネージャー
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「…もう一人、マネージャーが欲しいな」
「「同感です筧先生ー!!」」
「ンハッ!確かにー!摩季ちゃん二日にいっぺんしか来ないもんなー」
独り言のように呟いたのに、何故かチームメイトが割って入ってきた。問題はそう、現マネージャーの登校問題にある。呆れたことに化粧に何時間も掛け、二日に一回しか登校しない。登校日には仕事をしてくれるが、かなり大雑把な上に二日に一回のペースではなかなか片付けも終わらない。
…特に、最近入った水町の周りが。
「マネージャーねぇ~あ!俺、帰宅部の可愛い子知ってんよー!」
「可愛い云々はともかく、仕事の出来るやつがいい」
「そんなこといっても、やっぱ可愛い子のほうがやる気出んじゃん!ね、小判鮫先輩!」
「え!?ま、まぁね!ワイカーな子だといいねー」
それから水町が、ちょっと聞いてみるー!と早急に連絡を取っていた。この行動派なとこ、たまには役に立つな。
それから10分程して、小柄な女子が部室に入ってきた。まぁ、俺達からすれば大概小柄に見えるけど。大人数に加え、目の前のライン連中に驚いたのか、少しびくついている。顔は見えにくいが、髪は綺麗なブロンド。でも、染めたって感じじゃねぇし…ハーフかクォーターだろうか。
「ンハッ!花音ちゃん来てくれたんだー!」
「えっ、だって水町くんが今すぐ来てっていうから…」
「花音ちゃんって確か帰宅部っしょ?」
「うん」
「あのさ、マネージャーになってくんない!?」
「あれ?確か一人いるんじゃなかった?」
「いるんだけど、とにかく超困っててヤバイんだって!先輩風にいうとヤイバーでさー!ちょっとでいいから手伝ってよ!」
「…えーと、日本語で説明してもらっていい?」
「何語だと思ってんの!?」
…ダメだ、水町じゃ話になんねぇ。いきなりそんな勧誘して話が通るわけねぇだろ。俺はスッと前に出て、とりあえず椅子に座るよう促した。まずはそうだな、自己紹介からしねぇと。
「悪いな。えっと、」
「こんにちは。一年A組の水瀬花音です」
「水瀬な。俺は筧だ。急に呼び出して悪かったな」
「いえ、大丈夫です。先生もお疲れ様です」
「…いや、俺も一年だから」
「ええ!?あ、ご、ごめんなさい!筧先生って呼ばれてたから!」
そういって彼女はぺこぺこと謝り始めた。顔は見えないが耳が真っ赤になってる。大平と大西のせいだな…と呆れつつ、後ろで爆笑してる水町は後で殴ることにしよう。水瀬にもういいから、と謝るのを止めさせ、率直に用件を話すことにした。
「実は渋谷ってマネージャーがいるんだが、二日に一回しか登校しねぇから部室は荒れるし、時間空いたやつが洗濯云々の雑務やったりで、人手が足りねぇんだ」
「なるほど…」
「で、そのいない日で構わないから二日に一回ペースで手伝ってほしくて…お前の力を借りたい」
水町よりは、わかりやすく伝えられたはずだ。水瀬は少し考え込んでから、じっと俺を見つめた。ようやくちゃんと顔が見れた。確かに騒ぐのもわかるほど、端正な顔立ちをしている。でも普通はその顔に目がいくんだろうが、俺は違った。透き通った綺麗な瞳。真っ直ぐ俺を見つめる瞳に目を奪われた。
…何処か見覚えがあるのは、気のせいだろうか。
「…?どうかした?」
「あ、いや、悪い」
それに、普通の女子は必ずといっていいほど俺から目を反らすのに、水瀬は違う。真剣な顔をして、しっかりと俺を見てくれる。
…性別問わず、どんな相手からしても俺は怖い部類らしい。つり目だの長身からくる威圧感だの理由は然れど、とにかく高確率で怯えられる。 どちらかというと、そういう態度をとられると思ったから驚いた。
「質問、してもいいかな。筧くん達は何処までを目標にしてるの?」
「全国制覇」
前に水町にいったように、真剣にそう伝えた。すると、彼女はまた再び悩み始めた。少しでも誠意が伝わった、と取っていいのか。
「…もう少し、質問してもいいかな」
「ああ。答えられることなら」
「筧くんは、私のことを知ってて勧誘してる?」
「…悪いけど、今日初めて知ったな」
「ううん、気にしないで。あと最後にもう一つ」
「なんだ?」
「背が高いなら、バスケでもバレーでも、その長身を活かせる道はいくらでもあると思うの。それでも、特に怪我する確率の多いこのアメフトというスポーツを選んだのは何故ですか?」
予想外の質問に、一瞬言葉を詰まらせた。綺麗な瞳が俺を見つめている。水瀬はただ、純粋に答えを聞きたいだけのようだった。なら、下手に考えた答えよりも、自分の思いを簡潔に伝えたほうがいい。
「嫌になったことがあっても、辛くても、どんなに怪我をしても、アメフトが好きだから」
俺の導き出した答えはこうだった。水瀬はその答えに満足したのか、小さく拍手をした。…ちょっと待て。なんで今拍手したんだ。
「素敵!青春してるって感じ!」
「はぁ?」
「ンハッ!花音ちゃん相変わらずマイペース!」
