19.秋大会とアメリカ*
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「マジでいいの?行きたいんじゃないの?」
「私より摩季ちゃんのほうが先輩なんだから、摩季ちゃんが旗入りすべきだよ」
「絶対水町とか筧に嫌な目で見られんだけど~」
「そんなことないよ。私まだ調べたいことあるから、みんなを頼むね」
「っとに、真面目なんだから。じゃあ、頑張ってねー」
「ありがとう。いってらっしゃい」
秋季東京大会の開幕当日。私は留守番しつつ、一回戦の相手になる柱谷のデータをまとめた。現段階で巨深の評価が低い分、上手く裏をかけるはずだ。ダークホースとして出るには打ってつけだろう。鬼兵さんって人が厄介だけど、最悪スタメンに入れ替えればなんとかなるはず。
「そこで勝った場合、次は恐らく賊学」
不良が多いことで敬遠しがちだけど、これもカバー出来ると思う。あの過酷な練習で体力もついたし、カメレオン式で選手交代されても問題ない。その後で厄介なのが…
「泥門のヒル魔妖一、一切情報出ないなぁ」
でも、このヒル魔さんと同じくらい問題なのが、このアイシールド21。駿くんの話と違うから、多分偽物だと思う。怒りそうだから教えてないけど。泥門自体は、攻撃力に特化した…西部みたいな感じかな。ウチとは五分五分ってところだろう。
私としては、Aブロックに西部がいるのが非常に厄介なんだけど。Bブロックには王城や盤戸もいるし…
「よし!頑張ろう!」
今日が初試合になるところもあるけど、私達の試合は来週。それまでに、出来るだけ情報をまとめたい。摩季ちゃんに任せた分、私は徹底して分析を進めた。
そして、あっという間に時間は過ぎ、ついに…
「いえーい!初試合~!」
「1年生はまだベンチだよ」
「わかってるって!秘密兵器だもんなー!」
「花音は逆サイドのカメラ頼む。軽く変装しといてくれ」
「うん。こっちは頼むね」
「はいはい」
柱谷側から撮ろうと、帽子とメガネで変装して席を取った。こっちは鬼兵さんのファンが多いみたいだ。
…あ。あの手前にいるのは泥門、かな。栗田さんが飛び抜けて大きい。ヒル魔さんも見た目だけで既に怖い。
「…セナ、くん?」
ちらっとしか見えなかったけど、昔の知り合いがいた気がした。でも、気のせいだよね。本人だとしても、ただの観戦のはず。昔からセナくんって怖がりで、ちょっとビビりな感じだったし、流石にアメフト部なんてことは…
「あっ、今は集中しなくちゃ!」
柱谷を観戦しているように見せながら、私は途中で入れ替わった健悟くん達の活躍を見て微笑んだ。1年生のみんなは大会初めての一勝…夢への第一歩を踏み出したね。
それから、バスに乗る前に選手達と合流した。もう偽アイシールド21と接触してたなんて、思いもしなかったけど。
「はぁ、はぁ…皆さんお疲れ様でしたー!」
「ンハッ!花音ちゃんもお疲れー!」
「そうだ健悟くん、さっきガム飛ばしてたでしょ!そういう行為と、安易に人を見下すのはやめなさい!」
「あちょー!筧にもおんなじこと言われた!ごめんってー!」
「もう…駿くんもお疲れ様。試合はどうだった?」
「花音の言った通りの動きだったから、思ったより楽だった。サンキュ」
「それは良かった。あ、先輩方!お疲れ様でしたー!」
「ありがとう。まぁ水町達に任せっきりだったけどな…」
「へへ、次も任してくださいよー!」
わいわい盛り上がる選手達とは対照に、今日の柱谷のようにもう試合が終わってしまう人もいる。悲しいことだけど、これがトーナメントで。駿くん達が目指すてっぺんは、もっともっと上の…
「花音、みんな先に行ってるぞ」
