アルリツ短編
知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる。
青々と生い茂った木々とレンガ造りの建物の隙間から、遠い山の向こうに陽が落ちていくのが見える。
ああそうだ、昔行った遊園地の帰り道に似ているんだ。
父と母と手を繋ぎ、疲れたもう歩きたくないと駄々を捏ねながら見た景色と。
「どうかした? リツカ」
突然歩を止めたリツカに、心配そうに尋ねるアルフレッド。
「似たような景色、子供の頃見たなって思って」
「……もしかして日本に帰りたくなった?」
「うーん。……ううん」
例え遊園地や帰り道が全く変わっておらず景色があの日と同じだとしても、楽しかったからまた行こう、と笑いかけてくれる父も、もうちょっとで家だから頑張って、と励ましてくれる母も、もう居ない。
それでもあの場所へ行って、亡き父と母の面影を偲び気持ちの区切りを付けたい。
日本を発った時は、そんな気持ちも未練も微塵もなかったはずなのに。
(もう帰ることはないって思ってたけど、私まだ……)
胸がギュッと苦しくなって、鼻の奥がツンと痛くなる。
「ごめん、嘘ついた。ちょっとだけ、日本に帰りたいかも」
僅かに潤んだ瞳を拭い、これ以上心配かけまいと笑顔でアルフレッドの方へ目線を向けた。苦しそうな顔をしている。
「あ、でも帰りたいなって思っただけで、本当に帰っーー!」
突然、頬に手を添えられアルフレッドの唇がリツカの唇に重なる。
陽は暮れたが人通りはそこそこあり、ヒュウッと冷やかしの口笛がどこからか飛んできた。
リツカは恥ずかしさからアルフレッドの胸を押したがビクともせず、唇を重ねたまましばしの時が経った。
唇はゆっくりと離れたが依然頬に手は添えられたまま。そしてアルフレッドの顔は吐息がかかるくらい近い。
アルフレッドしか見えない。
「俺、リツカにアメリカへ来て良かった、って笑ってほしい。それと……もう日本に帰りたいなんて思わないくらい、俺でいっぱいにする」
「え、あっ……!」
「俺のことだけ考えて。……おれだけを見て、リツカ」
返事を言葉にする前にアルフレッドに強く手を握られ、リツカは引っ張られるように歩いた。
けれど向かう先はどうやらリツカの自宅ではなくーー。
その後どうしたかなんて野暮なことは語るまでもないだろう。