1.プロローグ
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「はぁ…緊張した」
無事に面接を終えて一安心。テストは恐らく、問題ないと思う。万全の対策で挑んだから、いい結果を出せているはずだ。ただ面接で緊張してしまって、内容を覚えていないのが辛い。特待生なんて流石にレベルが高かったかな。でもあらゆる手は使ってきたし、大丈夫だと信じたい。
「…あれ、ここ何処?」
どうやら、考えながら歩いていたせいで迷ってしまったらしい。高い校舎に気を取られがちだけど、普通に広くて困る。なんで私、グラウンドのほうに来ちゃったんだろう。えーと、何処から行けば…
「おい」
「は、はい!?」
「お前、他校の生徒か?」
「他校というか、受験の面接に来たんですが…」
「ああ、新入生か。校舎の入口は向こうだぞ」
「いえ。もう面接は済んだんです。その後少し、迷ってしまって」
「…あっちにプールがあるだろ?そこ抜ければ正門に行くから」
「あっ、ありがとうございます!」
「部活やってる連中もいるから、気をつけて帰れよ」
「はい。ありがとうございました!」
長身で切れ長な目をした人に圧倒されたけど、すごく良い人だった。後ろから「筧先生ー!」って叫びながら、更に大きな人達が集まってきて驚いたけど。先生なんだ。筧、先生。ちらっと振り返ると、大きな生徒さんに囲まれながらも私を気に掛けているのがわかる。
最初は怖いと思ったけど、丁寧で優しい人だったな。もしこの学校に入ったら、上手くやっていけるかな。
「無事に、受かってますように」
それから一週間後、私は見事特待生として合格し、春から巨深高校に通うことになった。
*****
「すっげーな水町ー!」
「ンハッ!らっくしょー!」
「わ…すごい」
入学式も終わり、数日経ってわかったこと。この学校は巨人高校の間違いなんじゃないか、ってくらい背が高い人が多い。特に一年生は目立つ金髪の彼を筆頭に、体格の良い人ばかりだ。筧先生も大きかったけど、慕っていた生徒の人達は2m近くありそうだったし。一体何なのこの学校は…
「水瀬さん」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「入学早々のテストも、理数系は文句のつけどころがない。2教科共に満点でした」
「それは良かったです」
「まぁ、その、一部、問題もありますが…」
「…すみません」
「でも期待していますよ」
「はい。ありがとうございます」
良かった。きちんと結果を出せていたらしい。一応『特待生』として通うことになってるから、内心ほっとした。せめて理数系だけでも首位にならないと、特待生を降ろされてしまうかもしれない。
「ほら、また水瀬さん」
「やっぱ天才は違うよねー」
「そういや、すっげー噂が…」
―…どんな評価を受けてもいい。なんと言われようと構わない。“どんな手を使ってでも”…私は必ず、夢を叶えてみせる。
「乙姫先輩、こんにちは」
「あら花音ちゃん!見学?」
「はい。今日も見てていいですか?」
「ええ。もちろん」
「花音ちゃん、来てくれたのね!今日もやるわよーー!」
「う、浦島先輩…程々にしてくださいね?」
放課後はひっそりと、チア部を見学している。本当は入部する予定だったんだけど諸々の事情で入部出来なくて、応援するためのチア部を応援するおかしな立場になっている。先輩達はこんなに中途半端な私のことを快く受け入れてくれて、すごく嬉しいんだけど。
「ンハッ!ポーセイドーン!」
「…って、男の人が混じってる!?」
驚くことに、例の目立つ金髪の彼…水町くんがチア部に混じっていた。乙姫先輩が気になるって言ってたけど、確かに色んな意味で気になる。そして、先輩達に怒られて落ち込んでいる彼と一瞬目が合うと、何故かこちらに向かって突進してきた。
「え、ちょ、君!ちょーーかわいーー!!」
「あ、ありがとうございます…」
元気がいいというか、騒がしいというか。キラキラした目で褒めてくれてるのは嬉しいけど、無駄に近い。何か意味があってのことなのかな。
こんなこと言うのもなんだけど、割と外見は褒められる。クォーターで生まれつきブロンドに近い髪だし、瞳の色も変わっているから。でも、見た目や噂で判断されて少し複雑でもある。大事なのは中身じゃないのかな…
「君はチアやんないの?もしかして、怪我しちゃったとか?」
「ううん、怪我はしてないよ。見学してるだけ」
「じゃあ、部活入ってないんだ?」
「うん」
「ンハッ!俺と一緒じゃーん!」
そういって彼はニカッと笑ったけど、妙な違和感があった。あれだけの身体能力がありながら、部活に入ってない?見たところ怪我をしてる様子はない。寧ろ健康そのものなのに、一体何故?…なんて、勘ぐりすぎかな。色んなことに挑戦したいタイプの人かもしれないし。
「ね!俺と友達になろ!」
「友達?」
「うん!つか、決定ね!俺もう君と友達ぃ~!」
「えっと、ありがとう」
