11.弱肉強食
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「多分こっちだね。アメフトの試合やってんの」
「あ!あれそうじゃないですか?」
「おーやったね!ビンゴだ!えーっとゴンビー!」
今日は少し遠出して、小判鮫先輩と一緒に偵察に来ていた。東京だけでも出場校が多いから、まだ他の学校までは調べ尽くせていない。先輩に着いていく感じでSIC地区の練習試合を観に来たけど、そもそも…
「先輩。このSIC地区ってなんですか?」
「あ~それね。埼玉・茨城・千葉の頭文字だよ」
「じゃあ、ここから一校選ばれるんですね」
「そうだねー東京は3校枠あるけど、こっちは厳しいんだよ」
話しながら歩いていくと、試合の準備をしている選手がたくさんいた。なかなか濃い顔をした、自称四天王という人もいる。
…でも、なんだろう。それよりもっと強い脅威を感じる。
「あの、何か嫌な予感がします。強敵が潜んでるような…」
「だ、大丈夫だって!えーっと、この白秋?とか、評価も低いし多分弱小!ヨイワーっしょ!」
「……おい」
「…っ!」
悪寒を感じて小判鮫先輩を押して避けると、後ろからガシャンッ!と何かが割れた音がした。恐る恐る振り向くと、2m近い大柄な…野獣のような人が立っていた。
「はははひ…ば、バケモン…!」
「ウチのチームをバカにするな」
「…軽率なことを言ったのは謝ります。ただ、ウチの選手に手を出さないでください」
「ほう。女ながら、いい目をしている」
「何がいい目をしている、だよ!!他校ましてや女の子に手ぇ上げるなっちゅう話!!」
そういってその人の後ろから現れた、下まつ毛の長いお兄さん。慌てて野獣のような人を止めている。知り合いの人かな。コーラ瓶が割れた跡があるけど、さっき割れたのはあの人の…?じっと観察していると、怪獣さんがまだ私を見つめていた。
「女。お前は何処の学校だ」
「巨深高校。巨深、ポセイドンです」
「覚えておこう」
「あーおい!峨王!ったく、すみませんウチのモンがホントに…」
「いえ、こちらこそ。コーラが掛かってますけど大丈夫ですか?」
「え?ああ。ちょっとアイツが暴れたせいでね」
「良かったらどうぞ。染みになっちゃいますから」
「いや、そんな。君に怪我は?」
「大丈夫です。さっきの方にも謝っておいてください。私に掴まっていいですよ小判鮫先輩」
「う、うん…」
お兄さんにハンカチを渡した後、私はまだ目が回っている先輩を支えて、よろよろとベンチまで向かった。そして、時間は掛かったけどなんとか座らせることが出来た。小判鮫先輩も小柄に見えて男の人だもんな。け、結構重かった…
「ごめんね。なんか腰抜けちゃって、あはは…先輩なのに情けねー」
「いいんですよ。小判鮫先輩に怪我がなくて安心しました」
「花音ちゃん、強いね。あんなの見たら普通泣くって」
「もし先輩が怪我をしていたら、泣いてたかもしれません」
「…花音、ちゃん」
「要注意校もわかったことですし、落ち着いたら帰りましょうか」
「え、でも他にもいくつか…」
「間違いなくSIC地区を勝ち上がるのは―…白秋です」
あの峨王、と呼ばれていた怪獣のような人はもちろん強そうなんだけど…同じく問題なのが、コーラが掛かっていた彼だ。見た目はセレブっぽいオーラだけど、何よりあの目。心配しつつも、私達を観察するような目が気になった。
「あー…うん。そろそろ大丈夫かも」
「じゃあ、お弁当でも買ってのんびり帰りましょう」
「ははは、1時間も掛かって来たのになぁ」
「たまにはいいじゃないですか。先輩に教えてもらって、私も勉強になりますし」
「え、ホント?よ、よーし!じゃあ今度はドラゴンフライについて教えよう!」
「はい!お願いします!」
それからまた電車に乗って、東京へ戻った。ダークホースどころの騒ぎじゃなさそうだ。こっちの強みが『高さ』なら、おそらく圧倒的な『力』で迫ってくるはず。
「マルコ。あの女がいる巨深とかいうのは強いのか」
「フェニックス中のエースだった筧と、進化する天才の水町、高校アメフト界No.1&2で背の高いヤツもいるな。総合じゃBってとこかね。さっきの女の子は、最近入ったマネージャーの水瀬花音ちゃん」
「ほう…花音、か」
「…可愛い見た目に反して、強い子だよ。今度謝罪とお礼を兼ねて、花束送りにいこうかな」