「え!?い、今行くよ!」
「疲れたか?ミーティング、明日にしてもらっても…」
「ううん、大丈夫だよ。公式戦デビューおめでとう」
「まだスタートラインだけどな」
「筧先生は相変わらず真面目だね」
「だーから…先生って言うなって!」
「いだだ!痛いよもー!」
疲れを感じさせない、いつも通りの駿くんの隣を歩く。なんとか公式戦デビューは上手くいったみたいだ。大平くん達はまだだけど、出来るだけ隠した方がいいかな。私はもう既に、次の試合のことを考えていた。
それが全部無駄になるなんて、考えもせずに…
*****
2回戦である賊学戦の前々日…金曜日だった。雨が酷くて、日曜日もどうなるか不安になっていたころ。
―…私宛てに、突然の悲報が舞い込んだ。
「水瀬!水瀬はいるか!?」
「監督?どうなさったんですか?」
「お前のお父さんが、事故に巻き込まれたって!」
「…え、?」
「大分危ない状況らしい。今、応急処置を受けているようだが…」
頭が真っ白になった。監督が一体、何を言っているかわからない。お父さんが、事故…?そんな、なんで…危ない状況ってなんで…
「…花音」
「あ…っ」
「気持ちはわかるけど落ち着け。ゆっくりでいいから」
駿くんは震える私の肩を抱き、視線を合わせた。綺麗な青。海のように澄んだ瞳。いつもその目で私を見てくれる。傍にいてくれる。真面目で優しくて、大切な友達。
しばらく見つめていると自然と震えは落ち着き、彼はホッとしたような表情をした。
「大丈夫。根拠はねぇけど、きっと大丈夫だから」
「う、ん…」
「ある程度の着替えと金とパスポート持って、チケットの手配。出来るな?」
「うん。出来る」
「よし、あとは任せろ。いない間の勉強も分析も、俺がなんとかする」
「でも、折角の試合前なのに私…」
「俺達を信じろ。お前は親父さんの心配だけしとけ」
「ん…信じてる、ね」
「ああ。ちゃんと勝ち進んで待ってるから」
「そーだよ花音ちゃん!不安だろうけど、お互い頑張ろうな!」
「うん!気を確かにバンガーだよ!バンガー!」
そういって、全員が安心させるように笑ってくれた。大丈夫。みんなを信じよう。
私はすぐにりっくんやおばさん達に連絡して、 アメリカ行きの準備を進めた。最終便が残ってたからそれを利用することにしたけど、内心は不安でいっぱいだった。お父さん、どうか無事でいて…
*****
「何これ、すごい人混み…!」
何かイベントがあるらしく、到着してすぐ…まだ朝だというのに人で溢れていた。どうしよう。いつもお父さんが迎えに来てくれるから、この辺の場所とか知らないのに…
「あれ、カノン!?」
「っ!パンサーくん!?」
「お久しゅうござる!Ah…カンコーに、キタ…の?」
「違うの!あの…Father for an accident(お父さんが事故で)…えっと、I want to go to the hospital(病院に行きたくて)!」
「マジで!?A hospital in wherever(何処の病院)!?」
「確か、NASA…きゃっ!?」
「I guide you…案内、するよ!」
そういってパンサーくんは、私を担いで走り出した。驚くことに、道じゃない道を走ってる。屋根の上とか、どうやって登ってるの!?そんなところ走って大丈夫なの!?
「ぱ、パンサーくん!ホントに大丈夫!?屋根の上飛んでるよ!?」
「だいじょーぶ!」
「全然大丈夫じゃなさそうなのに!」
流石黒人のバネは違うというか、この渋滞なんか関係ないように軽やかに走り抜ける。人間の限界を超えたんじゃないかっていうくらい、すごい速さで。私や荷物の重さはカウントされてないのかな?
