03 タンタラス流稽古強化週間
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支度を済ませて自室を出ると
操縦の交代時間を終えたのか
欠伸をしながらブランクが螺旋階段を降りてきた。
『おはよう、ブランク!』
声を掛けると気がついていなかったのか
肩を跳ねさせるブランク
「よ、ようミヤビ、随分早いな。
まだ朝の5時だぜ?」
『なんか目が覚めちゃって。
ブランクこそ、あの後ずっと運転してたん?』
「まあな。っくぁー…っねみぃ」
昨日までの鋭い気配は見る影もなく、
欠伸をしながら背伸びをする自然体のブランクに思わずこちらまでつられて欠伸が出てしまいそうになる。
今日からバトルの稽古をブランクにつけてもらう予定だが、昨晩のルビィ姉さんの手紙通りだとすると、バトル稽古+演技稽古が増えているはずだ。
今日以降、どう動いていけばいいものかブランクに相談したかったのだが眠そうな様子が気になる。
ブランクはあの後一晩中起きていたのだとすると稽古どころではない気がするが…。
『…お疲れ様やね、今から寝るん?』
「ああ、そうさせてもらうぜ。
ところで、お前はこれから何をするんだ?」
『うーん……当番制のお仕事は他に何かないか、ボスへ聞きにいこうかなと思ってた。
それか、バトルっていう位だから武器?を使うんやんね?
艇内にあるなら探して運んだり、選んだりしてなんか出来る事探そうかと…。』
「…ふうん、なるほど
気合いは十分ってとこか。
ならこっちだ、付いて来い。」
船室や操縦室と逆方向へ踵を返すブランク。
つかつかと進んでいく背を追いかけながら問いかけた。
『え?え? 寝にいかんの?』
「…あのな、
お前はまだ艇内のどこに何があって、
どんな当番仕事があるか把握する段階なんだからよ。
テストだとか関係なく、団員を頼っていい場面だ。変な遠慮すんな。」
『…うっ、ありがと兄キ…』
「お前の兄キになった覚えはねえ。
それに武器選びは今回のテストじゃ特に重要だ。
昨日の感じじゃ武器に触ったことすらないのに、それをひとりで選ぶ・探すって…?
下手に触って怪我すんのがオチだ。
…ひとりで行かせられるかよ。」
前を見たまま自分の歩幅で歩き続けるブランクの横顔を見上げるミヤビ
ぶっきらぼうな態度とは裏腹に、言葉の本質は真面目で面倒見が良さそうな彼の人柄が伝わる。
自分よりも早い歩幅に懸命についていきながら思わず声を弾ませて礼を返した。
『ブランク、優しい〜!』
「それに、
教える側の地力が試されるようなもんだしな。
1週間でどこまで出来るようになるかで、俺の株も急上昇なワケだ。
もしかしたら特別報酬くらい出るかもな?
ククッ、手ェ抜かねぇから頑張れよミヤビ?」
『…ブランク、優しくない』
ニヤリと笑うブランク、先ほどとの落差に思わずブーブーと口を尖らせる。
素人を勝たせる為の稽古なのだから、それなりに厳しい物だろうと思っているが、
怪しげなニュアンスを含んだ笑みに是非ともお手柔らかにお願いしたくなった。
そのままブランクを先頭にプリマビスタ艇内を進む。
階段を降りてゆくと薄暗い貨物室に出た。
狭い、だが、艇内の限られた空間の中では広い方だろう。稽古にはうってつけの場所だ。
ブランクに促されランタンの蝋燭に火を灯すと部屋全体が明るくなった。
場所を覚えているからか、薄暗いうちからガサゴソとあちこちから荷を持ち出して
明るくなった部屋の中央のテーブルへと現れたブランク。
荷を広げ、剣と短刀を数本取り出してテーブルに並べた。
種類や特性が異なるのか、銀色の刀身のものだけでなく、鮮やかな色のもの、刀身が細長いもの、装飾の施されたものまで武器といえど個性豊かな品揃えであった。
『これ全部武器?
