Chapter1
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「___つーわけで、朝礼は以上だ。」
朝礼はいつもと特に変わりはない。
変わったことといえば、この口の悪いクラス担任__
「だからお前ら。少しは俺の話に興味をもて。」
「相良ちゃんの話つまんねー」
「なんだと?」
生徒は担任の夏休み情報なんかより、早く始業式が始まって欲しいのだろう。クラス誘導の校内放送にしか興味がないようだ。
相良先生の夏休み話が花火大会まで進んだ時、このクラスの移動開始アナウンスが入った。放送委員の女子がクラス名を読み上げた瞬間、クラスの半数が廊下に飛び出した。先生はやれやれというような顔で首を緩く振ると、教室に残った生徒たちに講堂へ移動するように指示をした。
廊下にはまだ他クラスの生徒が移動している姿が見える。見慣れない人数のせいか、見知らぬ顔が多いせいか、いつもの学園とは違う気がして変に緊張してしまう。
生徒には柳聖ホールと呼ばれている講堂は一年生の教室がある校舎からは少し離れている。そのため、私たちが着く頃には講堂の入り口に行列ができていた。クラス誘導は行なっているものの、学年によって座る席が決まっていることもあり、友人や恋人と隣の席になろうとする生徒たちの大渋が起きている。それ以外にもチェスを間近で見るために前の方の席を巡って大騒ぎになっている。
結局時間内に騒ぎが収束することはなく、全生徒が席に着いたのは開幕のブザーが鳴り終わってからだった。
「__であります。そのため__」
始業式が始まって数分。校長の話は未だに終わる気配がない。
この話も数回目なのだろう。まともに聞いている生徒がいるようには見えない。かくいう私も菜々のチェス自慢を聞いているため、校長の話は耳に入っていない。
この学園の始業式は形だけで、すぐ生徒総会に移る。プログラムを見ればどちらを大切にしているのか一目瞭然。始業式は校長の話の長さにもよるが20分もかからないような内容になっていて、生徒だけでなく、教師もチェスの登場を待ちわびている。
気づけば校長の話は終わり、諸注意が始まっていた。
「__してください。そして、この地域でのヴァンパイアに関する被害報告が多く挙がっております。本校の生徒が巻き込まれたという連絡は入ってきていませんが十分注意をしてください。」
「あ、そうそう。多いらしいよ〜Crazy Vampire。怖いよねー…」
今までチェスの自慢話を嬉々として語っていた菜々がヴァンパイアの話題に切り替えた。
Crazy Vampireとは、血液の摂取量が足りずに栄養不足になったヴァンパイアが理性をなくして狂ったように血を求め、人間を襲うようになってしまう症状のこと。特殊な訓練を受けた人でも対処が困難なため、ヴァンパイアも襲われた人間も最悪の場合死に至るという危険な症状だ。
この症状の対策として、学校や職場などではヴァンパイア用に人工血液が配布されている。しかし、定期的に人間の血を摂取しなければ栄養は不足してしまう。
この学園に在籍しているヴァンパイアの生徒は、襟元に紫色の薔薇のピンバッジをする義務があるため誰がヴァンパイアなのか把握できるようになっている。しかし、普通の人では誰がヴァンパイアなのか見分けがつかないため避けようがない。
諸注意が終わった後も生徒たちはCrazy Vampireの話を続けている。それでもさすが柳聖生。閉会の言葉が終わり、休憩時間に入ると話の話題はすぐに生徒総会のことに変わる。
生徒たちのおしゃべりは休憩時間が過ぎても続いていた。席につけー、という先生たちの声が講堂中に響いているが、そんな声が興奮している生徒の耳に届く筈もない。
そのざわつきのまま開幕のブザーが鳴り、音と共に幕が上がる。
チェスが登壇する生徒総会が始まる合図に喜びの声が聞こえる。先程のざわつきは比にならない位の大歓声である。
隣に座っている菜々がキラキラした瞳で壇上を見つめている。
「静粛に。只今より、柳聖学園・生徒総会が開会されます。はじめに副会長の挨拶です。生徒一同、起立。」
司会の一声で一斉に立ち上がる生徒たち。
全員が立ち終え椅子の音が止むと、舞台袖から一人の女子生徒が出てくる。
副会長__
絶世の美女という言葉がこれほど似合う人はそうそういないだろう。生徒の目は先輩に釘付けだ。
副会長の登壇にあちらこちらで歓声が上がる。
「副会長ー!!」
「聖月様ー!!」
マイクの前に立つと、飛び交う声に笑顔で応えつつ深呼吸。
そして、
「静粛に。」
その透き通るような声で講堂が静まる。
「柳聖生の皆さん、おはようござます。副会長の宇秋です。」
副会長が話し始めると、今までのざわつきが嘘のように皆が話に集中している。
校長よりも長い話だったが、話を聞く生徒の目は真剣だ。中には写真や動画を撮っている者もいる。
話している人が違うだけでここまで反応が変わるのか。
生徒総会が閉幕した後も話題はチェスのことばかり。教室に戻ってからも、顔が良かった、声が素敵、同じ空気を吸えた、と興奮さめやらぬ様子。
「あぁ…麗しい…尊い…」
菜々は生徒総会中に(私が)撮影した動画を見返しながら、スマートフォンに向かって手を合わせている。
(菜々曰く、好きな人に対する敬意を表しているらしい)
終礼が始まったことにも気づかず、画面に集中している。
「ちょっと菜々、終礼始まってるから…」
「え?まじか。相良ちゃんいつ来たの。影薄…」
「作間ー、聞こえてるぞー。あとスマホをしまいなさい。」
「ウィッス」
返事はしても動画を見るのはやめていない。
本当に自由なんだから…
終礼では、Crazy Vampireの注意喚起があった。
「__つーわけだ。血液不足はすぐ俺にいうこと。それから怪我したやつも必ず報告すること。分かったか?」
「はーい」
「よし。んじゃ、解散。気ぃつけて帰れよ〜。」
相良先生はいつもと変わらず、すぐに終礼を終わらせて生徒より早く教室を出る。
きっと、面倒くさがりという点であの先生を超える人はこの学園にはいないだろう。そんな感じでもこの学園の生徒人気一番の先生なのだから驚くばかりだ。
「舞結ー、帰ろ」
菜々はもう教室の外に維た。
「今行くー」
「あ、この前言ってたクレープ屋行かない?」
「えー、あそこ遠いじゃん。また今度ね。」
そんな会話をしながら、見慣れない人口密度の教室をあとにした。