18.出迎えと海
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「りっくーーん!!」
「花音ーー!!」
「お疲れ様っ、大好きだよー!」
「知ってる!俺もだ!」
姿が見えた瞬間、駆け寄って思いっきり抱き着いた。一ヶ月ぶりのりっくんは、なんだか逞しくなったように思える。背…伸びたかな?気のせいかな?春に計った時は同じだったけど、少し高くなった気がする。
「りっくん、ぴしーっ!」
「…?こうか?」
「あー!やっぱり抜かされてる気がする!」
「当たり前だろ!兄貴として妹に抜かされる訳にはいかない!」
「小3の時は、私のほうが大きかったもん!」
「一体いつの話してんだ!」
そんな調子で揉めていると、後ろから続々とキッドさん達がやってきた。わー日焼けがすごい…テキサス合宿、大変だったんだろうな。それでも雰囲気がまったりしてるのが、キッドさんらしいけど。
「お姫様、お迎えありがとう」
「………」
「キッドさん!鉄馬さん!あと皆さんお久しぶりですー!」
「以下省略か!いや、俺部長だぞ部長!」
「花音ちゃーん!!俺もいるぞぉ~!!」
「はい!牛島さん、監督さんもお久しぶりです!」
「…というか、普通にスルーされてるけど、筧氏と水町氏もお疲れ様」
「ああ。どうも」
「ンハッ!お久しぶりっス!」
小判鮫先輩に「りっくんを迎えに行きたいです!」ってお願いしたら「誰か付き添うならいいよ~」と言われて、駿くんと健悟くんが来てくれた。筋トレも兼ねて、2人は走って私は自転車だったんだけど。
ちなみに自転車は小判鮫先輩に借りたもので、私の隣を二人とも余裕で走っていた。なんかもう…流石です。
「甲斐谷、これ」
「ああ、サンキュ。あれ以降使ったか?」
「例の風邪の時だけだな。でも俺の監督不行届きだったし、あれから飯もちゃんと食うようにさせて、帰りもほぼ送って、ナンパ云々はひたすら潰し「もういい。わかった。筧に任せて正解だった」
「…なら、合格か?」
「保護者としては、な。本当に感謝してるよ。あとお前、写メ撮るの上手いよな。特に浴衣のなんて、花音の可愛さが最大限に…あ、お前のデータ消せとまではいわないぞ。ただし、流出させた場合は覚悟しとけ」
「お、おう…」
「二人とも、何の話してるの?」
「なんでもねぇよ」
「男同士の約束ってやつだ」
駿くんがりっくんに何か返していたけど…あれは、鍵?私が作ったサボッテンナーのマスコットが付けてあった気がするけど、気のせいかな?不思議に思いつつ見つめていると、急に変なお面を被った人が目の前に現れた。
「悪い子はいねーかー!!」
「きゃー!ど、どうしよう!私攫われちゃうかも!」
「大丈夫だ花音!俺が守ってやる!それ以前に、お前はいい子だから…フッ、昔っからああいうのに騙されて可愛いな…寧ろもっとやれ」
「陸、心の声まで漏れてるよ。君も君でそれ、ナマハゲじゃないからね」
「ンハッ!違ぇんだ!」
「インディアンのお面、成り行きで余ったの貰ってねぇ」
「おう!花音ちゃんへの土産のお菓子もGUNGUN買ったぞー!」
「「わーい!」」
「なんで水町まで混ざってんだ」
相変わらず、西部の皆さんは気前がいいというか…他にも個人的にお土産を貰って、すぐに私のバッグはいっぱいになってしまった。キッドさん達みたいなテンガロンハットも貰ったし、なんだか一気に雰囲気がアメリカンだ。
「そういえば、花音ちゃん達。お迎えは嬉しいけど、部活中なんだって?」
「はい。主将に許可は得て来ました」
「そうだったな。俺はすぐ家に帰るから、部活戻ってくれよ」
「え、でも」
「昼は適当に済ませるから、夕飯は頼んでいいか?」
「わかった。合宿お疲れ様。家でゆっくりしててね」
「ん、また後でな。筧達もサンキュ。花音を頼む」
「任せてくれ」
「お疲れーっス!」
今から5日間、西部の人達はお休みらしい。私達はというと、お盆休み以外びっしり練習が入ってるんだけど。
そして、2人と一緒に学校へ戻っていると、健悟くんが急にまた脱ぎ出した。ああもう!そのクセどうにかならないのー!
