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アルリツ短編




「新しいバイト決まったんだ!」
電話から聞こえてくるリツカの喜ぶ声に、俺まで嬉しくなってくる。
「おめでとう! 何処でバイトするの?」
「サウスタウンベイにあるカフェだよ、良かったらアルフレッドも来てね。メイド服を着るんだよ」
と言われバイト初日に店を訪れたけれど、『メイド服を着る』ーーそう言われたときにした、嫌な予感は的中した。


「いらっしゃいませ! アルフレッド、来てくれたんだ!」
「ああ、リツ……」目を疑った。
出てきたリツカは白い肌に綺麗な鎖骨、ほんのり縦に線が入ったくびれているお腹が太陽に照らされて良く見える。
つまりーー肩とお腹が丸出しだ。メイド服っぽいのはスカートくらい、胸を包むチューブトップのデザインは最早下着だ。
え、これが制服? 屈んだら胸元が良く見えちゃうだろ。いや屈まなくても何もかも見えすぎだ。
これで接客するのか? ……駄目だろ!
「ねえ、いつ辞めるの?」キャパシティオーバーで零れた言葉足らずな気持ちは、リツカを簡単に不愉快な気持ちにさせたようだ。
「似合ってないってこと? ……ばか! 帰って!」
「そうじゃなくて……ああ、もう!」


初日は追い出されたけれど、リツカがバイトの日は必ず通った。三ヶ月間ずっと。
リツカのこと、やらしい目で見るヤツはガン飛ばして目を逸らさせた。ボディタッチでもしようものなら割り込んでいって庇った。
それなのにリツカは喜ぶどころかバイト終わりに俺を呼び出して、眉を釣りあげて怒るんだ。
「あのね、私の貧相な体なんてだーれも見てないよ! 他の女の子たちの方がみんなナイスバディなんだから」
「えっ、そうだったっけ?」
俺、客しか見てなかったから気づかなかった。
何とかして他の女の子を思い出そうと首を傾げていると、リツカは顔を曇らせ眉毛をへの字にし、カーディガンの裾をギュッと掴んだ。
「……アルフレッドだって、私のこと見てないじゃん……」
「それは俺がリツカを見てるヤツを睨みつけて黙らせてるからなんだよ!」
「なんでそんなこと」
「誰にも見られたくないから」
瞬間リツカの瞳は丸くなって頬がほんのり緩んだような、気がした。
「……バイト、 辞めてくる」リツカはさっき出てきた裏口へ走っていき、数分後ちょっとスッキリした顔で出てきた。
「実はちょっと前から店長に『バイト辞めるか彼氏をどうにかするかしてくれ』って泣かれちゃって」
「う……ごめん。でも俺、」
彼氏じゃないけどリツカの素肌を誰にも見られたくない、どうしても嫌なんだ。
そう言おうとした俺の唇にリツカの唇が重なる。
リツカの青い瞳に、突然のことにびっくりした俺の顔が写っている。
「ああいう格好は彼氏の前だけにするね」
柔らかい笑みを浮かべ、リツカは髪をなびかせながら浜辺を歩き出した。


俺の頬が熱いのは、海に沈んでいく太陽のせいだ。

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