命の記憶の子守歌
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♪〜
……ラ〜ラララ ラララ ララ
ルララララ〜… ララ ラララ〜…♪
わたくしのお母さまが歌ってくれた記憶の歌。
心地よく夢の世界へ誘えるよう意識し、
メロディをラとルの言葉に絞って喉を震わせる。
自身の左胸に近づけるように抱かえた小さな命は、
触り心地のよい綿のおくるみ布で身体を包まれて、
わたくしの鼓動を聴きながら腕のゆりかごで歌を聴いている。
次第にうつらうつらと瞼を閉じ、
まだ羽のように軽い身体から力が抜けて、ほんの少しだけ腕のゆりかごに重たさを感じたら寝かしつけが終わるまで"あともう少し"の合図。
メロディだけを鼻歌で歌いつつ、
静かに深い寝息を立て始めた我が子の寝顔を月明かりを頼りに寝不足のぼんやりとした頭で眺める。
長い睫毛、しっとりとしたちいさな手、
果実のように柔らかく赤みを帯びた頬、
時々ぴくぴくと震わせながら伸ばす細い腕、
空腹や不快さを昼夜関係なく
大きな声で元気いっぱいに泣いて報せる口は
上唇と下唇とでちいさな三角形型に小さく開いて隙間から一筋のよだれが垂れてきた。
顎に垂れてきて気になるのか
ムズムズと眉を少ししかめて眠っている
健やかな命全開の寝顔に思わず頬が綻ぶ。
そして一度、集中の深呼吸。
しかめ面から再度寝入ったであろう事を確認したら慎重かつ無心になって腕のゆりかごからベビーベットへとそっと寝かせる。
ここで起こしてしまっては全てが水の泡。
そろりと降ろし半歩離れて寝入ったままの顔を見て再度息を吐く。
今度は、ひとまずクリアの深呼吸。
備え付けて置いてあるお世話アイテムの籠から布をひとつ取り出して優しく唇に押しつけてよだれを拭きとると満足げにくぅくぅ眠っていった。
3度目の深呼吸。
寝かしつけ完了、労りの深呼吸だ。
「…ガーネット、いいかい?」
扉の向こうから抑えた声量で
わたくしを呼ぶ声が聞こえた
「ええ、どうぞ」
極力音を立てぬように開けられた扉からジタンが入ってきた。どこか疲れが顔に出ているように見えるのはきっと彼も同じく寝かしつけを終えてきたからだろう。
「…今日は随分盛り上がるお話があったのね?」
「あぁ、もう何冊、何回読み聞かせたか途中から数えるのをやめたよ。おかげでこの声だ」
小声で、けれどわざとらしく枯れた声を出し、お手上げだと両手を上げてみせるジタンに思わずクスクスと笑みがこぼれる。
タンタラスの劇団員であった彼の演技力は
現在も健在で、上の子がその演技力で展開される絵本の読み聞かせに夢中になるのはお芝居が好きな母あれば子あり。ある意味必然ではあったのだけれど、さすがに毎晩となるとジタンもへとへと。まさにお手上げ状態であった。
そんな中2人目が生まれ、
大変さと多幸感、寝不足の中の公務、上の子下の子を含めた大切な家族の時間で1日があっという間に過ぎていく。
寝かしつけ後に2人で飲み物を飲みながら他愛もない会話を交わすこのほんの少しの時間が、限られたかけがえのない夫婦の会話の時間となっていた。
「今日もお互いお疲れさまでしたね、
さあ、何を淹れましょうか?」
ベットから離れた窓際に置いた2人分の椅子と丸テーブルはそんな2人の為の特等席だ。傍の棚にはノンカフェインの紅茶缶、お気に入りのティーカップにティーポット、沸かしておいた湯を入れた保温ポットが並んでいる。
(泥のようにまとわりついた疲れを拭い去るなら、
白葡萄や桃の爽やかなフレーバーティーがいいかしら?
それとも定番のアールグレイやルイボスティー?
