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アルリツ短編


半月ぶりの休日は、アルフレッド自身も予想していなかったものだった。舞い込んできたその勢いのまま、約束を取り付けることなく恋人であるリツカの家へ向かい始めたのは五分前のこと。足取りは軽く、空も一段と澄んでいる。
 ――ッド!
 刹那。自分を呼ぶリツカの声が微かに聞こえた。慌てて辺りを見回すが誰もいない。
「はは、いくらリツカに逢えるのが嬉しいからって……」
 自分の浮かれ具合に失笑し、また歩き出す。
二歩、三歩進んだときだった。
 ――ルフレッド! アルフレッドってば!
 今度はハッキリと名前を呼ばれた。幻聴じゃない。
「……何処に居るんだ?」
 先程よりは念入りに、もう一度辺りを見るがやはりリツカの姿は無い。
「こっち! 上見て!」
「上? ……わ、リツカ!?」
 澄んだ青空に浮かんだ雲――のように白い、花嫁がそこに居た。空を泳いでいるようにも、飛んでいるようにも、堕ちてきているようにも見える。
『どうして飛んでいるんだ』とか『なんでウエディングドレスを着ているの』とか、そう言った疑問を漏らさせることなく、リツカはアルフレッドの腕の中へ飛び込んできた。
「あの、アルフレッドが冒険してるのに私だけダラダラ生きてたらダメだよねーって思って、家の片づけをしたの!」
 こちらの小言を聞く前に、リツカは喋りだした。
「……で、そのドレスが出てきた、と」 
「うん、メモと一緒にね。『このドレスは運命の人のところへ連れて行きます』って書いてあったんだけど……まさか力技だったとは思ってなかったなあ」
 でもこのドレス、デザインが可愛いから許しちゃう――などと言いながら裾を持ち上げるリツカの額に、コツンと拳を乗せた。
「へへ、ごめんね」
「ったく……俺じゃない人のところへ飛んでいっちゃってたら、どうしたんだよ」
 運命だと受け入れるのだろうか――そんな一抹の不安を感じながら、リツカの目をじっと見た。
「このドレスも大したことないね、って笑うか……アルフレッドと結婚するときに着てあげないぞ、って怒るかも」
 青い瞳を細めながらアルフレッドの口癖を真似るリツカの左手を取り――その細くて白い、誰のものであるという証もない薬指に歯を立てた。
「約束、してくれるかい?」
「……うん、もちろん。誓います」
 歯型の指輪を空に透かしながら、リツカは微笑んだ。

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