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アルリツ短編



「Hey Boy!」
小さなストアに響くよく通る声。
なんか聞き覚えがあるような気がするけど、それよりジョンのお使いが先。遅くなるとうるさいんだ。
「なァアルフレッド! お前だよ!」
「え?」
顔を上げた先には青と黄色の派手な服ーーまあ俺も人のこと言える義理じゃないんだけどーーにモヒカン頭、サングラス。激しく上下している彼の肩でヒヨコが翼をパタパタさせている。

ダック・キングだ!

「やあダック! どうしたの?」
「いつも一緒の子居るだろ、グレーの髪の」
リツカのことだ。唐突になんだろう。そういえばまだちゃんと紹介してなかったな。
「その子がさっき向こうの階段から落ちててサ……」
ーーそのあとダックがなんて言ってたか分からなかった。
手に持っていた商品をダックに渡し、教えてくれた所まで走った。
「どうか無事で居てくれ、リツカ……!」


全力で走ったけれど、階段やその周りの公園にはリツカは居なかった。
結構な高さがある上に傾斜がキツいこの階段、よくリツカと手を繋いで登ったな……って今はそんなこと考えてる場合じゃない。
「早く探さないと……!」
ダックは、リツカが階段から落ちたと言っていた。
何段目からだろうか。
リツカのことだ、きっとかなり高い場所から落ちたに違いない。
とりあえず彼女の家を目指そう。
道中座り込んでいるかもしれない。
足を引きずりながらも一生懸命歩いてるかもしれない。
「もしかして、歩けないのを良いことに誰かに抱えられて、そのまま……」
ネガティブな方に思考が傾いていく。
でも、ここで足を止めていたってどうにもならない。
強めに頭を振って両頬を一回叩き、もう一度走り出した。


走り出して数分。
買い物袋を下げ、ひょこひょこと歩いている、見慣れた後ろ姿が視界に飛び込んできた。
ふわふわしたピンクがかったグレーの、腰まである髪。お気に入りなんだと話してくれた、ダークブルーのロングスカート。
「リツカ!」
自分でも驚くぐらい大きな声が出た。
振り返ったその人もそうだったんだろう、サファイアブルーの瞳がまん丸だったから。
「アルフレッド! どうしたの、そんなに慌てて」
「ダックから聞いたんだ、リツカが階段から落ちたって。大丈夫かい? 腫れたり、挫いたりしてない?」
スカートを捲って確認したかったけれど、人通りもそこそこあったのでやめた。
「落ちた、って三段目くらいからだし、ちょっと足捻って尻もちついただけだよ。そんなに痛くないから」
ほら、と無事をアピールするためにスクワットを始めたリツカなんかお構いなしに抱き上げた。
「あっアルフレッド! 自分で歩けるってば!」
「だめ。歩き方変だったし」
「それは……買い物してて歩き疲れちゃっただけ」
「なら尚更このまま帰ろう。送っていくよ」
「うぅ、恥ずかしいよ……」
ジロジロと見つめてくる人、ヒュゥッと口笛を吹く人、良いなあと黄色い声を出す人。様々な人とすれ違う度にリツカの顔は赤く染まっていく。
「未来ある冒険家に……こ、恋人がいる、って思われたら、困るでしょ?」
「別にいいよ、リツカなら」
「ばか、……ちゃんと考えなよ」そう言いながら俺の胸に顔を埋めたリツカが嬉しそうな表情を浮かべていたことを、しっかりとまぶたに焼き付けた。
(リツカがいいんだ。って、胸張って言えるようにならなきゃ)
リツカを抱えている腕に力を込めた。


リツカの家に向かう途中、律儀に買い物を済ませジョンに荷物を渡してくれたダックと再会し、めちゃくちゃ冷やかされた話はまた、そのうち。



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