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灼熱カバディ夢


見慣れた七海すばるの部屋の片隅に、見慣れぬ雑誌が一冊。シックな色合いの世界で非常に浮いている、目に痛いピンクに染まったそれは。
「けっこん、情報誌……」
 本田貴一は思わずその単語を何度か繰り返した。
けっこん。血痕? いや違うな――結婚か!
 すとん、と腑に落ちる。華々しく憧れる女性も多い結婚に関する雑誌ならば、こんなにも派手で激しい色遣いなのも頷けるし、そしてすばるもその女性の中のひとりなんだなとしみじみ思った。
「はは、は…………」
 待て。……誰と、するんだ?
彼氏というポジションに居るのは自分だけだ。もちろんすばるは二股を掛けるような人じゃないことも理解している――ならば、尚更この『結婚情報誌』の存在が異様だ。
 互いに高校生。まだ先のことだ。情報を集めるには早い。
「……無いとは思うがまさか、な」
 不安を拭うかのようにそれに手を伸ばす。
 ぱら、とページを捲る。はら、と何かが床に舞い降りる。
 白い紙のようだ。鉛筆で薄く、何かが書かれている。
「待っそれ、な、なんで見てるの!」
 読もうと拾い上げた瞬間、お茶を用意していてくれていたすばるにその紙を奪い取られる。レイダーの才能があるな、などと思った瞬間、頬を真っ赤に染め落ち着かない様子のすばるは饒舌に語り出した。
「ち、違うの。あの、この雑誌、付録に婚姻届があるから彼氏と自分の名前を書こうよって友達に誘われて。それで、書いてみただけで」
「つまり、俺が落としたその紙がその婚姻届ということか」
「うん……へ? だって今、見てたんじゃ――」
「いや、見てないぞ。見る前に取り上げられたからな」
「じゃあ私、ひとりでネタばらしして、騒いでただけ?」
「ははは! そういうことだな!」
 先程まで心をざわつかせていたことはそっと隠し、掘った墓穴に埋まりたそうなすばるの瞳をじっと見つめた。
その橙色の瞳からある言葉を思い出す。
オレンジの片割れ。どこの国の言葉かは忘れたが意味は確か、生涯を共にする相手、だったか。
く、と喉の奥で笑う。
彼女の置いたたった一冊の雑誌で心乱され、勝手に書かれた婚姻届に心踊らされ、……共に生きる未来を描いてくれたことに、こうも幸せを感じるなんて。
――ああ。君は、すばるは。俺のオレンジの片割れだ。
「次はちゃんと、夫となる人の欄は俺が書くからな」
 赤みが落ち着き始めた頬に、再び燃えるような赤を差しながら――すばるは小さく頷いた。

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