アルリツ短編
トントンと一定のリズムで包丁が音を立てる。それに紛れて小さく鼻をすする音も聞こえる。
キッチンに行き、彼女の横に立つ。何かあったのか、と問い掛けても首を左右に振るだけ。
「これせいだよ、気にしないで」
力無く笑って細かく刻まれた玉ねぎをもう一度ザクっと切った。
リツカはいつもそうだ。何かあると野菜を刻み始める。手を動かしていないと落ち着かないのか、それともその刃を自分に押し当てないようにするためなのかーー。
「……そっか」
深く聞かずにキッチン下の収納からこの家で一番大きな鍋を出す。
先に切ってあったじゃがいもと人参、玉ねぎを放り込んで火をつける。
「あとは何切るの?」
「うーん……キャベツとズッキーニ」
良かった、今日はセロリを入れないんだ……とほっとしている自分を見てリツカはクスッと笑みを零した。
「なんだよ」
「へへ、可愛いなって思って。ねえ、今日もとびきり美味しい味付けお願いね、アルフレッド」
「もちろん! ……悩みなんて、食べたら吹き飛ぶよ。きっと」
話したくないことは話さなくていい。
言葉は無くても心に寄り添う方法は沢山あるから。
(それでもいつか、色んなことを話してくれる日が来るといいな)
心地よい包丁の音を聞きながら、鍋に水を入れた。