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アルリツ短編



「私ね、日本に帰るんだ」
 リツカが神妙な面持ちでそう伝えた瞬間、アルフレッドはカチンと石のように固まった。見開いたままの目は渇いてしまいそうだ。
コロコロと足元を転がる、さっきまでアルフレッドが持っていた未開封のコーラはしばらく開けられないだろう。
「……なんてね、今日はエイプリルフールです!」
 明るく大きな声で言うと、アルフレッドは石から軟体動物に変わったかのように力無くその場に座り込んだ。
「驚かすなよ、心臓に悪すぎ」
「ごめんごめん。でもほら……エイプリルフールに吐いた嘘って一年は叶わないって言うからさ!」
 だから少なくともあと一年は日本に帰るつもりは無い、安心して――と言おうとした。
「リツカ」
 低いトーン。いつもよりも大人びた――いや、男らしい彼の声にリツカの声は遮られた。
かと思えばこちらを見つめてくるその瞳はまるで子犬のように潤んでいて。
「来年もおんなじ嘘吐いてよ」
「え、……それって」
「その次の年も、ずっとずっとその嘘吐いて」
 言葉の意味を理解したのは頭よりも体が先だったようで、頬の熱が、いつになく忙しなく走る心臓が。
美しい鐘の音色をひとつ、ふたつと鳴らす。
「ずっとアメリカに……俺のそばに、居て」
 アルフレッドの柔らかな唇が、リツカの左薬指に触れる。
 形は無い。けれどそれは確かにある。
永久を誓う――エンゲージリングが。
「あ、う、嘘じゃない、よね?」
 動揺と確認、そして期待がごちゃ混ぜになり震える声を聞いたアルフレッドは、とても穏やかな笑みを浮かべた。
「ったく。リツカのせいで俺のプロポーズの計画が台無しになったから、ちゃんと責任とってくれるよな?」
「……はい。私、アルフレッドのこと幸せにするね」
「ああもう! それ、俺が言おうと思ってたのに……」

* * *

「おかあさんっていつもおんなじウソつくよね」
「え? ……ふふ、そうなの。お父さんとの約束なんだ」
 左薬指を見る。
彼の駆ける空と同じ青が、きらりと光った。

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