03 タンタラス流稽古強化週間
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
テーブルを元あった場所へ戻しつつ
ミヤビはブランクを見つめた。
きっとこれから仮眠をとり、
スケジュール次第だろうが
また稽古をつけてくれるのだろう。
彼にもタンタラスの一員としての仕事があるだろうに…。
気にするなと言われたが
そんなブランクのために何かできないか…。
(せめて、傷の手当てができたらええのになぁ…)
瞬間
ミヤビの中でどく、と熱く血潮が巡り始める。
反射的に片手で胸の中心を押さえた。
今朝みた夢の中で小鳥と羽の光に包まれた時と同じ感覚だった。
何でも出来そうな力強さと魔力を体内から感じるのだ。
まるで、この力を使え、想え、と言わんばかりに。
(……そうや、想いの力……。
想う事で力になる、あたしの魔法。
…今なら、できそうな気がする)
強く手を握り、決心を固めると
片付けを終えたブランクに歩み寄った。
『ブランク、この世界の魔法で怪我を手当てできる魔法はあるん?』
「あるぜ、傷を癒したり…」
『あんの!?呪文とかそういうのは!?』
「呪文なんて知るか、
魔法としてはケアル、ケアルラ、ケアルガ。
威力によって変わるらしい。」
『…らしい、ってブランクは使わんの?』
「使えない、が正しいな。
素養のあるヤツしか使えない。
アイテムを活用する方が一般的だと思うぜ。」
『そうなんや…。うーん。
やっぱり想い方で膨らませた方が使いやすいんかなぁ。けどノイズは言葉に出して魔法使ってたし…口に出す方がイメージ形にしやすい…?
…癒し…回復…のイメージを考えて…唱えて?』
ミヤビは両手を伸ばしてみたり、手を開いたり閉じたりしながらブツブツ口に出しながら思案する。
質問と行動の意図が読めないブランクが疑問符を浮かべた。
「さっきから何をやってるんだ」
『…よし、いける。いけるはず!
魔法、使ってみようと思ってさ!』
そういうとブランクの正面に立ち、
彼の右手を両手で包み込むミヤビ。
それはまるで、
傷の手当てをしているようにも見える立ち姿
突然、手を握られたことに驚く
ブランクが声を上げそうになった瞬間
(癒し…気持ちが穏やかになるイメージ……
緑の生い茂る森の中、
爽やかで心地よい涼やかな初夏の風、
お日さまの光のぬくもり…
回復…温泉にいったみたいにお湯で身体がほぐれて、心地よく眠れたときみたいに…
身体にエネルギーがたくさん満たされているような…
…お願い、うまくいって…
ブランクの傷や疲れをとってあげたいんよ…)
『…どうか、癒し満たして
…………ケ、ケアル…』
ぎこちなく、
ポツリと呟いたミヤビの詠唱。
伴うように、ブランクとミヤビの身体を
青緑色の魔法風が吹いて包み込むと
身体についた擦り傷が次々と癒えていく。
ミヤビはケアルを唱えたようだが、
身体で感じる効果だけでいえば、
もうひとつ上位魔法のケアルラ
しかも全体魔法で適応されたようだ。
傷が癒えているだけでなく、
体力も回復したのが身体の楽さでよく分かる。
(というか、その、台詞は…。)
ブランクが呆然とミヤビを見つめる。
例の迷子のアイツも
そういえば魔法が使えるヤツだった事を思い出させた。
あの日、回復魔法をかけたアイツが唱えた台詞を今ミヤビが言ったからだ。
……いや、まあ、回復魔法を使うなら誰でも言いそうな言い回しだろうが…と
内心思いつつもまだ諦めきれないでいる気持ちが尾を引き、つい言葉に詰まる。
…本当はミヤビが歌ったあの歌。
例の迷子も歌ったような気がしたが
1度しか聞いていないし、時間も経っているから自信をもって同じとは言えなかった。
似たメロディだったのは確かだ。
操縦室での歌唱時は驚きと、
(ボスを除く)タンタラスの面々は例の迷子の事は知らない。
自分の今の内心を面々には知られたくなくて
歌を知っているかと問いかけたミヤビに対し「知らない」とその場しのぎの嘘を吐いた。
(…いい加減女々しくて自分に反吐が出る…
なんだってこう共通点が多いんだ…)
ボスの前で言った事は全て本心だ。
よく似た他人様なんだろうと思う。
勝手に重ねてガッカリされるなんて失礼だろうとも思う。
だけど
…もう1度だけ確認したくなってしまう
諦めの悪い幼い頃の自分が心の中に顔を出す。
そんなブランクを心配そうに見るミヤビ。
それっぽい効果演出?はあったように思うし
ブランクだけを回復させたつもりが、
どうやら自分にも効いたらしい事は
身体の軽さで感じたので無事成功したのだろう。
ただ、それ以降黙り込んでしまったブランクは
どうも心ここにあらずだ。
引き戻すように掴んだままの彼の右手を
軽く引き、声をかける。
『…い、今の風って
魔法使えたって事なんかな?