「あっちー!海行きてー!」
「それより服着てってばー!」
「まぁ、暑いのは確かだけど。花音、水分摂ったか?ほらお前の」
「ありがと…じゃなくて、一緒に怒ってよー!」
「もう怒り疲れた」
「お、お疲れ様です」
「花音ちゃんもそろそろ慣れてくれりゃいいのにー!」
「男の人の裸に慣れるわけないでしょ!」
そう言ったら、二人ともきょとんとした顔で私を見つめた。その後は、何故かヒソヒソ話をしてる。すぐに駿くんが真っ赤になったんだけど…一体何の話?
「でもほら、やっぱ花音ちゃん経験ないんじゃね?ね?」
「…それ以上いうと、その川に落とすぞ」
「うわー別に泳げるし助かる自信あるけど、容赦ねぇな!」
「わ、私何か変なこといった?」
「いーや!オ~ケーイ!花音ちゃんの為に一肌脱ぎ…じゃなくて着まっす!」
背が高い2人で話してると、全く会話が聞こえない。とりあえず、健悟くんが服を着てくれてホッとした。
それから無事戻ったものの、アメフト部の人が誰もグラウンドにいない。もしかして、ミーティングしてるのかな?と、3人で部室へ向かってみた。
「「「ただいま戻りましたー」」」
「ああ、おかえりー!って、大変ヘンタイ大問題なんだよ!」
「どうしたんですか?」
「いや、ウチにね!月刊アメフトの取材が来るんだって!」
「おー!すっげー!」
「それの何が問題なんですか?」
「何がって!花音ちゃんがバレたらどうすんの!」
「へ?」
「花音ちゃんがマネだってバレたら、試合のたびに勧誘&ナンパされるだろうし!渋谷ちゃんは今日休みだけど、ウチの子達はワイカーだからホント困るよ~!」
そういってあわあわし出す小判鮫先輩。いや、摩季ちゃんはともかく私はどうでもいいんじゃ…?と、思ってたら駿くんや健悟くんまで真剣に悩んでいた。そ、それ悩むところ?
「…それは、マズイですね。花音は容姿に加えて、分析力もある。他校から勧誘されてもおかしくない」
「ぜってーやだそれ!ウチのマネなのに!他の部からも必死に守ってんのに!」
「あと筧達は秘密兵器にしたいし、ちょっと花音ちゃん連れて出掛けてきてよ!」
「マジすかー!んじゃ海行こう海!!」
「泳げばそこそこ体力つくからな。花音、体調はどうだ?無理にとは言わねぇけど」
「え、と…大丈夫だと思う」
「じゃあ、大平達も連れて花音ちゃんの護衛は頼んだ!」
「「はい!」」
…と、いうわけで、本当に海に行くことになりました。最近形になってきたフォーメーション・ポセイドン組…1年でも特に高い4人と私。自分がなんだかものすごく小さく見えて悲しい。この男性陣で191cmの駿くんが一番小さいっていう異常さだもんね。
「でも花音ちゃん、まさか水着持ってないとは…」
「それより、泳げない以前に海に入るの初めてってのが…」
「うーん…私、すぐ赤くなっちゃうから。体育も見学してるし」
「大丈夫ですか花音さん!僕が日陰を作ります!」
「何を!?俺の方が面積が広いぞ!」
「あ、ありがとう。既に身長差で日除けになってくれてるよ」
丁度影になるあたりにいるから、厚意はとても有難い。若干本人達が暑苦しいとは、言いにくいけど。
今日は元々プール借りてトレーニングする、って言ってたから全員水着は持っている。健悟くんは例のイルカも。私は足付けて涼みたいな~と思って一応着替えを持っていたから、直接海へ向かってるんだけど…日傘や帽子で防いでも、日差しが強くて辛い。うう…あとどれくらいあるんだろう。
「大丈夫か?氷食ってろ」
「ありがと。さ、流石に暑いね」
