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アルリツ短編



マフラー、ダウンコート、分厚い手袋。
踏みしめる大地は雪に覆われていて、一歩踏み出すごとに鳴る音がぎゅむぎゅむと心地よい。
どこからどう見ても、完璧に冬だ。
それなのにアルフレッドの腕には大きなアイスクリームーーしかもバニラとストロベリー味ーーが抱えられている。すれ違う人誰もが二、三度こちらを見るが、もう慣れてしまった。
「全部、リツカの『おかげ』というか、『せい』というか」
さあ、今日はどんなことが起こるのだろうか。まだ知らない世界を、リツカは今日も見せてくれるのだろうか。想像しただけで心臓は鼓動を早めた。それに負けじとアルフレッドも歩調を早めたのだった。

「……あれ、開かないや」
いつもはすんなりと招き入れてくれるドアが、今日は閉ざされたままだ。
それなら、と庭の方へ回った。いつも綺麗に咲いている花たちも、今日は雪に包まれ寒そうに蕾を閉ざしている。
それはそれで幻想的だな、なんて思った刹那ーー目の中に飛び込んできたのは、山のように大きな雪の塊だった。アルフレッドよりも大きい。
「な、んだこれ? 町中の雪をかき集めたのか?」
ぽんぽんと触りながらその雪の塊のまわりをぐるりと回るとーー
「あっアルフレッド! こっちこっち!」
大きな空洞。中から聞きなれた声。
「リツカ!」
「ほら、早く入って! 寒かったでしょ? はい、甘酒だよ」
雪の中に人が入れることも、今リツカから手渡された甘酒というものも、もう何が何だか訳が分からない。それでもリツカに促されるまま、中に置いてあった椅子に腰掛け一息着いてしまうのだから、自分自身の順応性の高さには笑ってしまった。いや、そうさせるリツカの凄さもあるのかもしれないが。
「こんなにいっぱい雪が降ったから、今日は絶対かまくら作ってアルフレッドをびっくりさせてやろうと思ったの! どう?」
「……これだけ作るのに結構時間かかったんじゃないのか?」
ず、と甘酒を一口。甘くて、体の芯から温まる。けれど、多分これを飲むべきはアルフレッドではなくーー
「目の下、クマできてる」
「えっ嘘!?」
「あと手、震えてるよ」
意地悪な笑みを浮かべながら指摘していくと、みるみるリツカは縮んでいく。別に怒っているわけではないのだが。
「……嬉しいよ。ありがとう、リツカ」
飲みかけだけど、とまだ温かい甘酒を差し出す。伸びて来たリツカの手はぶるぶると震えていてーー思わずコップを自分の元へ引き、もう片方の手でリツカの手を取った。
「一度暖まった方が良さそうだね。家の中、入ろうよ。コタツで暖まってから、また『かまくら』でのんびりしよう」
「……うん!」
「そうそう。俺アイスクリーム買ってきたから食べよ」
「え!? いま暖まろうって言ったよね!?」
「じゃ、あげない」
「……やっぱ食べるっ!」
そう言って二人は走り出した。手はしっかりと繋いだまま。


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