ブランク、どう?』
「どう、って…ちゃんと効いてるぜ。
……ミヤビ、お前、魔法使えたんだな。」
『使えた? や、今初めて使ってみたんよ?』
「……は?」
『昨日話したやん。
ノイズって人があたしに
魔法を使えるようにしてくれたって。
その魔法は“想いが力になる”ものらしくて、
具体的にイメージしたり、
強く想えばその分強い魔法になるらしいんよ。
ブランク、疲れてるのに朝早くから
稽古に付き合ってくれたから。
ちょっとでも元気にできたらなぁって思って、挑戦してみたんやけど…』
大成功?やんね!よかった!と無邪気な笑顔をみせるミヤビ
心遣いに気持ちを和ませつつも、
初めて使ったとは到底思えぬ精度の高い魔法にブランクは驚きを隠せない。
「…本当に、本当に初めてか?」
『うん、初めて。』
「…その、小さい頃とかにやって忘れてるとかは?」
『昔も何も…あるわけないんよ。
小さい頃の事、思い出せないこと多いけどさ
【地球】じゃあ魔法なんて素敵なもの使えん、
空想のものなんやから。
…まぁ魔法使いとかそういうのはちょっと憧れるけど、いざ詠唱!ってなるとまるでアニメみたいでこっぱずかしいくらいなのに…。』
「…そう、か」
(敢えて…隠している?
…いや、それならこんな露骨に疑われるような真似しねえはずだ。)
じっとミヤビを見るブランク。
満足気に笑みを浮かべ見つめ返すその目は嘘をついている人間の目ではない。
それにミヤビを詮索しても答えは得られないと昨日結論は出たのだ。
(知るためにも、まずはテストに受からなきゃ…だったな)
答えの出ない問題を悩むより、
その手掛かりを探すために行動する方がよっぽど有益だ。
彼女にどういった事情があるのか…
あ、いや、そもそも事情も秘密も何も無いかもしれないが…
ミヤビの事を知るためにも…今は稽古をつけて鍛えることが一番の近道なのだと改めてブランクは思った。
(…それに、勝手に重ねるのもこれで終いだ。)
もしも例の迷子が仮にミヤビだったとしても、
ここまでカマかけて手ごたえ無し。
つまり、覚えていないなら
初対面と変わらない。
それにやはり瞳の色がそもそも違う。
アイツの目は赤色で、
その赤の中に橙や黄色なんかが混ざった、
例えるなら、
夕焼けや黄昏みたいな色だったはず。
ミヤビの瞳は…うん、どんぐりみてぇな
木の実色の茶色だ。似ても似つかねえ。
口調もルビィみたいな
独特の喋りじゃなく、敬語だった。
あと、冷静になってみろ。
あの時の迷子には先生…保護者がいたはずだ。
子供の面倒は親がみるもんだろうが、
先生が付いてたってことは
余程身分のお高い貴族様かもしれないが、
ミヤビの話を聞く限り
その先生の存在は感じられない。
むしろ血の繋がらない
両親と叔父の話しか出てこない。
迷子のアイツとミヤビとは、
共通点と相違点が入り混じっている。
…つまり、
迷子のあいつはミヤビじゃない。恐らく。
それなら宛てのない期待は片づけて上手くやるさ。
ボスも言っていた。
………迷子の相手すんのは2度目だ、
俺は、俺ならうまくやれる。
『………ブランク、やっぱどっか痛い?』
「…んなことねえよ。
………ところで
いつになったら解放してもらえるんだ?」
ブランクの視線に導かれるように
ミヤビは手元を見る。
回復のため彼の右手を
ミヤビの両手が握ったままだ。
意識した瞬間、
羞恥が顔から耳へぶわっと走りぬけ、
変な汗をかきながら勢いよく両手を上にあげていた。
『うわああああ!?