…そうだわ、ヒルダ様から戴き物のハニーブッシュティーがあるし、たまにはハーブティーがいいかもしれないわ)
唇に手をやり、今日の一杯を思案する。
真夜中のティータイムで淹れる茶葉は気づけば交代で選んでいた。
お互いがお互いを想い、労り、選んで淹れてくれた一杯を飲むと、その温かさにフッと緊張感が緩み、女王と国王、母と父という立場から、ただのガーネットとジタンに戻り、飾らない2人で過ごせた。
そんな切り替えスイッチでもある今日の一杯を選ぶ事は2人の密かな楽しみにもなっていた。
「ガーネット、今日はオレの番だぜ
座って休んでいてくれ」
「あら、いつもより早く寝てくれたから平気よ
それに迫真の演技をしてきた俳優を労わらせて頂戴」
「オレを労ってくれるのは嬉しいが
今日だけは譲れないなぁ。
なんの日だったか思い出してくれないか?」
ジタンが上着の内ポケットから小さな箱を取り出してガーネットに手渡し、そのまま着席を促すように反対の手を取って椅子へと誘導する。
あまりに自然な動きに導かれてしまい思わず座ってしまったが、小箱を見ても今日はなんの日だったかわたくしは思い出せない。
戸惑いつつも暫く、無言で考えを巡らせる。
ジタンはその間も慣れた手つきで紅茶を淹れ、
わたくしの返事を待っていた。
「えぇと…
初めて真夜中のティータイムをした日?」
「ブッブー、ハズレ。
ヒントは一年に一度」
「……結婚記念日、ではないわよね」
「今日じゃないからハズレ。
ヒントその2、壮大な冒険のはじまり」
「!」
その一言で全て察した顔のガーネット。
念の為、確認のために壁際の文机に置いた
カレンダーと時計に目を向ける。
時計の針は日付変わって1時、今日は1月15日。
「…わたくしの誕生日だわ!」
「当たり!」
ふわりと香る甘い蜂蜜やバラの香りと共にジタンが紅茶を運んできてくれた。テーブルに置いてくれたティーカップに美しい琥珀色の紅茶が注がれてゆく。香りたつ湯気を吸い込んだら体中に香りが広がっていく。
まだ知らないフレーバー
これはきっと…
「もしかしてハニーブッシュティー?」
「おっ、連続正解!さすがはオレのお姫様。
それじゃあ最後、
この小箱の中身は何でしょうか?」
トントン、と渡されたまま掌の中にある小箱を指先でノックするジタン。
ガーネットはここ数日の彼との会話を思い返す。なんとか当てたい一心で捻り出そうとするも中々これといった物は浮かばない。
プレゼントに悩む素振りも見ていない気がするし、外出も公務で、しかも数えられる程しかない。
必死な様子のガーネットをみて
思わず口元が緩むジタン。
もっと見ていたいが紅茶が冷めては勿体無い。
「…開けてくれるかい?」
しゅるりとリボンとほどいて小箱を開けると
中からまるで紅茶を濃く煮出したような深いブラウンカラーの四角いものが現れた。見慣れないもの故になんと例えていいか分からない。
探ろうと物の左右上下を見渡していると
何やら、ぜんまいがついている。
「…ジタン、これは…?」
「オルゴールと言うんだ。メロディを記録した円筒がぜんまいで回ってここにある金属の板が弾かれて音色を奏でてくれる楽器だよ」
「メロディを記録?」
「聴いてもらった方が早いかもな、
ベッドから離れているし、大きな音にはならないから、ここで鳴らしても大丈夫だと思うぜ」
ジタンにぜんまいを回すよう促されてキュロキュロと数回回す。手を離すとぜんまいが回り、機構が繋がった先の円筒も回り始めた。
そのうちに円筒は金属の板に触れてピンと弾いて板が震えたかと思えば、いくつも板が順番に震えて奏でていく。いくつもの音が重なって聞こえてきたのは聴き慣れたあのメロディ。
(記憶の歌だわ…わたくしの大切なあの歌…!)
なんて繊細で、美しい音色なのでしょう。
思いがけないプレゼントと選曲にうっとりと聴き入ってしまう。
ワンフレーズ分だけ記録されており、
繰り返し同じメロディが真夜中の寝室、
月明かりが差し込む2人の窓辺に響き渡る。
贈り主であるジタンの碧眼を見つめる。
わたくしの視線に気づくと微笑みを返してくれた。
あの頃からお互いすっかり大人になってしまったし、冒険の旅に出ることは無くなってしまったけれど、ジタンと2人こうやってお互いを見つめ合いながら向き合って座っていると、
旅の中で小舟に乗ってイプセンの冒険譚を聞かせてくれた事、飛空艇から見下ろし貴方を見送った事、初めて出逢った日の事、そして、、、帰ってきた日の事を昨日の事のように思い出す。
このメロディと貴方と共に歩んできた。
今まで、そして、歩んでいくであろう
これからに思いを馳せる。
愛おしさに思わず胸が熱くなった。
涙の代わりに言葉に変えて想いを届ける。
「………ありがとう、ジタン。」
「気に入ってもらえて嬉しいよ、
さあ!冷めないうちにハーブティーもどうぞ」
「ふふ、つい聴き入ってしまうわね、いただくわ」
淹れてくれたハニーブッシュティー
透き通るような甘さと香りが飲みやすい。
オルゴールの音色と共に味わうフレーバー
なんて幸せなひとときだろうか。
「飲みやすいハーブティーね、ほっとするわ」
「だな、これなら砂糖は無くて良さそうだ」
「それにオルゴールも本当に素敵。
どうしてこのメロディに?」
「オレにとっても、大切な歌だからさ」
「ジタンにとっても?」
「ああ、いつか帰るところへ帰るために歌った大切な歌さ、メロディが記録できる楽器があると聞いた時からこれしかないと思っていたんだよ。」
「そうだったのね、今日はちょうどこの歌を子守歌代わりに歌っていたら早く寝てくれたのよ」
「へえ!おチビもお気に入りって事か
よしよし、お母様を休ませてあげたいから明日からはオルゴールを流して寝付いてくれてもいいんだぜ」
「まあ!休ませるとか言ってティータイムを長くしてその分お喋りしたいだけでしょう?」
「バレたか、オレのお姫様は手厳しいなぁ」
その後も他愛もない会話が弾む。
ふっと、オルゴールのぜんまいが回り終えたのか音色の速度が落ちてゆき音が止んだ。
先程までの弾む会話もつられるように止まり、再度ぜんまいを巻こうと
自然とオルゴールへ互いに手を伸ばす。
すっと触れた指先。
束の間、目が合う。
自然と繋ぐ手と絡まる指。
ふたたび交わす視線。
閉じられた瞼と長い睫毛。
立ち上がり、唇に触れるその一瞬。
コンコン…
「おかあさま、おかあさま」
「っ!!は、はい!」
ガーネットを呼ぶ声が聞こえ、
咄嗟に立ち上がり扉へパタパタと
足跡を立ててガーネットは駆けつける。
勿論やるせなさそうにジタンがガクッと肩を落として椅子に座り込みながらオルゴールのぜんまいを恨めしそうにガコガコ回している気配がするがこればかりは誰も悪くない。
わたくしは、ガーネットであり、母でもある。
扉を開けると眠い目を擦りながら我が子が部屋からお気に入りのチョコボのぬいぐるみを片手に抱きしめ、反対の手で何やら背に隠しながら立っている。
「どうしたの?眠れないのかしら?」
「あっ、あの、ね!
