アルリツ短編
きっかけは大したことのない、良くある喧嘩だった。
けれどその日はアルフレッドもリツカも言葉を選ぶことができないくらい疲れていて、思ったことをすぐに吐き出しぶつけてはまた吐き出し――を繰り返していた。
『俺のこと何も知らないくせに』
涙を堪えながら去っていく背中に投げつけた最後の言葉は、なんて理不尽でわがままだったんだろうと後悔した。
「いつも冒険のことばかりで、リツカに何も話していないのは俺じゃないか」……なんて、夜が明けた今気付いたってどうしようもないことは分かっている。
それでも居ても立っても居られなくて、小さな花束をひとつ抱えてリツカの家を訪ねた。
「これ、くれるの?」
玄関から飛び出て来たのは、リツカに良く似た幼い子供だった。もしかして、体を震わせたが、きっと親戚の子か何かだろう。
「え、っと。君は?」
しゃがんで目線を合わせると、その子はアルフレッドの頭をくしゃくしゃと撫でた。突然のことに驚いた隙に持っていた花束を取られた。
そしてイタズラそうに笑う顔はリツカそのものだった。
「もしかして……リツカ、なのか?」
「そうだよ! ねえ見てリツカおひめさまみたいー?」
纏まっていた花たちは一輪ずつ取り出され、リツカを名乗る子どものふわふわした髪の毛に乗せられていく。
――これは夢か。引っ張った頬は痛いが、現実では大人が子供になることなんてありえない。ああそうだ、忘れていたがリツカは魔法が使えたっけ。もしかして子供になる魔法でも掛けているのだろうか。でも一体何の為に――
「リツカね、お花そんなすきじゃない。おかしがすき」
寂しそうな声にハッとなって、花まみれのその子を見た。大きな瞳からは涙が零れ落ちそうだった。
「ありゅ、ありゅふえっど……は、なにが好き?」
その問いかけに、リツカが子供になった意味が分かった。子供の姿ならどんなことでも聞き易いだろうし、そしてアルフレッド自身も気負うことなく答えられる。
ああ、そうか。リツカなりの『ごめんね』だ、これは。
「昨日はごめん。言いすぎた。……俺のことたくさん話すから、俺にもリツカのこと教えてくれるかな」
そう言うとリツカは元気よく頷いた。と思ったら一瞬で表情を曇らせ、眉毛を曲げながらアルフレッドを見上げた。
「でもリツカ、あんまりぼうけんのことききたくない」
「……ごめん。気を付けるよ、お姫様」