「水町くんが楽しいって言ってたのがよくわかった。面白いね、筧くん」
「面白いって、おい!俺は真面目に…!」
「うん、真面目で面白い。私こんなに真面目な人初めて見たよ」
「…バカにしてんのか」
「え?褒めたつもりだったんだけど」
俺からしたらバカにしてるようにしか見えねぇんだが、水瀬に悪気はなさそうだった。…こういうタイプは、少し苦手だ。ペースを崩される。悪気がない分、扱いづらい。
「でっ!どうなの?花音ちゃんは入る気になった!?」
「うーん…楽しそうだとは思うんだけど、一晩考えさせてもらってもいいかな?」
「ああ。いきなりアメフトっつっても、ルールも知らねぇだろうし」
「それは大丈夫。従兄がやってるからそれなりに…」
「え!?そうだったのー!?なら尚更やってよ花音ちゃーん!!」
「だから水町!順序考えろって!」
「ふふ、前向きに考えるね」
そういってふわりと花が咲いたように笑われて、一瞬ドキッとしてしまった。大平・大西すら喧嘩するのをやめた。小判鮫先輩や他の先輩達もちらほら赤くなってる。これは確かに…可愛い。
「ンッハー!やっぱ花音ちゃん可愛い~~!!」
「ひゃあっ!?」
「おい離れろ水町!!」
「わ、ワイカーな子だとは聞いてたけど、こんなレベルタイカーだったんだ!!」
「俺は前から知っ「僕のほうが先だった!」
「なんだとー!?」
「大体君はいつもいつも…っ」
「お前らもうるせぇ!!」
とりあえず、いきなり水瀬に抱きついた水町を引っぺがし、ついでに大平達も止める。水瀬は少し困りつつも、楽しそうに笑っていた。
そのあと一度見学してみたいといわれ、先輩方と練習試合を組んだ。水町がいつも以上に張り切っている。プレーが終わるごとに水瀬の方にブンブンを手を振り、彼女も控えめに手を振り返していた。
「ンッハー!こりゃやるしかないっしょー!花音ちゃんにカッコイイとこ見せたい!」
「水町くん、やはり君は水瀬さんを…」
「あ、バレた?花音ちゃん好きなんだよなー!癒されるし可愛いし!」
「まさかお前、そんな理由で?」
「いやそれだけじゃなくて「筧くーん!」
「筧先生ー!!水瀬が呼んでます!!」
「ああ。丁度攻撃だし抜けるぞ」
「いってら~」
大きく手を振り俺を呼ぶ水瀬の元へ向かうと、彼女は真剣に俺を見つめた。一体どうしたんだ…?
「右手のテーピング解けてない?」
「…なんで」
「巻き直そうか。利き手だし手伝うよ」
確かに最後のプレイで、少し緩くなった気がしていた。でも、そんなの…コイツいつ気がついたんだ?
もやもやしている間に水瀬は丁寧にテーピングを施していた。自分でも出来るけど、かなり手慣れていて上手い。出来たよ、と言われて巻いてもらった右手を見る。痛みを感じない、完璧なテーピングだった。
「どうして、気がついた?」
「途中で動きが悪くなったから。怪我まではいかないけど、解けたのかなって」
「よくそれだけでわかったな」
「水町くんの方を見てたから。あ、でも1年生チームしか把握出来てなかったよ」
と、ゆるく語るが、11人を見つつすぐに俺の異変に気づけるのだろうか。かなりいい目を持っていると思った。
ふとベンチの上を見ると、ノートにやたら数字と文字がびっしり書いてあった。少し借りて見ると、癖や確率が事細かく記してある。
「これ、全部書いたのか?」
「つい癖で。私の見解だから、参考にならないかもしれないけど」
「いや、確かにこの癖とか…確率までこんなに細かく」
「ンハッ!ビビったっしょ筧ー!」
いつの間にかハーフタイムになったらしく、水町がタオルを被りながら傍に来た。続々と他のライン連中もやってきて、威圧感のせいからか、やはり水瀬は少し怯えていた。
「なぁ、この水瀬って…」
「数学チョー出来んの!計算早いのなんのって!この前の数学一番だしさ!」
「そんな、そこまで凄くないよ」
「とかいって、理数科特待で入ったじゃん!超天才!」
「…いや、私に才能なんて」
「謙遜するな。すげぇ才能だ。もしやる気があるなら、真剣に考えてくれないか」
「でも私、体力なくて前に倒れちゃって。もしかしたらダメって言われるかもしれなくて、ですね」
そういって、申し訳なさそうに小さくなる水瀬。確かに華奢で、見るからにか弱い女の子って感じだ。せめてマネージャーの業務云々はいいから、データ分析や補助だけでもやってほしい。なんだかんだ水町はいい人材を連れて来てくれた。最も、何故こんな逸材が今まで眠っていたか謎だが…
「じゃあまた明日、お返事しに部室に伺います」
「ああ。わざわざありがとな」
「こちらこそ。もしマネージャーになれなくても、筧くんの夢は応援してるよ」
そういって微笑んでくれた彼女を見て、いきなり心臓を掴まれたように苦しくなった。苦しいけど、この感情は…嬉しさだ。ただ純粋に嬉しかった。出来ればいいほうの返事を期待したい。すごいやつだからとかそういうのを抜きにしても、俺は既に水瀬個人を必要としていた。
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