アルリツ短編
俺の住むアメリカじゃホワイトデーなんてものは無い。好き同士のふたりや家族が、感謝の気持ちをバレンタインデーに伝えあう。二月一四日で全部終わるってわけだ。
だからジョン――俺のじっちゃんに「アルフレッドはリツカちゃんに、何か用意したのか?」って聞かれなかったら、フツーに一四日を過ごしてたと思う。
どうしてあれもこれも、日本人は記念日だのお祭りだのにしちゃうんだろね? ホント、楽しそうだよねって思いながらも必死にレシピを探し材料を買い揃え、早起きしてキッチンで腕まくりしてる俺も大概だな、なんて。
「あれ、おっかしいな……」
太陽が世界をオレンジに染め上げる頃になっても、俺がきちんとしたカタチに仕上げられたものはテーブルの上くらいだった。ただブルーのランチョンマットを敷きその上にカトラリーを並べただけの――つまり、誰だってできちゃうことしか終わらせられてない。
パイは焦げた。腕にヤケドもした。
ジョンがいつも作ってくれてるの、見てたはずなのに。
スープの野菜はいつまでも固くて、優しい味に仕上がったコンソメスープと調和してくれない。
まずい。リツカがうちに来るまで、あと二時間も無い。更には足りない食材をジョンに買ってきてと頼んだのに、それもまだ届かない。
お返しどころかこんなんじゃ、何もしてあげられない。
その時、ガサガサと紙袋の擦れる音がした。ジョンだ!
「ジョン! 待ってたよありが……あぁ!?」
後ろに立っていたのはくたびれたじいさんでは無く――
「リツカ、なんで」
「やっほ。さっきお店でジョンさんに会ってさ。『急用ができたから今日は家に帰れない』だって。あとこれ、頼まれてたもの。ありゃ……へへ、随分苦戦してるようで?」
荒れ果てたキッチンを見ても、何故かリツカが嬉しそうなのが悔しくて、俺は唇を尖らせ頬を膨らまし「カッコ悪いところ、見せたくなかった」ぽつりと一言。
そしたらリツカはもっと笑って、俺の頬に唇を落とした。
「じゅーぶんカッコイイよ。アルフレッドが一生懸命になって、私の為に頑張ってくれてるんだもん。ありがとね、アルフレッド。大好き。さ、ごはん、一緒に作ろ!」
ねえ。誰か教えてよ。
バレンタインデーにもホワイトデーにも『愛』を貰ったら、いつ返せばいいんだ?
これじゃいつまで経っても、リツカに敵わないや。