病院に着いてからは、パンサーくんが英語で質問して、病室まで案内してくれた。お父さんはあちこち包帯が巻かれていて…とても、痛々しかった。翻訳を聞くと、仕事帰りに突如、テロ紛いの事故に巻き込まれたらしい。
「お父さん!目を、覚まして。お父さん…っ」
ぎゅっと手を握っても、目は開かない。お父さんは…10年前、お母さんが亡くなったショックで、大きな仕事をダメにしてしまった。その借金を一人で背負うことになり、今はアメリカで必死に働いている。私を日本へ送る案を出した方の話に乗ったのも、純粋に娘の幸せを願ってのことだった。どんなに大変でも、毎年学費だけはきちんと出してくれる優しい父だった。
…だから私は、夢の第一段階として特待生になった。お金が掛からないように。私の存在が、負担にならないように。
「……カノン、言いづらいんだけど、その、応急処置とは別に、手術リョーいるって」
「ぐすっ…いくらくらい?」
「えっと~10万ドル。ニホンエンだと…」
「いっせん…まん」
気が遠くなりそうな金額だった。そんな大金がすぐに出るほど、裕福じゃないのはわかっている。寧ろ…マイナスだから。でも、今その額が払えないとお父さんの命が危ない。急がないと重症の足なんて、動かなくなるかもしれない。
すぐにそんな大金を貸してくれそうなところは…可能性があるのは、あそこしか…
「…パンサーくん、一週間以内に用意するって伝えてもらえる?」
「One week?で、だいじょぶ?」
「うん。必ず用意するって」
それから彼がお医者さんと話をつけてくれて、お父さんの手術が始まった。不安で仕方ない私の手を、パンサーくんはずっと握っててくれた。手術は何時間も掛かり、途中で彼は寝てしまったけど、手だけは絶対に離さなかった。
「パンサーくん!パンサーくん!Get up(起きて)!」
「Oh, it is a grandma what(う~ん、何?ばあちゃん)…」
「おばあちゃんじゃなくて。あのね、手術が成功、したんだって…っ」
「えおおおああ!?Really!?マジで!?」
手術が終わったのは21時過ぎだった。嬉しさのあまり抱き着いてしまったけど…学校を休んでまで付き添ってくれたパンサーくんには、本当に申し訳ないことをしてしまった。必死に謝っても「成功して良かったね!」と、いつものように笑って誤魔化されてしまうし。初めて会った時と変わらず、本当に優しい人だなぁ。
「カノン、ホテル取った?」
「あっ!まだ…でも今からじゃ難しいよね」
「そうだね。フェスティバルでいっぱいだろうし、デンシャもそろそろなくなるし…俺んち来る?」
「…へ?」
「いいいや、ばあちゃんもいるし!ボロアパートだけどさ!」
「そんなこと!あの、いいなら是非お願いします」
「…!にしし!じゃあ帰ろっか!」
今更だけど、パンサーくん…日本語がすごく上手になった。結構普通に会話出来る。私も英語を頑張ってみたけど、日本語のほうが楽だから甘えてしまっている。もっと筧先生に教われば良かった。本場なだけあって、テンパって上手く話せないのも事実だけど…
「パンサーくんのおばあちゃん…えっと、it’s been a long time(お久しぶりです)」
「It was serious.Take a rest slowly(大変だったね。ゆっくり休んでおいき)」
「…Thank you(ありがとうございます)」
「Panther!Buy breakfast for a pretty young lady if I get up(パンサー!起きたら可愛いお嬢さんのために朝ごはんを買っておいで)!」
「OK!」
「…?」
「カノンは、ばーちゃんとこね!オヤスミー」
「うん。今日は一日ありがとう。おやすみなさい」
朝ごはんのことを話してるのはわかったけど、まさか私だけパンで二人はオートミールだなんて思わなかった。お金を払おうとしても、パンサーくんのおばあちゃんは一切受け取ってくれないし。うーん…他の方法でお礼を考えなくちゃ。
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