Chapter1
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6:35
目覚まし時計に表示されている時間を確認し、まだ温もりが残るベッドからゆっくりと体を起こす。また“あの夢”をみたせいか、背中にはじんわりと汗をかいていた。静かに目を瞑り、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
大丈夫、大丈夫。
乱れた布団を直し、寝ぼけ眼を擦りながらふらふらとキッチンへ向かいながら無意識にスマートフォンを開く。画面には幼なじみで親友の菜々から「今から行くよ☆」というメッセージ通知がきていた。
相変わらずだな…
私の引っ越し先の関係で同じ学園に転入してから、ほとんど毎日のように朝食の時間にやってきては人の朝ご飯を勝手に食べていた。さすがにもう慣れたから今では菜々の分も作って一緒に食べることになっている。自分の家で食べればいいのに…と思ったことはあるが口には出さない。
菜々は出会った頃から実の兄を毛嫌いしていた。
その兄は現在、恋人の家にいるらしいが、職場の関係で仕事がある日は実家で過ごしているらしい。どんな仕事をしているのかは興味が無かったから特に聞いてはいないが、仕事が不定期にある様子から特殊な職種なのだろうと薄々感じていた。その兄に朝から会いたくない。という理由でわざわざ学校へ行くのに遠回りになる私の家に来ている親友に自分の家で食べろとは言わない。
(ただ、菜々が嫌いな食べ物を容赦なく私の皿に入れてくる時は別だ)
朝食を作り始めて数分後、騒々しい音を立てて菜々がやってきた。
引っ越してすぐの頃に何かあったときのために、と大して気にせずに菜々に合鍵を預けたのが間違いだった。それからは兄から逃げる用のシェルター代わりに使ったり、課題の解答を見るために来たり…
私がバイトから帰ってくるとかなりの頻度で家にいる。そんな彼女は今日も玄関のチャイムを鳴らさず、勝手に鍵を開けて家に入ってくる。
菜々に構わず朝食の支度を進めていると、豪快に部屋のドアが開く。
「もー、聞いてよ舞結〜」
相変わらず時間も場所も考えずに無駄に大きな声で話を始める。
「ネクタイなくしちゃってさぁ。いやー、焦った焦った」
そう言って私がいるキッチンの近くにある椅子に座る。今日は長い夏休みが明けて初日の登校日。制服を着るのは1ヶ月以上ぶり。
「ねぇ、どこにあったと思う?びっくりするよ。あのね、ブレザーの内ポケットの中!やばくない?」
けらけら笑いながら、ブレザーの内ポケットの中に夏休み中ずっと入っていたと思われるネクタイを緩めている。
「夏休み前にちゃんとしておかないからでしょー?」
なんて一応注意はするものの、菜々の度が過ぎる大雑把な性格は昔から。改善するどころかむしろ悪化している気すらしてくる。少し注意したくらいで治ったらそっちの方が驚きだ。
「いやぁ、ちゃんとしたつもりだったんだけどね〜。ほら、夏休みの課題終わらせるので忙しくて支度するの忘れてたんだよ。」
夏休みが始まって数日経った日、課題終わらなそうだから〜、と家にやって来ては突如始まった勉強会で私が終わらせた課題を、片っ端から自分のそれに写していたのにもかかわらず夏休みギリギリまで終わっていなかったとは…。
「だからさっさと支度しろって言ったじゃん」
「しようと思ったの!でもさ、ほら色々…夏休みって楽しいから。」
菜々の相変わらずな答えにやや呆れるがもう慣れてしまった。無言でテーブルの上に完成した料理を並べていく。
「えー、そんな呆れ顔しないでよ…あ、てかさ。今日始業式じゃん?テンション上がるよね〜」
わぁー美味しそ…いただきまーす
と、私が席に着く前に食べ始めている菜々。
本当に自由だな…
「なんで始業式にテンション上がるの?先生の話を聞くだけのつまらない式じゃん。」
どちらかというとああいう式典は面倒なだけで、大抵の人は嫌々参加しているようなものだろう。それがテンション上がるほど楽しみなんて、ついに頭のネジでも外れたのだろうか。菜々がそんなことを言い出すなんて到底理解しがたい。
やっぱり学校が違った間に変わったことでもあるのかな…
「えー、アレがあるじゃん♪」
アレ…?
学期末の式典ならともかく、夏休み明けの始業式に少しでも興味が湧くようなことはあっただろうか。夏休み期間にあったことの諸注意やこれからの生活のことなどという毎年毎年同じような内容の話ばかり聞かされるものではないのか。
転入してすぐに夏休みに入ったため柳聖学園の始業式に出席したことはないが、学校によってそこまで違いがあるものなのか。それとも始業式で菜々のお気に入りのイケメンが何かするのだろうか。
「あーその顔はわかってないでしょー」
始業式でテンションが上がるという理由を悶々と考えていた私に、菜々は楽しそうに聞いてきた。
そして空になった皿を端に寄せながら、向かい側に座っている私の方に顔を近づける。
「あのね、始業式には生徒総会があるって決まってるの!」
「あぁ、菜々はそれが楽しみなのね」
「楽しみだよー!だってだって、チェスの先輩をこの目で見られるんだよ?!生きててよかった…」
チェス_柳聖学園生徒会の名称
初代生徒会長が“チェス”が好きだったからこの名がついたとも言われている。そんな名前からか、生徒会に関するものに“チェス”の語句が使われることがある。
本当に柳聖生は生徒会が好きなんだから…
朝食を食べ終わると、菜々はニュース番組でやっている占いをみながらケラケラ笑っている。
「え、まじか。11位って微妙だな。笑えるわー…おぉ!舞結1位だよ!よかったねー」
「えぇ?」
菜々がいつも見ているニュース番組の放送終了くらいのコーナーである“今日の星座占い”はなかなか当たると巷で話題になっているらしい。私はそっち方面のことはそこまで信じていないからさほど興味はないが、菜々は好きらしくよく結果を教えてくれる。
1位ねぇ…
食器の片付けを終え、制服に着替える。
夏服である薄手のジャケットも半袖のブラウスもシワひとつない綺麗な状態のままクローゼットにかかっている。式典は正装で参加するため普段は着ないジャケットを着ることになる。夏用に冬服よりも薄い生地のジャケットではあるが、この時期に長袖はまだ少し暑い気もする。見慣れた真っ白の制服に着替え、菜々のいるところに戻る。
今日からまた騒がしい学園生活に戻るのかと思うと、嬉しくもあるが夏休みが恋しくなる。久々に締めた赤チェックのネクタイが首元にあたるのにまだ違和感があり、いつもより緩く締め直す。
「舞結ー?準備できたー?行くよー??」
さっきまでテレビを見ていたはずの菜々は、私が着替えている間にもう玄関で靴を履き始めていた。
「はーい、今行くー」
返事をしながら部屋の隅に置いてある棚の前に向かう。棚の上には綺麗な模様の花瓶に向日葵が生けてあり、その横には真っ白な写真立てが置いてある。
じゃあね、お母さん
「行ってきます」