ゴ、ゴメンナサイ!!!!!』
「さっきまでバテてた癖に…
そんだけ元気がありゃ心配いらねーな。」
俯きつつ、手が離れた後の右手を眺めながら
相槌を返したかと思うと、
ブランクは全身の埃を感傷ごと落すように
パッパッと払い、顔を上げた。
目の前では、動揺を落ち着かせようと深呼吸を繰り返すミヤビが見える。
その木の実色の茶色の瞳を再度一瞥したあと、
こちらに気づき、
向けられた視線をわざと切るように
頭に手を伸ばして再度ポンと撫でた。
(…やっぱり、なんか変だ。
回復してからブランクと目が合わん…。)
痛いわけではないようだが、
先ほどからどうも心ここにあらずで気になる。
言いたくないなら言わなくていいが…その…これからまだ教えを乞う身だし、世話になるのだ、気持ちが穏やかになったらいいなと、生意気にも思う自分もいる。
…いっそ茶化してしまう方がマシになるだろうか?
『…ブ、ブランクこそ、
回復したとはいえ寝不足なんやから心配やよ!
ほらほら戻って休も、な?』
「ああ、このあとのスケジュールも戻りながら話す」
『もちろん!こちらこそ改めてこれから宜しく、ブランク先生!』
「…先生ねぇ……」
『…あっ。…そ、そんなら!
お師匠様!とかブラ先~!とかのがええ感じ?』
「……ぶらせん?」
『先生や先輩への親しみを込めて
ブランク先生=ブラセン!ってなるやん?』
「ならねえよ、略すな」
『じゃあ…』
「チッ、名前呼べ名前を」
『……ブランク?』
「…んだよ」
『ブランク、ブランク、ブラーンク!!』
「だからなんだよ!」
『…………よ、呼べ言うたやん?名前』
背中側で両手を組み、にんまりと、
でも、ぎこちやく確信犯が悪戯っぽく笑う。
ぽかん、と
一瞬対応に間が空いたブランク。
名前呼べとは言ったが、
今呼べと言ったわけではなく、
敬称をつけずに名前で呼んでよい、という意味だ。
会話の流れから恐らくそんな事は伝わっているはず。
というわけで、
ミヤビはからかいで言ってるワケだが、
からかい方があまりにも不慣れ過ぎる。
“分かっててやってます感”が伝わりすぎる。
なんなら下手すぎて寝不足の頭では
一周回って少々ムカついてくる。
まあいい、それならお望み通り相手してやるよ。
「名前“で”呼べ!」
『あだだ…ッ!想像以上に力強ッ…
いててて!!ギブギブギブ!!!!!』
ガッ!とブランクの拳骨で
両こめかみをグリグリ締められるミヤビ
青筋浮かべてブチキレるブランクに
手加減の3文字は無かったとたった今知る。
(ちょ、ちょっとなんか変な空気してた気がしたから!茶化したのに!)
なんとか解放された頃には髪のセットがぐちゃっと乱れてしまった。
けれど、ブランクとようやく目が合って内心ホッとしている自分もいる。
顔色伺いではないけれど、
何となく、寂しそうな顔してたから。
理由は分からないままだが解消できたようでよかった。
…頭は痛いけど。すごく痛いけど。
『いった~…手加減してくれてもええやん』
「いいや、こういうのは初めが肝心だ。
俺は躾のなってない子犬の世話係だと今気づいた、
お前ほんっと教え甲斐ありそうだよ」
『き、急にお口が不穏でしてよ、ブランク』
「それは失礼、こちとらお育ちが悪いんでねぇ」
『てかツッコミ忘れた!