おたんじょうびのおいわいを言いたくて
いっぱいれんしゅうしたから、
おかあさまを1番においわいしたくて、
ねちゃったけど、もういちど、おきてきたの」
「まあ、ありがとう!嬉しいわ!
廊下は冷えますから中へおいで」
「しつれいいたします、ですわ、
って!おとうさま!?」
「こ、こんばんは〜リトルプリンセス」
「ねたら起こしてくださいませませ!っていってたのに!1番においわいしたかったのに…!」
「あらあら、お父様も今さっき来たばかりよ。
ねえ、あなたさえ良ければ、練習?してくれたものを見せてほしいのだけれどいいかしら?」
しゃがんで目線を合わせて語りかけると
パッと笑顔が花咲き、背に隠していたビーズのブレスレットを手渡してくれた。
赤、黄色、桃、青緑とカラフルで、
形や大きさもバラバラな世界でたった1つの
かけがえのない想いのこもった贈り物だ。
さっそく腕につけて見せてみると、眠い目を擦りながらも瞳いっぱいに輝かせてくれた。
「嬉しい!素敵な色ね、ほらどうかしら?」
「おかあさま、とってもすてき!
あのねこれはね、わたしがつくりましたの!」
「手作りなのね!!嬉しいわありがとう!」
「あとねあとね!れんしゅうした
お歌をきいてくださいませませ!」
「ほら癖になっているぞ。
ませ、は一回〜!」
「おとうさまはお口ちゃっくですませ〜!」
ごほんごほんと大袈裟な咳払いをしてガーネットに向かい合う。寝巻きをドレスのようにつまみ礼をし、息を吸い込んだ。
♪〜
……ル〜、ルルル ラララ ララ
ルララ、ララ〜… ララ ルルル〜…♪
音程をはずさないように
ぎこちなく歌われた記憶の歌。
懸命に歌う姿に胸がいっぱいになる。
我が子の歌に合わせるようにガーネットの後ろで鳴り出したのはジタンがくれたオルゴール。
音色に合わせて我が子がリズムを揃えて2つのメロディが重なり響きあった。
この子がもっと幼い頃からたくさん歌っていたことを思い出す。
初めての育児は右も左もわからず、分からない事が分からない状態だったので教えを乞うのも難しく、任せる事も恐ろしく、休む事も頭に無かった。
ただ必死に目の前の命を生かす事だけを考えて遠回りな事も沢山して、失敗して、荒んでしまいがちだった。
成長に伴い向き合い方も変わってくる変化の大きな毎日にうまくついていけずに、時には声を荒げた。いい加減にしろよなコノヤロー!と何度喉まで上がってきたか分からない。
そんな時も歌を歌って勇気づけて進んできた。
そんな歌を家族も聴いていた。
わたくしたち家族にとっても大切な歌に
いつの間にかなっていたのだと気付かされた。
(…おかあさま、
わたくしに歌ってくれたあの歌は
貴方からわたくし、
わたくしから大切な夫や子供たちの心に
響き、繋がり、これからも紡がれていくわ)
それは、まるで命のように、記憶のように。
「ガーネット」「おかあさま!」
2人に呼ばれて顔を上げると
歌い終わって成功を喜ぶタッチをした2人が
わたくしに手を伸ばしている。
「「お誕生日おめでとう」」
「ありがとう……大好きよ!」
2人を包むように抱きしめる。
決して楽ではない毎日だけれど
大切な存在を感じられる、それが力になる。
オルゴールの音色を聴きながら、
3人分のハニーブッシュティーを淹れよう。
今日くらい少しくらい夜更かししたっていい。
蜂蜜が溶けバラが香るような甘い一杯は
素敵な命の記憶の子守歌と共に。
2026/1/15
HAPPY BIRTH DAY ガーネット!
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