「もうすぐ着く頃なんですが…」
「おおお!見えてきたぞ!」
「っしゃー!!海だー!!」
そう叫びながら、健悟くんは勢いよく走り出した。身長差のせいか私にはまだわからなかったけど、もう少し歩くと確かに海が見えた。わー綺麗!前に見た時と違って、夏らしい青さでキラキラ光って眩しい。
「先に着替えて来ないとな。そこが女子用だ。着替え終わったら一旦ここに集合」
「うん。了解です」
といっても、普通に服を着替えるだけなんだけど。薄めのTシャツにハーフパンツを履いて、軽くパーカーを羽織る。うん。足付けたいだけだし、これくらいで十分だよね。みんなはまだかな?なんか、やけに色黒な人ばかりいるような…
「貴様」
「へ?は、はい!」
「余が通れぬ。退け」
「す、すみません!」
余?余って言いましたか、このお兄さん。何この気品溢れるこのオーラ…あれ?もしかして太陽スフィンクスの原尾さん?向こうにラインの番場さんや笠松さんもいる。高さというより重さっていうのか、違った意味で大きい。
「…その格好で海に入る気か」
「いえ、少し入るだけの予定で」
「ふん。この場所は初めてだが、海を舐めるでないぞ。心しておけ」
「はい!き、気をつけます!」
まさに王様、って感じで冷や冷やする。別に悪いことしてないのに、土下座でもしなきゃいけない気分だ。彼は一瞬フッと笑ったあと、サーフボードを持って立ち去った。
…怖かった。なんか違った意味で怖かった。何故神奈川の方々が、こちらにいらっしゃるのですか。王様の気まぐれですか。
「おっ、いたー!花音ちゃん、日焼け止め塗った!?まだなら俺が、ふげっ!!」
「そっちにいたのか。ほら、パラソル立てたからそこ座ってろ」
「ありがとう。あの、健悟くんは大丈夫?」
「放っとけ。なんか太陽の連中もいるから注意しろよ」
「ってて…復活ーっ!そうそう!すっげーでけーし、気をつけてね!イルカに見張り番させとくから!」
「ふふ、ありがと。ここで見てるから、いってらっしゃい」
それから全員荷物を置いて、一斉に海へ飛び込んでいった。しばらく眺めた後、私は折角だから太陽スフィンクスのデータを見直すことにした。
重量級のライン、か。いくら健悟くんでも、防ぐのは厳しい気がする。万が一小判鮫先輩に当たったりしたら、潰されちゃいそうだし。どう対策を練ったらいいんだろう…と色々考えていたら、急に頬にひんやりした感触がした。
「ひゃあ!?」
「クス…ほら、差し入れ」
「あ、ありがと。もー普通にくれればいいのに」
「なんか難しい顔してたから、無性にからかいたくなった」
「何それー!」
怒りつつ目を合わせて、ハッとした。泳いできたから濡れてるのは当たり前なんだけど、長身でがっちり引き締まった体をした彼は、その切れ長で綺麗な瞳で私を見つめながら少し意地悪く笑う。
…まさに、水も滴るいい男の典型というか。ううう~元々カッコイイなーとは思ってたけど!それは反則なんじゃないですか筧先生!何その色気!女の子もいっぱいこっち見てるよ!
「…?どうした。熱中症か?」
「駿くんのせいだよ!」
「は?」
きょとんとした駿くんを放って、貰ったかき氷をやけ食いのように食べた。ああ、もう…目合わせられないよ。恥ずかしいよ。
駿くんや健悟くんを筆頭に、アメフト部はモテる人が多くて困る。大西くんは頭良さそうでバカなギャップが可愛い、とか言われてるし、大平くんは浦島先輩が狙ってるし。小判鮫先輩も人柄が良くて、結構人気があるらしい。今まで嫉妬の中傷は受けなくて良かった。
1/2ページ