昨日から言っとるけど
あたしはわんこと違うって!!』
「はあ?
キャンキャン吠えて、褒められたり叱られたら顔に、耳に、しっぽに出しておいてよく言うぜ…
そのせいでつい手が勝手に頭撫でにいく…」
『だから頭ポンポンしてたん!?
あれ全部励ましやないの!???』
「違う違う、ほーらよく出来たなーって頭撫でるアレと同じだ。」
嘘やん!!と言わんばかりにひざをついて打ちひしがられる。勝手にブランクなりの励まし方だと思って頭ポンポンのボディタッチを受け止めていたというのに!!
まさか、わんこの頭ポンポンの気持ちで撫でられてたなんて!!!!しかもなんか本人的にはめちゃくちゃ不本意そうなんやけど!なんでなん!?
『そこは励ましでええやんか!
……そういや寡黙でクールな感じだからって
【高嶺の黒猫】って昔、陰で噂された事
あるんやけどそんなにわんこっぽい?』
ミヤビをそう例えたヤツは
結んだ黒髪がゆれるさまを猫のしっぽとでも言いたいのだろうか、
どう見てもブランクには
犬のふさふさの尻尾にしか見えてこないのだが。
なんなら、ミヤビの印象と真逆のワードが
飛び出て思わず不意打ちをくらってしまった。
なんだそのクッソダサいネーミング…!!!
「…待て待て待て!今なんつった…!?
なんだその通り名…ククッ…どこ見たらそうなる…噂するにしたって例えがひでえ…ッ
ふはッ…!た、高嶺の…お前が!?高嶺の!?
…っくろ、くろねこッ…くっそ…!」
思わず肩を震わせて笑いをこらえるブランク。
…いや全然こらえきれていない。
ひーひー言いながら笑っている。
昨晩のキッチンでの会話といい、
ブランクの笑いのツボがまだよく分からないが
耐え切れずに吹き出すほど言葉のギャップが刺さったらしい。
知らないうちに噂されてた嫌味な通り名だろうからここまで笑ってくれるならいっその事ネタになってよかったなとまで思うけれども、
さすがに笑われすぎて、なんとなく言わなきゃよかったなと後悔に頬をひきつらせつつ、平静を装いながらミヤビは会話を返す。
『ブランク、笑いすぎ!』
「はー…これを笑わずにいられるか!?
それが妄想じゃねえならそりゃあ人違いか、噂したヤツに腕のいい医者紹介してやれ、もう手遅れかもしれねえけどよ…ククッ
しかしまあ、ミヤビを指す言葉じゃねえくらい少し話したことありゃ分かりそうだけどな!
俺からすりゃ高嶺の黒猫よか、
おてんばワンコって感じだよお前は。
…に、したって例えたやつのセンスがよ…フッ!」
『そろそろこの話やめよか〜〜〜!!!』
ブランクが腕を組み、
やれやれと言わんばかりに鼻で笑う。
言ってて段々恥ずかしくなったミヤビの羞恥心が限界を迎えポカポカと軽く肩を叩くが
全く動じないし効かないし、なんならブランクはまだ笑いのツボから抜け出せ無さそうだ。
『あーもう埒があかん!先に行く!!
スケジュールもボスから聞くもんね!』
「はいはい散歩な。今行くぜ」
『だから誰がわんこやねん!
あたしはポチでもハチ公でもないんやで』
「ぽち?はち?」
『あぅ…説明しないと伝わらない選手権やめてぇ、ツッコミがボケ殺しにされる…』
「なあ、ぽち?はちこうってなんだ、なあ」
『面白そうな時だけめっちゃ食い気味やん!
