10.記念日
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約束通り、駿くんと水族館に行く日。3時間目までの授業で、駿くんが急いで帰ろうといったから、11時過ぎには家に帰っていた。朝練もなかったし、珍しく彼以外のアメフト部の人とは会っていない。というか、気のせいか会わないようにさせられていたような…?
「え!?ごめんね!もう待ってたの!?」
「いや、大丈夫だから。あんま走るとこけ「きゃっ!」…言わんこっちゃねぇ」
「ご、ごめんなさい」
連絡したら既に彼は家の前で待っていて、慌ててこけそうになったところを支えてもらった。謝りつつ離れると、はっきりと全身が見える。駿くんは相変わらずシンプルながら、お洒落な格好だった。
「…ワンピース、可愛いな」
「へ?あ、ありがとう」
「よく似合ってる。お礼は英語で?」
「せ、せんきゅーそーまっち!」
「下手くそ」
そういいながら、軽くデコピンされた。一応女の子なのに容赦ない。それに普段なら似合ってるなんていわないのに、今日は照れずに褒めてくれるし、妙に積極的でドキドキする。
…いつも以上に意地悪い駿くんに、戸惑いが隠せません。
「駿くんは、水族館好きなの?」
「ああ。眺めてると落ち着くよな」
「今度はちゃんと全部見たいな。あと、イルカショー見たいね」
「水町がいねぇから静かだろうな」
「ふふ、この前はビックリしたよ」
話をしながら移動していると、あっという間に水族館に着いた。会話をしつつも、ちゃんと降りるバス停を把握している駿くんは流石だと思う。そして受付の近くまで来ると、気になる文字を発見した。
「カップル割引だって。えーと…カップル来館は通常の500円引きです」
「カッ、プル…」
「…利用出来るものは利用しよっか。ちょっとくっついてもいい?」
「はぁ!?」
「だって500円引きだよ?兄妹に見えなければいいけど」
真っ赤になって慌てる駿くんの逞しい腕に少しだけ絡んで、チケット売り場に向かった。売店のおばさんに向かってにっこり笑うと、説明しなくてもカップル割引を適用してくれた。入場料って結構高いから、こういうサービスは有難いな。
「急にくっついてごめんね。少しでも安くなったほうがいいかなって」
「い、いや…別にいいけど」
「んー何処から回ろっか」
「そうだな。10分後にイルカショーやるらしいけど、先に見たいか?」
「うん!」
館内に入ってすぐ、イルカショーを見ることにした。かなり空いていたから、駿くんも前のほうで見れて良かった。この前は健悟くんの暴走して大変だったけど…今回はちゃんと楽しもう。
「わー!すっごいジャンプ!可愛い!イルカもシャチもみんな可愛いっ!」
「…さっきからお前が可愛いんだよ」
「え?何っ、きゃー!水飛んできた!」
「ほら、タオル」
「あ、ありがと」
水しぶきが飛んできて驚いたけど、用意周到な駿くんのお蔭で助かった。でも少しだけなら、涼しくて気持ちいいかも。駿くんはちゃんと楽しんでるのかな?さっきから私に合わせてくれてるけど。
「そういや、まだ昼飯食ってねぇな。何食いたい?」
「いうの忘れてたけど、お弁当作ってきたから大丈夫だよ」
「…は?」
「だからその、お弁当。嫌だった?」
「違う。ただビックリしただけだ」
「こういうところは高いから、節約しようかなーなんて…味は保証しないけど」
「いや、助かる。じゃあその辺のベンチで食おう」
それから木陰のベンチに座ってお弁当を広げた。昨日のうちに準備したのと、朝急いで作った卵焼きやその他諸々。自信がないけど大丈夫かな…と控えめにお弁当箱を開けると、駿くんは軽く目を見開いて驚いていた。
「美味そうだけど、多くねぇか?」
「りっくんよりは食べるかなって思って。残してもいいからね」
「や、出来る限り食う。いただきます」
「はい。召し上がれ」
「ん…美味い」
「そっか。良かった」
丁寧に食べてくれると、作った側としてはすごく嬉しい。あまり凝ったものじゃなくて定番のおかずばかりだけど、どれも美味しそうに食べてくれる。私もお箸を付けつつ駿くんを見ていると、丁度目が合った。
「なんだよ」
「ううん。綺麗に食べてくれて嬉しいなって。あと、デザートにケーキも作ったんだけど」
「…タイミング良すぎだろ」
「え?」
「別に。ありがとな。後で食うから」
出来る限り、といいつつ駿くんは綺麗に残さず食べてくれた。ケーキは流石に余計だったみたいで、私が少し多めに食べた。みんな美味しいっていってくれて嬉しい。
そのあと、軽くなったお弁当箱を持って、少し歩きたいって理由で水族館近くの海へ出た。
「うーみーだー!」
「流石に人いねぇな」
「まだちょっと肌寒いもんね。あっちまで歩こっか」
「ああ」
ざく、ざく、と足跡をつけるように歩いていく。「あんま遅いと置いてくぞ」って意地悪いいながらも、彼がいつも気を遣って歩幅を合わせて歩いてくれてることを、私は知ってる。一歩前を歩く大きな背中を追いながら、そっと疑問を投げかけてみた。
「ね、駿くんはどうして私のこと誘ってくれたの?」
「ん?」
「お礼するとはいったけど、テスト前のお休み潰しちゃうし、今日じゃなくても…」
「…言いづれぇん、だけどさ」
「うん?」
「誕生日なんだ」
「……え」
「丁度、午後休みだったから」
一瞬、時が止まったように私は固まった。誕生日?駿くんが?今日?突然の発言に、ぐるぐると目が回って倒れそうになる。えっ、嘘…だって…ええええ!!?
「な、なななんでいってくれなかったの!?駿くん誕生日なの!?今日!?6月6日!?」
「ああ」
「だ、だって!なんで!?いってくれたらお祝いしたのに!!」
「そんなことしなくても、俺は「おめでとうっ!」
「ありが「巨深を引っ張ってくれてありがとう!アメフトやっててくれてありがとう!いつもありがとう!」
「花音…」
「駿くんっ、生まれてきてくれてありがとう!16歳おめでとう…!」
一生懸命、気持ちを言葉にした。巨深は生徒が多いから、誘われてなかったらこうして仲良くなれなかったかもしれない。駿くんがこんなに頑張ってるって、怖そうに見えるけど本当は優しい人だって知らなかったかもしれない。貴方に会わなかったら、私はずっと我慢したままの優等生だったかもしれない。
駿くん、おめでとう。私を助けてくれてありがとう。精一杯この気持ちを伝えると、駿くんは噴き出すように笑った。
「ははっ、大袈裟だろ」
「でも私、駿くんと仲良くなれて良かったって思ってるよ」
「…俺も。今日、花音と一緒にいられて良かった」
「ホントに?みんなでわいわいしなくて良かった?」
「…I wanted to monopolize you today」
「え?もの、ぽー?」
「いや、なんでもねぇ」
「何?今のなんの英単語?」
「秘密。ほら、もう少し付き合ってくれよ」
「う、うん」
差し出された手は二周り以上大きくて、豆だらけで…でも逞しくて安心する手。いつも私を支えてくれる温かい手。ぎゅっと握り返すと、少し照れくさそうに微笑まれた。
駿くん。貴方が生まれた大事な日に、私と一緒にいてくれてありがとう。
「でもなんていってたのー?」
「…絶対いわねぇ」
“今日だけはお前を一人占めしたかったんだ”
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