灼熱カバディ夢
逃げる側に与えられた一分のハンデなど、すばるの性格を把握している俺からしたらサービスでしかない。
正々堂々鬼ごっこをしても俺には絶対勝てないと分かっているすばるは、追いかけっこよりかくれんぼをする。
だから校舎内に向かう。けれど他学年の教室や研究室などには立ち入らない――そして同じ三年であっても、自分のクラスでなければ入らない。律儀なやつだ。知っている。
そして安心して身を隠せるところに腰を落ち着け、タイムアップを静かに待つ。
そうだろう? すばる。さあ、答え合わせの時間だ。
音を立てずにドアを開けた。室内を見回すが人影はない。ここに身を隠せそうな場所はひとつ。教卓の下。
耳を澄ませば生きている音が聞こえる。確かに居る。
入らんばかりの勢いで、教卓の下を覗き込んだ。
まるで化け物を見るかのような瞳が、俺を見ていた。
「見つけたぞ。ははは、鬼の勝ちだな」。
「まだ。さわ、られてない」
ああ、往生際の悪いやつだ。だが――ただ触るだけじゃつまらないな。包み込むように抱きしめ、もがいても逃げられないようにした。
すばるから小さな吐息が零れた。覚悟を決めたようだ。
「あのね。……夢を見るの。何回も、同じ夢を」
「どんな夢なんだ」
「……貴一くんと、キスする夢」
「なんだ。それなら俺も見たことあるぞ」
もちろん俺の見た夢だともっと先のことまでしているから、厳密に言えばすばるのそれとは違うのだろうが。
ふるふると首を左右に振り、俺の背中に手を回した。
「つきあう、前からなの。もっと言うと……初めて会ったあの日からずっと、わたし……」
必死で言葉を紡ぐ唇に、俺の唇を優しく重ねた。
「待たせてすまなかった。……夢の通りだったか?」
「ううん、夢よりもあたたかい。あと、柔らかくて甘い?
……でも夢とおんなじなのは、もっとして欲しくなるとこ
ろかなあ」
そう呟き、夢うつつな瞳を俺に向けるすばるにもう一度キスをした。夢の中の俺がした数よりも多く、もっと蕩ける口付けを。
……決して、夢の中の俺に嫉妬しているわけではない。
とても嬉しそうな顔をするすばるが可愛いから、それに全力で応えなければ、と思ったまでだ。