こんの…っ!ブランク絶対からかえるな〜って
解っとって聞いとるやろ!』
「まさか!異文化交流っつったのはミヤビだろ?」
『ワーッ!めっちゃ良い笑顔!!!』
当直明けとは思えぬ見たこともない爽やかな胡散臭い笑顔に思わずツッコミが追いつかない。片付け終えた事をいい事にやいのやいの言いながら貨物室を2人は後にした。
ミヤビはブランクを見つめた。
きっとこれから仮眠をとり、
スケジュール次第だろうが
また稽古をつけてくれるのだろう。
彼にもタンタラスの一員としての仕事があるだろうに…。
気にするなと言われたが
そんなブランクのために何かできないか…。
(せめて、傷の手当てができたらええのになぁ…)
瞬間
ミヤビの中でどく、と熱く血潮が巡り始める。
反射的に片手で胸の中心を押さえた。
今朝みた夢の中で小鳥と羽の光に包まれた時と同じ感覚だった。
何でも出来そうな力強さと魔力を体内から感じるのだ。
まるで、この力を使え、想え、と言わんばかりに。
(……そうや、想いの力……。
想う事で力になる、あたしの魔法。
…今なら、できそうな気がする)
強く手を握り、決心を固めると
片付けを終えたブランクに歩み寄った。
『ブランク、この世界の魔法で怪我を手当てできる魔法はあるん?』
「あるぜ、傷を癒したり…」
『あんの!?呪文とかそういうのは!?』
「呪文なんて知るか、
魔法としてはケアル、ケアルラ、ケアルガ。
威力によって変わるらしい。」
『…らしい、ってブランクは使わんの?』
「使えない、が正しいな。
素養のあるヤツしか使えない。
アイテムを活用する方が一般的だと思うぜ。」
『そうなんや…。うーん。
やっぱり想い方で膨らませた方が使いやすいんかなぁ。けどノイズは言葉に出して魔法使ってたし…口に出す方がイメージ形にしやすい…?
…癒し…回復…のイメージを考えて…唱えて?』
ミヤビは両手を伸ばしてみたり、手を開いたり閉じたりしながらブツブツ口に出しながら思案する。
質問と行動の意図が読めないブランクが疑問符を浮かべた。
「さっきから何をやってるんだ」
『…よし、いける。いけるはず!
魔法、使ってみようと思ってさ!』
そういうとブランクの正面に立ち、
彼の右手を両手で包み込むミヤビ。
それはまるで、
傷の手当てをしているようにも見える立ち姿
突然、手を握られたことに驚く
ブランクが声を上げそうになった瞬間
(癒し…気持ちが穏やかになるイメージ……
緑の生い茂る森の中、
爽やかで心地よい涼やかな初夏の風、
お日さまの光のぬくもり…
回復…温泉にいったみたいにお湯で身体がほぐれて、心地よく眠れたときみたいに…
身体にエネルギーがたくさん満たされているような…
…お願い、うまくいって…
ブランクの傷や疲れをとってあげたいんよ…)
『…どうか、癒し満たして
…………ケ、ケアル…』
ぎこちなく、
ポツリと呟いたミヤビの詠唱。
伴うように、ブランクとミヤビの身体を
青緑色の魔法風が吹いて包み込むと
身体についた擦り傷が次々と癒えていく。
ミヤビはケアルを唱えたようだが、
身体で感じる効果だけでいえば、
もうひとつ上位魔法のケアルラ
しかも全体魔法で適応されたようだ。
傷が癒えているだけでなく、
体力も回復したのが身体の楽さでよく分かる。
(というか、その、台詞は…。)
ブランクが呆然とミヤビを見つめる。
例の迷子のアイツも
そういえば魔法が使えるヤツだった事を思い出させた。
あの日、回復魔法をかけたアイツが唱えた台詞を今ミヤビが言ったからだ。
……いや、まあ、回復魔法を使うなら誰でも言いそうな言い回しだろうが…と
内心思いつつもまだ諦めきれないでいる気持ちが尾を引き、つい言葉に詰まる。
…本当はミヤビが歌ったあの歌。
例の迷子も歌ったような気がしたが
1度しか聞いていないし、時間も経っているから自信をもって同じとは言えなかった。
似たメロディだったのは確かだ。
操縦室での歌唱時は驚きと、
(ボスを除く)タンタラスの面々は例の迷子の事は知らない。
自分の今の内心を面々には知られたくなくて
歌を知っているかと問いかけたミヤビに対し「知らない」とその場しのぎの嘘を吐いた。
(…いい加減女々しくて自分に反吐が出る…
なんだってこう共通点が多いんだ…)
ボスの前で言った事は全て本心だ。
よく似た他人様なんだろうと思う。
勝手に重ねてガッカリされるなんて失礼だろうとも思う。
だけど
…もう1度だけ確認したくなってしまう
諦めの悪い幼い頃の自分が心の中に顔を出す。
そんなブランクを心配そうに見るミヤビ。
それっぽい効果演出?はあったように思うし
ブランクだけを回復させたつもりが、
どうやら自分にも効いたらしい事は
身体の軽さで感じたので無事成功したのだろう。
ただ、それ以降黙り込んでしまったブランクは
どうも心ここにあらずだ。
引き戻すように掴んだままの彼の右手を
軽く引き、声をかける。
『…い、今の風って
魔法使えたって事なんかな?