細かい装飾とかあって綺麗!』
「芝居用のも混ざってるが、ここにあるのは
ちゃんと武器として使えるヤツばかりだ。
よく切れるから勝手に触るなよ。
まず、ミヤビが使う武器を選ぶぜ。
武器にも色々種類があって、
基本そいつのバトルスタイルや体格、経験値を基準に武器を選ぶことが多い。」
例えば、とテーブルから短刀を持ち、
まるで目の前に敵がいるかの様に武器を構えるブランク
「ダガーは短刀だ。
重すぎないから手軽に扱いやすく、持ち運びやすい上に体格による制限をほぼ受けない。
バトルでは近接戦闘を主としたアタッカー、
こうやって相手の懐に入り込みっ…攻撃!」
ザシュッ!とダガーが空を切る音が響く。
説明しながら実際のバトルのように動くブランクは息切れ一つせず、
ミヤビの方へ向かい合いダガーを渡した。
一瞬、唾を飲み込む。
そうか、もう稽古は始まっているんだ。と今自覚したミヤビ。
ブランクが片手で渡したダガーを思わず両手で受け取り、手の平全体で重さを体感する。
『…重さは感じるけど、腕の負担にはならない。片手でも持てるに。』
「良い気づきだ。持てなきゃそもそも武器として意味がねえ、重さは選ぶ基準にもなる。
そういう意味じゃ、短刀は軽いから
比較的扱いやすくて最初の武器としては良いかと思うが…こいつは経験が要る。
今回は時間が無いからな。短期決戦でバトルに勝つ為、敢えて剣を使う。」
渡したダガーを回収するとテーブルからアイアンソードを選び、再び手渡す。
ブランクはというと、そのまま他の剣が乗ったままのテーブルを壁際まで器用に押して片してしまった。
片付けた意図を読み解く間もなく、
受け取った剣の重みで
ぐんっ…!と腕が引かれ自然と意識がいくミヤビ
先ほどよりも重く、無意識に腕全体に力が入る。
扱えない重さではないが、慣れない重さに肘が震える。
その様子にミヤビの肘をそっとブランクが手を添えて揺れる剣を安定させた。
『あ、ありがとう。もうだいじょぶ。
…短期決戦でって事は、
剣の攻撃力は短刀より高いん?』
「一概に言えないが、まあそういう傾向はある。
短刀は相手の間合いに入って攻撃の手数稼げれば強い。
間合いを詰める分、相手の武器によっちゃ反撃されにくい面もある。
ただしその分、俊敏な動きと、相手の行動を先読みして不意をつくことが重要だが…
こればっかりは言ってるように経験がモノ言う、
それを1週間で磨くのは時間が足りない。だから…」
『…敢えて剣。高い攻撃力と短刀よりも長いリーチが自分の間合いになる、から?』
「ああ、長物になるほど間合いは広い。
相手が近づきにくいってことは、その一瞬、次どう動くか考える事も可能になる。
勿論考えてすぎてもその遅れが命取りになるし、
長物故に密集地だと思うように振るえない事もあり得る。
剣は長すぎず、短すぎず。
比較的狭い場所でも高い攻撃力を発揮できて、
相手を適度に近づけさせない間合いを保てる。
恐らくこの部屋でバトルをするだろうから、
ここで剣の扱いに慣れておけば…?」
『! 、本番も同じように力を発揮できる!』
正解、と言わんばかりに
ブランクは口角と上げ、その表情に同じ考えだったことを喜ぶミヤビ。
ブランクも察しの良いミヤビの様子に満足げであった。
「あとは、慣れだ!
剣の扱いに慣れることと、
扱えるだけの体力をこの短期間でどれだけ身につけられるかで勝敗は決まる。」
話しながらブランクも自前の剣を構えて距離を取る。
それはバトルの実戦開始を告げており、
ミヤビに心の準備をさせるサインでもあった。
意図に気づいたミヤビもアイアンソードを握る腕に再度力を込める。
「それと、俺の戦い方は我流だ。
万人受けするような騎士様の剣術じゃねえし、教えたとこで真似できねえよ。
だから…見て盗め、ミヤビだけの戦い方を探せ。
盗賊タンタラスに入団する以上、盗みもうまくならなきゃな?」
『ええ!?
……あっ!いや…そういうこと?!分かった!
お願いブランク!』
「クックック、理解が早くて助かる
とはいえ後で音を上げるな、よ!」
キィン!
ブランクの攻撃を受け止めるミヤビ
手加減をしてくれている事が剣越しに分かる程、
とても軽い一撃であったがミヤビの腕は受けるだけでビリビリと震える。
痺れが指先から肩まで伝わり、剣を離してしまいそうになるが、意地だけでなんとか堪える。
(手加減無しだったらそのまま剣ごと弾かれてた…!
これが、バトル…。命がけの戦い…!)
