Chapter1
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「それでねー、もう超かっこよくてさぁー」
登校中も菜々の
話に夢中になっていると、気がつけばあっという間に学園の近くにきていた。柳聖の制服を着た女子数名が、スマートフォンを片手に走り去っていく。「急がなきゃ」「もう来ちゃう」なんて声が聞こえて何となく時計を確認する。
8:30
予鈴がなるまでにまだ30分もあるのに。
柳聖学園は普通の学校に比べて授業開始時間が遅い。これも全てヴァンパイアのためなのだが、人間にとっても朝の時間をゆっくりと過ごすことができるため助かっている。普段なら開始時刻ギリギリで学校についたり、時間を過ぎていてものろのろと歩いている生徒がいるのに。30分前にしては人が多いように感じる。菜々が生徒会に近づくために、と始めた花壇の水やりと手入れがある私たちは基本この時間に登校しているが急ぐようなことはないはず。部活勢の朝練ならとっくに始まっているだろうし。
すると、隣を歩いていたはずの菜々が急に目の前で足踏みを始めた。
「何してるの…?」
「やばい!急がなきゃ間に合わないよ!舞結!早く早く!」
「え、ちょっと!」
何を慌てているのかはわからないが、菜々に手を引かれ学園へと急ぐ。
学園に着くと、やけに人が多い。この時間だと生徒はほとんど歩いていない。いたとしても、見慣れた文化部の生徒が授業前に部室に寄るために来ているくらいだ。人がいるだけでも珍しいのに。
「ねぇ、いつもこんな感じだっけ?なんか、人多くない?」
「そんなの当たり前じゃん。始業式は全校生徒参加するのが決まりだからね〜。それに、
菜々は目を輝かせながら校舎の方へ進んでいく。
柳聖学園はヴァンパイアが通っていることもあり、登校日にばらつきがある。そのため普段の授業で全生徒が集まることは殆ど無いのだが、行事は別らしい。学園が指定した行事は決められた登校日数をクリアしていても、授業単位を取り終わっていても、生徒全員が集まるという柳聖学園では珍しい日だ。
その指定行事の中に始業式は含まれている。学園の生徒が行事参加に積極的な理由は必須だから、というわけではない。全校生徒必須参加行事は、柳聖学園生が大好きな
生徒会役員は超エリート。三年分の授業単位はとっくに取り終わっていて、生徒会室に登校しているだけという噂。普段会うのはほぼ不可能だという。おまけに美男美女集団。
もうアイドルだな…。
すると突然、正門の方から女子の甲高い声が聞こえてくる。
「キャー!!チェスよー!」
「本当に見れたー!」
騒いでいる女子達の視線の先には、生徒が避けてできた道を柳聖学園の真っ白な制服を着た6人が歩いている。
「おはよ〜」
「おはようございます」
「「キャー!」」
彼らはスマホを構えている女子たちの方に挨拶しながら、笑顔を向けたり手を振ったり。
挨拶しただけでこの歓声か…本当にアイドルだ。
チェス専用だという黒に金色の刺繍が入ったネクタイと襟元の赤薔薇のピンバッジがその存在を際立たせている。
「やだ、本物…。舞結、写真…写真を…。待ってやばい。手の震えが…めっちゃ写真ブレる…助けて」
チェスの登場に圧倒されていると、隣で菜々がプルプルと震えていた。
「少し落ち着きなさいよ…写真なら撮ってあげるから。」
菜々からスマートフォンを預かり、カメラを彼らの方に向ける。
どうやら美男美女というのは確かなようだ。
これは人気になるのも分かる気がする…
きゃあきゃあと飛び跳ねている女子軍の隙間からチェスの姿を捉え、数回シャッターを切る。
「はい、菜々。撮ったよ。」
「ありがとー!はぁ…今日も顔が美しい…」
撮った写真も見ながら何かを呟いている菜々。
本当にチェスが好きなんだなぁ。
「ほら、菜々?もう行かないと、学校に着いているのに遅刻なんて嫌だからね。」
「それもそうね。久しぶりの教室にレッツゴー」
教室は今まで見たことがないくらいの人口密度だった。
生徒がいなくて邪魔になり、片付けられていたはずの机や椅子が今では全て元通りに並べられている。いつものメンツの中には見慣れない顔や転入初日以来見かけなかった顔がある。
前に通っていた学校では全員出席は当たり前だったこともあり、この人数に驚くことはなく、むしろやっと学校らしいところが見れたとほっとした気持ちである。しかし隣の席の女子曰く、柳聖学園の普段の生活に慣れてしまうとこの光景が異様なんだとか。人が多くて空気が悪い、と学校中の窓が開いているのもこの全校生徒必須参加日特有の光景だという。
やっぱりこの学園はよくわからないな。
この学園になれるのにはもう少し時間がかかりそうだ。
「舞結ー!早く花壇に来てー!!」
窓の外から菜々の大きな声が響いてくる。
「舞結ちゃん、呼ばれてるよ…」
「作間がうるさいから早く行ってやれ」
作間と止められるのはお前だけだ。とでもいうようにクラスメイトが声をかけてくる。
諦めて席を立ち、花壇へ向かう。
夏休みの間、丁寧に手入れをした甲斐あってか花壇には色とりどりの花が咲いている。菜々は特に気に入っているというペチュニアに水やりをしている最中だった。私が来たことに気がついた彼女は、色白の頬をぷくりと膨らませながら歩み寄ってくる。
「遅いよー舞結。水やり終わっちゃったじゃん。」
「ごめんごめん。久々の教室だったからさ。」
「もう!チェスに会うための気合入れなんだからねー?」
「気合入れ…」
親友の言葉が時々理解できていないような気がするのだが、気のせいだろうか。
そんな会話をしていると、学園のシンボルとも言える時計塔から馴染みあるチャイム音が流れた。
朝礼五分前を告げる予鈴だ。
「やば。教室戻ろ!」