ブランク、どう?』
「どう、って…ちゃんと効いてるぜ。
……ミヤビ、お前、魔法使えたんだな。」
『使えた? や、今初めて使ってみたんよ?』
「……は?」
『昨日話したやん。
ノイズって人があたしに
魔法を使えるようにしてくれたって。
その魔法は“想いが力になる”ものらしくて、
具体的にイメージしたり、
強く想えばその分強い魔法になるらしいんよ。
ブランク、疲れてるのに朝早くから
稽古に付き合ってくれたから。
ちょっとでも元気にできたらなぁって思って、挑戦してみたんやけど…』
大成功?やんね!よかった!と無邪気な笑顔をみせるミヤビ
心遣いに気持ちを和ませつつも、
初めて使ったとは到底思えぬ精度の高い魔法にブランクは驚きを隠せない。
「…本当に、本当に初めてか?」
『うん、初めて。』
「…その、小さい頃とかにやって忘れてるとかは?」
『昔も何も…あるわけないんよ。
小さい頃の事、思い出せないこと多いけどさ
【地球】じゃあ魔法なんて素敵なもの使えん、
空想のものなんやから。
…まぁ魔法使いとかそういうのはちょっと憧れるけど、いざ詠唱!ってなるとまるでアニメみたいでこっぱずかしいくらいなのに…。』
「…そう、か」
(敢えて…隠している?
…いや、それならこんな露骨に疑われるような真似しねえはずだ。)
じっとミヤビを見るブランク。
満足気に笑みを浮かべ見つめ返すその目は嘘をついている人間の目ではない。
それにミヤビを詮索しても答えは得られないと昨日結論は出たのだ。
(知るためにも、まずはテストに受からなきゃ…だったな)
答えの出ない問題を悩むより、
その手掛かりを探すために行動する方がよっぽど有益だ。
彼女にどういった事情があるのか…
あ、いや、そもそも事情も秘密も何も無いかもしれないが…
ミヤビの事を知るためにも…今は稽古をつけて鍛えることが一番の近道なのだと改めてブランクは思った。
(…それに、勝手に重ねるのもこれで終いだ。)
もしも例の迷子が仮にミヤビだったとしても、
ここまでカマかけて手ごたえ無し。
つまり、覚えていないなら
初対面と変わらない。
それにやはり瞳の色がそもそも違う。
アイツの目は赤色で、
その赤の中に橙や黄色なんかが混ざった、
例えるなら、
夕焼けや黄昏みたいな色だったはず。
ミヤビの瞳は…うん、どんぐりみてぇな
木の実色の茶色だ。似ても似つかねえ。
口調もルビィみたいな
独特の喋りじゃなく、敬語だった。
あと、冷静になってみろ。
あの時の迷子には先生…保護者がいたはずだ。
子供の面倒は親がみるもんだろうが、
先生が付いてたってことは
余程身分のお高い貴族様かもしれないが、
ミヤビの話を聞く限り
その先生の存在は感じられない。
むしろ血の繋がらない
両親と叔父の話しか出てこない。
迷子のアイツとミヤビとは、
共通点と相違点が入り混じっている。
…つまり、
迷子のあいつはミヤビじゃない。恐らく。
それなら宛てのない期待は片づけて上手くやるさ。
ボスも言っていた。
………迷子の相手すんのは2度目だ、
俺は、俺ならうまくやれる。
『………ブランク、やっぱどっか痛い?』
「…んなことねえよ。
………ところで
いつになったら解放してもらえるんだ?」
ブランクの視線に導かれるように
ミヤビは手元を見る。
回復のため彼の右手を
ミヤビの両手が握ったままだ。
意識した瞬間、
羞恥が顔から耳へぶわっと走りぬけ、
変な汗をかきながら勢いよく両手を上にあげていた。
『うわああああ!?