これまで経験したことの無い感覚だった。
命を奪い、奪われる事への恐怖・ためらい・戸惑い。
そのまま感情の濁流に飲まれてしまいそうになる体と心を、力強く口を結ぶことでなんとか抑え込む。
もしもこの一撃がブランクからではなく、
襲ってきたモンスターだったらあっけなく命を奪われていただろう。
そう思うと、タンタラスのアジトの前で倒れていたのは幸運だった。
もしもあの時、ブランクとジタンが助けてくれなかったら。もしもリンドブルムの街中ではなく、適当な平原だったならどうなっていたのだろうと考えるとぞっとする。
1度薄く息を吐いて吸う。
(し、集中…!
まずは、ブランクをよく見る!)
“見て盗め”だなんて初心者には到底無理だ。
だが、あれだけ教える側の地力が問われる事を気にしていたブランクが
「教えたって真似できない」「見て盗め」とそんな雑な教え方をするとは考えにくい。
あえて「見て盗め」と伝えることでバトルだけに集中させて、
ミヤビがブランクを真似て繰り出す攻撃方法が彼女に合っているかどうか、
ブランクの目と、ミヤビ自身の感覚で確認させながら指導していくつもりなのだろう。
それに、相手をよく観察させる事で、次どう動くかをよく予測して学ばせて、
次の攻撃を更に予想させる、戦いながら考える癖づけも兼ねている。
そしてそれらを繰り返す事で
体力作り・剣の扱い・自身の戦闘スタイルの確立をさせ経験値を積んでいく。
言葉の誘導も含めて、時間が限られる中、効率を求め無駄を削ぐブランクらしい指導法であった。
素人には向かない玄人向けの誘導だが、導入にした会話のキャッチボールからコイツなら意図を読み取れそうだというブランクの予想と、
その予想通り意図を大まかに察したミヤビとが幸い噛み合って、彼女もまた目の前の課題ひとつひとつに取り組みはじめていた。
(ブランクはたぶん右効き…
剣を肩に乗せるみたいに構えて…
右から左下…そのまま片手で右へ振りぬく…!
さっき、そうだったはず!)
キィン!
思い出した動きと同じ攻撃を繰り出すブランク
恐らくこれが基本の動きなのだろう。そして攻撃後は間合いを取るように
バックステップで2、3歩後方へ下がり、再び構えている。
(まずは、構えから真似る!)
「おっ」
『っわあ!!』
剣を肩に乗せるように片手で持ち上げようとするが、
その重さを持ち続けられない事に気づき、構えを元に戻す。
ふらついていたら、危うく首と身体がサヨナラしかけるところだった。わ、笑えん…!
現状、刀身をやや右斜めに傾けて、両手でにぎり、身体の前で構える方がミヤビには丁度良いようだ。
『腕がしんどくて続かんなぁ…よく持ち上げつづけてステップ踏んでられんね…』
「まあそうなるよな。
とりあえず、今の構えから攻撃してみろ!」
『いきなり!?』
「構えたままじゃバトルは終わらねえぞ!」
『っ~~~、はい!』
ブランクに言われた通り、構えを維持したまま、じりじりと足を摺り寄せて間合いを徐々につめていくミヤビ。
(攻撃…攻撃は…確か、
右から左下へ腕を引いて…
そのまま、右へ振りぬく…!)
ブランクの動きを思い出しながら、
走り出し、剣を振るう。まだ剣を振るうというよりも、野球バットでも振り回しているような実感の薄い一撃。振りぬく事は叶わず、一撃を刀身で受け止めたブランク。
『っ!!!!』
ギキィン!
聞いたことのない刃の擦れ合う金切音はかろうじで押さえ込んでいたミヤビの恐怖心を呼び起こした。
もしも、今の一撃が、ブランクに決まっていたら?
稽古だからって自分は初心者だ
思いがけない動きで怪我を負わせてしまうかもしれない。その偶然はもしかしたら命に関わるかもしれない。
……死んでしまうかもしれない。
また、目の前で失くすかもしれない…。
ひた、と背筋が冷え、思い出すあの日のこと。
「…ぁ」
「初擊にしちゃ上出来だが、
思い切りが足りないな。
もう1度やってみろ!」
受け止められた後は即座にバックステップ。
後ろへ飛び退くことへの不慣れさもあったため、
まずは相手との距離を取ることに意識を向けた。
そして二度、三度、四度と幾度も剣を振るい、ブランクへ攻撃を仕掛けていった。