*****
「すみません。水瀬さんいますか?」
「ああ、花音ちゃんね。花音ちゃーん!」
「…?はーい」
偵察から数日後。データ整理をしていたら声を掛けられた。同じ一年生かな?一体何の用だろう。先生が呼んでたのかな。
「あの、校門で他校の人が貴女を探してて」
「私を?」
「うん。スーツ姿でチョイ悪っていうか、コーラ飲んでたけど」
「…コーラ?」
心当たりがあるような、ないような。女の子が顔を赤くしてるあたり、カッコイイ人なのかな。その子にお礼をいい、先輩に抜けると伝えてから私は校門へ向かった。
すると、見覚えのある男の人が花束を抱えながら優雅にコーラを飲んでいた。うん…絶対この人だよね。
「あの、すみません」
「ん?ああ、久しぶり。花音ちゃん」
「こんにちは。えっと…」
「紹介が遅れて失礼。俺は白秋の円子令司。でも女みたいな名字だし、カタカナでマルコ呼びにしてくれる?そのほうがイタリア男っぽくてチョイ不良風味じゃん」
「はぁ…」
「というわけで、よろしくね。子猫ちゃん」
「ひゃっ!?」
イタリア系のやんわりとした雰囲気のマルコさん。手の甲にキスとか何処の王子様ですかって感じだけど、違和感がなくて様になってるからすごい。長いまつ毛、着こなしたスーツ(後々知ったけど制服らしい)…独特の雰囲気に、思わず飲み込まれそうになる。
「そんなに見つめられると、流石に照れるっちゅう話だよ」
「ご、ごめんなさい!」
「なーんて、可愛い女の子なら大歓迎♪」
ぱちっとウインクするのもまたハマり役。当然のように持っていた花束を渡された。綺麗だけど、なんで?どうしてこんな人が私なんかに?と混乱していたら、にっこり微笑まれた。
「この前ハンカチ借りたっしょ?そのお礼にね」
「そんなわざわざ…しかも、花束まで」
「峨王のせいでお宅の主将さん半泣きにさせちゃったし、俺なりの罪滅ぼしだよ」
「それはこちらこそ。先輩もそこまで悪気があった訳じゃないと思いますが、失礼なことを言ってごめんなさい」
「いや、ウチにも似た感じの先輩いるから気にしないで。…ちゅーか目立つね、ここ。ちょっと移動していい?」
「あ、とりあえずこちらへ」
確かに校門前に、派手な外見の他校生がいれば目立つけど。そういえば今日は、プール使わなかったはず。その近くまで移動して木陰に入ると、マルコさんは鞄から小さな箱を取り出した。
「ありがと。これ、代わりのハンカチね」
「そんな気を遣わなくて…も?」
更にハンカチまで渡されたけど、私が貸したものの何倍するかわからない金額のブランド物。こ、これは…色んな意味で使えない。
「こんな高そうなもの受け取れません!」
「いやいや、遠慮せず受け取ってよ。あと敬語いいって。同じ一年だろ?」
「同じ一年って、ええええ!!?」
駿くん達も本当に一年!?って思ったけど、マルコ…くんも大人な雰囲気で信じがたい。まさか同い年なんて…私が子供っぽいのかな。年相応だと思うんだけど。
それにしても、なんで私達のこと知ってるんだろう。先輩はともかく、私なんか最近入ったばかりなのに。
「とにかくあの、いいから!お花貰ったし!」
「でも、もう買っちゃったしさ」
「本当に花束だけで十分だよ。こんな綺麗なお花貰ったの初めてだから、嬉しい」
青い薔薇や水色がかった花。ポセイドンカラーで、見ているだけで駿くん達を思い出して温かくなる。ピンク系の可愛い色も好きだけど、ちゃんとチーム色を考えてくれたのかな。マルコくんは喜んでいる私を見て、優しく微笑んだ。
「…それが霞むくらい、綺麗な花が目の前にあるっちゅう話だよ」
「へ?」
「いーや、なんでも」
「あ、でもマルコくん。気をつけてね」
「ん?」
「花束なんて、女の子の憧れだから。こんなの貰ったら勘違いしちゃうよ」
そういうと一瞬きょとんとしたマルコくんは、すぐにニヒルな笑みを作った。なんていうか、いやらしい…顔?
「花音ちゃん、狙ってる?」
「狙う…?」
「いやいや、わかってるよ。お姫様は天然って相場が決まってるっちゅう話」
でもね、と続けて壁際まで軽く追いやられた。それから壁に手を置いて、逃げ道を塞がれる。戸惑っている私に向かって近づいてきた唇が、ゆっくりと弧を描いた。
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