ゴ、ゴメンナサイ!!!!!』
「さっきまでバテてた癖に…
そんだけ元気がありゃ心配いらねーな。」
俯きつつ、手が離れた後の右手を眺めながら
相槌を返したかと思うと、
ブランクは全身の埃を感傷ごと落すように
パッパッと払い、顔を上げた。
目の前では、動揺を落ち着かせようと深呼吸を繰り返すミヤビが見える。
その木の実色の茶色の瞳を再度一瞥したあと、
こちらに気づき、
向けられた視線をわざと切るように
頭に手を伸ばして再度ポンと撫でた。
(…やっぱり、なんか変だ。
回復してからブランクと目が合わん…。)
痛いわけではないようだが、
先ほどからどうも心ここにあらずで気になる。
言いたくないなら言わなくていいが…その…これからまだ教えを乞う身だし、世話になるのだ、気持ちが穏やかになったらいいなと、生意気にも思う自分もいる。
…いっそ茶化してしまう方がマシになるだろうか?
『…ブ、ブランクこそ、
回復したとはいえ寝不足なんやから心配やよ!
ほらほら戻って休も、な?』
「ああ、このあとのスケジュールも戻りながら話す」
『もちろん!こちらこそ改めてこれから宜しく、ブランク先生!』
「…先生ねぇ……」
『…あっ。…そ、そんなら!
お師匠様!とかブラ先~!とかのがええ感じ?』
「……ぶらせん?」
『先生や先輩への親しみを込めて
ブランク先生=ブラセン!ってなるやん?』
「ならねえよ、略すな」
『じゃあ…』
「チッ、名前呼べ名前を」
『……ブランク?』
「…んだよ」
『ブランク、ブランク、ブラーンク!!』
「だからなんだよ!」
『…………よ、呼べ言うたやん?名前』
背中側で両手を組み、にんまりと、
でも、ぎこちやく確信犯が悪戯っぽく笑う。
ぽかん、と
一瞬対応に間が空いたブランク。
名前呼べとは言ったが、
今呼べと言ったわけではなく、
敬称をつけずに名前で呼んでよい、という意味だ。
会話の流れから恐らくそんな事は伝わっているはず。
というわけで、
ミヤビはからかいで言ってるワケだが、
からかい方があまりにも不慣れ過ぎる。
“分かっててやってます感”が伝わりすぎる。
なんなら下手すぎて寝不足の頭では
一周回って少々ムカついてくる。
まあいい、それならお望み通り相手してやるよ。
「名前“で”呼べ!」
『あだだ…ッ!想像以上に力強ッ…
いててて!!ギブギブギブ!!!!!』
ガッ!とブランクの拳骨で
両こめかみをグリグリ締められるミヤビ
青筋浮かべてブチキレるブランクに
手加減の3文字は無かったとたった今知る。
(ちょ、ちょっとなんか変な空気してた気がしたから!茶化したのに!)
なんとか解放された頃には髪のセットがぐちゃっと乱れてしまった。
けれど、ブランクとようやく目が合って内心ホッとしている自分もいる。
顔色伺いではないけれど、
何となく、寂しそうな顔してたから。
理由は分からないままだが解消できたようでよかった。
…頭は痛いけど。すごく痛いけど。
『いった~…手加減してくれてもええやん』
「いいや、こういうのは初めが肝心だ。
俺は躾のなってない子犬の世話係だと今気づいた、
お前ほんっと教え甲斐ありそうだよ」
『き、急にお口が不穏でしてよ、ブランク』
「それは失礼、こちとらお育ちが悪いんでねぇ」
『てかツッコミ忘れた!
