Chapter1
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「ねぇねぇ、やっぱり今日一緒に遊ぼうよー」
教室を出てから口を開けばこればかり。
菜々の“遊び”は俗にいう逆ナンパ。彼女の趣味、イケメン探しの延長線。今まで幾度となく遊びや合コン(仮)に誘われては強制的に巻き込まれた。しかし、菜々の理想は高すぎる。身長、顔、学歴…。
絶対彼氏なんかできない。
「嫌だって言ってるでしょー」
「えぇー。あぁ、もう玄関ついちゃったじゃん…。」
またイケメンはお預けかー、と項垂れている菜々。そんなにイケメンと逢いたいなら一人で行けばいいだろうに。
つまらなさそうにトボトボと歩く菜々を後目に下駄箱の戸を開く。
「残念でした。普通に帰るよー…ん?」
「何?どうかした?」
「封筒…」
下駄箱の中には、見覚えのないダイヤ貼りの真紅色の洋封筒。表側には華やかな麗雅宋の金字で「神代 舞結 様」と記されている。
「まさか…ラブレターだったりして!」
隣で菜々が楽しそうに飛び跳ねている。
「違うでしょ、こんな変な封筒…」
「…んぉ?これ…」
騒いでいた菜々が急に素っ頓狂な声を出す。
その声に驚いて菜々の方を向くと、私の手元を覗き込みじーっと謎の封筒を見ている。
「急になぁに?これ知ってるの?」
「え、あーいや。知ってるっていうか…その封蝋の模様、チェスの薔薇じゃないかな?って」
チェスの薔薇…?
菜々の指差す先_封筒を止めてある封蝋には見たことのない模様が描かれていた。言われてみれば、薔薇の形に見えなくもない…
「でも、そのチェスの薔薇の模様が入っている封筒がなんで私のところに?」
この学園に転校してから特に目立ったこともしていないし、目をつけられる理由がない。平々凡々な一生徒に超人気な生徒会が封筒を出すなんて…
「なんか聞いたことあるかも…。チェスとその担当教師だけが参加する会議に一般生徒を指名するときに紅い手紙が届くって。でも、確か物凄い問題を起こした人とか、委員会会長クラスの人じゃないと呼ばれないはず…あんた、何かしたんじゃないの?」
「やめてよ、そんなことするわけないじゃん。」
「えぇ〜。あ、そういえば。中には何が入ってるの?」
「え?えーっと…カード?」
封筒の中には真っ白な1枚のカード。
そこには
“9月1日 16:00 Queen Castle Chess”
と書かれていた。
「えっ…マジのやつじゃん!本物のチェスのお誘い初めてみた!」
キラキラした目で封筒の中に入っていたカードを眺めている菜々。
でも、私には一つ疑問があった。
「ねぇ、クイーンキャッスルって何?」
その言葉を聞いた菜々はぽかんとした顔のまま固まってしまった。
ん?
「…え?は?知らないの?」
「うん…」
カードの内容的に場所の名前ということはわかる。生徒会が呼び出す場所なら学園内にある場所なのだろう。
転入生とはいえ、転入してきてからすぐ校内を一通り案内してもらったし、教室移動などで大抵の場所には行っているし、行ったことが無いにしろ聞いたことのない場所があるとは思えない。チェスに関連する場所なら生徒の話題にならないはずがない。
私が考えていることに気づいたのだろう、菜々は私の両肩に手をついて大声で語り始めた。
興奮気味の菜々の話を頭の中で整理する。
Queen Castleはチェスのために校内に作られた建物のひとつで、主に役員のプライベートスペース。建物はダイヤモンド型、全面ガラス張りという高校の敷地にあるとは思えないお洒落な造り。役員以外は特例がない限り入ることが許されないほどの場所であり、近づくことも難しいのだという。チェスを拝むためなら手段は選ばないチェスガチ勢の生徒もQueen Castleは諦めているらしいから相当厳重な警備なのだろう。
柳聖学園にはこの建物の他にKing Castleという学園のシンボルともいえる時計塔があり、“会議は必ずKing Castleで行う”というのがこの学園の決まりだというのは転入時に渡された『柳聖学園校則一覧』という冊子に記載されてから覚えている。
「どう?理解した?」
「うん…そのQueen Castleっていう建物がすごいものだってことは理解した、と思う。」
多分これ以上は、あと数百回説明されても理解できないだろうから諦めるべきなのだろう。
菜々もそのことを察したのか「理解したなら大丈夫!」と首を縦に振った。
「ところで、どうして舞結宛に封筒が来たのかな?」
「全くわからない…」
少しでも接点があれば何かしらの理由が見つかるかもしれないのだが、全く接点がない。というか、今日初めてチェスの顔を知ったのだから接点も何もあるはずがない。
「とりあえず、9月1日の16時にQueen Castleに行けば、この封筒が来た訳も分かるってことか…」
「菜々…」
「ん?」
「一緒に、来てくれる…?」
理由もわからない封筒の指示に従うなんて怖すぎる。
チェスの役員と話したこともない、Queen Castleの場所すら知らないのに一人で行くなんて絶対に無理だ。
「何言ってんの、舞結。私たち親友でしょ?ついて行くに決まってんじゃん。」
菜々…。
本当にこの幼なじみは泣けるようなこと言ってくれる…。
「ま、チェスに会いたいっていうのが本音なんだけどね〜」
前言撤回。
そうだった。菜々はこういう子だったわ。
「チェスに会える〜」とはしゃぐ幼なじみを無視して校舎を出る。
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突然届いた
血のように紅い一通の封筒が
この先の運命を大きく変えることになるなんて
この時の私は想像もしていなかった
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《__届けてきたよ。あとは仔兎ちゃんを待つだけだね。____聖月》
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