「なんでお礼?ま、いっか。携帯貸して!んーと赤外線は~」
「え、あの…」
その後、強引に連絡先を交換され、水町くんと友達?になった。水町健悟くん、か。悪気はないんだろうけど、ぶんぶん振って握手されると流石に腕が痛かったな。
*****
「行けー!!水町!!」
「頑張れー!健悟ー!!」
放課後、助っ人と称して大活躍している水町くんは、男女問わずみんなの人気者みたいだ。誰とでも仲良くなれるなんてすごいな。少し…羨ましいかも。
外の様子を窺いながら図書室まで歩いていると、5月過ぎなのにまだ部活勧誘をしている部があった。アメフト部、か。日本では割とマイナーなスポーツだし、人数不足なのかな。
「一応アメフト部!部員募集してるような、えーと名前だけでもいいっていうか…」
「やる気のあるやつだけ入ってくれ!!」
あ、例の筧先生が熱心に勧誘してる。隣は主将さんかな?まさに熱血教師って感じだ。見た目は少し怖いけど、あの真っすぐな瞳には惹かれるものがある。いつか先生の授業を受けてみたいな。
「―…えっ!?もうこんな時間!?」
図書室で資料を書き写してる内に、外は真っ暗になっていた。管理人さんが緩くて助かったけど、もう21時近い。まだメールは来てないから、保護者も帰ってないみたいだけど…今のうちに急いで帰らなくちゃ。
「…あれ?」
早足で校門へ向かっていると、プール際のライトがまだ点いていた。消し忘れ?それとも、こんな時間まで誰かいるの?いや、でもそんな…
「ざっぱーーん!!」
「きゃっ!?」
大きな声と、水しぶき。恐る恐る近づくと、誰かがすごい勢いで泳いでいた。飽きることなく何度も何度もターンして、まるで魚のように水中を駆け回る。思わずフェンス越しに、じっと彼の姿を見つめた。
「大会記録更新!巨深高校の水町選手、断トツ優勝ー!…なーんつって」
ようやく満足がいったのか、彼はプールから出た。水町選手と言っていたけど、確かにあれは水町くん本人だった。でも、明るく元気に笑ってる印象が強かったのに、今は憂いを帯びて悲しそうな目をしている。
「水町いい加減にしろ!更衣室閉められないだろ!」
「あちょー!すんません、つい!」
「お前もう水泳部じゃないんだからな!っとに頭おかしいんじゃねぇの!?」
元水泳部、ってことかな。勝手に泳いでいたなら水町くんが悪いかもしれないけど、あんなに楽しそうだったのに。誰が見ても泳ぐのが好きだ、ってわかるのに。どうしてあんなに酷いことが言えるんだろう。
部長らしき人がいなくなってから、水町くんは濡れた体を重たそうに引きずって倒れ込み、グシャグシャと乱暴に髪を掻き乱した。
「ははっははは…わかってる、はずなのに…バカみてぇ」
静寂に、笑い声が響いた。―…私は入学したばかりで、ほんの少ししか彼のことを知らない。それでも知らない人はいないくらいの有名人だ。スポーツが得意で、何事も楽しそうで、みんなを惹きつける。それは彼の立派な長所だと思った。
「…そんなこと、ないよ」
「うえっ!?」
いつの間にか言葉に出ていて、水町くんは驚いた様子で起き上がった。あ、つい!ど、どうしよう。知り合ったばかりで何も知らないくせに、失礼だったよね…!?
「花音ちゃん!?うわっ、聞いてたカンジ?超恥ずかしいんだけど!」
「何が恥ずかしいの?」
「え、と…俺バカだしさ。あ、笑っていいよ!寧ろそのほうがスッキリすっから!」
元気に見せてるけど、なんだか嘘っぽい。この人はすごく頑張り屋で、優しい人なんだろうな。騙されやすいくらい純粋で、真っすぐで…
「笑わないよ。おかしくなんかない。頑張りすぎちゃうくらい真っすぐな貴方は素敵だと思う」
「…え?」
「信じたいって思える人は、目を見ればわかるよ。その人を信じて」
そういうと、泣きそうな顔をしながら頷いてくれた。それから数日後「アメフト部に入ったから見に来て!」と教室まで押し掛けてきた水町くん。見学に行くと、71番が豪快なタックルを決めてこちらに向かって大きく手を振っていた。
でも、41番の人に怒られてるみたいだけど…あれ?もしかして筧先生?わざわざ選手と同じユニフォームまで着て熱心に教えてるんだ。本当に真面目な先生だなぁ。
「おーい!花音ちゃーん!」
「あ、水町くん。アメフト部はどう?」
「へへっ、楽しいよ!面白ぇーの!みんな一生懸命でさ、すっげーやる気出る!」
そういって水町くんは満面の笑みを見せた。自分の居場所を見つけられたみたいで良かった。
その後、なんかカッコイイ技が欲しい!と相談されて、
「ンハッ!ありがとー!また見に来てね!」
「うん。頑張ってね」
ぶんぶん手を振る彼を見送ってから、ゆっくりと腕を降ろした。
アメフト部…か。私にはアメフト部に関われない理由がある。だから遠目で眺めてるだけにしよう。そう思っていたのに、今まで出会った彼らによって、この考えを一気に変えられてしまった。
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