昨日から言っとるけど
あたしはわんこと違うって!!』
「はあ?
キャンキャン吠えて、褒められたり叱られたら顔に、耳に、しっぽに出しておいてよく言うぜ…
そのせいでつい手が勝手に頭撫でにいく…」
『だから頭ポンポンしてたん!?
あれ全部励ましやないの!???』
「違う違う、ほーらよく出来たなーって頭撫でるアレと同じだ。」
嘘やん!!と言わんばかりにひざをついて打ちひしがられる。勝手にブランクなりの励まし方だと思って頭ポンポンのボディタッチを受け止めていたというのに!!
まさか、わんこの頭ポンポンの気持ちで撫でられてたなんて!!!!しかもなんか本人的にはめちゃくちゃ不本意そうなんやけど!なんでなん!?
『そこは励ましでええやんか!
……そういや寡黙でクールな感じだからって
【高嶺の黒猫】って昔、陰で噂された事
あるんやけどそんなにわんこっぽい?』
ミヤビをそう例えたヤツは
結んだ黒髪がゆれるさまを猫のしっぽとでも言いたいのだろうか、
どう見てもブランクには
犬のふさふさの尻尾にしか見えてこないのだが。
なんなら、ミヤビの印象と真逆のワードが
飛び出て思わず不意打ちをくらってしまった。
なんだそのクッソダサいネーミング…!!!
「…待て待て待て!今なんつった…!?
なんだその通り名…ククッ…どこ見たらそうなる…噂するにしたって例えがひでえ…ッ
ふはッ…!た、高嶺の…お前が!?高嶺の!?
…っくろ、くろねこッ…くっそ…!」
思わず肩を震わせて笑いをこらえるブランク。
…いや全然こらえきれていない。
ひーひー言いながら笑っている。
昨晩のキッチンでの会話といい、
ブランクの笑いのツボがまだよく分からないが
耐え切れずに吹き出すほど言葉のギャップが刺さったらしい。
知らないうちに噂されてた嫌味な通り名だろうからここまで笑ってくれるならいっその事ネタになってよかったなとまで思うけれども、
さすがに笑われすぎて、なんとなく言わなきゃよかったなと後悔に頬をひきつらせつつ、平静を装いながらミヤビは会話を返す。
『ブランク、笑いすぎ!』
「はー…これを笑わずにいられるか!?
それが妄想じゃねえならそりゃあ人違いか、噂したヤツに腕のいい医者紹介してやれ、もう手遅れかもしれねえけどよ…ククッ
しかしまあ、ミヤビを指す言葉じゃねえくらい少し話したことありゃ分かりそうだけどな!
俺からすりゃ高嶺の黒猫よか、
おてんばワンコって感じだよお前は。
…に、したって例えたやつのセンスがよ…フッ!」
『そろそろこの話やめよか〜〜〜!!!』
ブランクが腕を組み、
やれやれと言わんばかりに鼻で笑う。
言ってて段々恥ずかしくなったミヤビの羞恥心が限界を迎えポカポカと軽く肩を叩くが
全く動じないし効かないし、なんならブランクはまだ笑いのツボから抜け出せ無さそうだ。
『あーもう埒があかん!先に行く!!
スケジュールもボスから聞くもんね!』
「はいはい散歩な。今行くぜ」
『だから誰がわんこやねん!
あたしはポチでもハチ公でもないんやで』
「ぽち?はち?」
『あぅ…説明しないと伝わらない選手権やめてぇ、ツッコミがボケ殺しにされる…』
「なあ、ぽち?はちこうってなんだ、なあ」
『面白そうな時だけめっちゃ食い気味やん!
こんの…っ!ブランク絶対からかえるな〜って
解っとって聞いとるやろ!』
「まさか!異文化交流っつったのはミヤビだろ?」
『ワーッ!めっちゃ良い笑顔!!!』
当直明けとは思えぬ見たこともない爽やかな胡散臭い笑顔に思わずツッコミが追いつかない。片付け終えた事をいい事にやいのやいの言いながら貨物室を2人は後にした。