灼熱カバディ夢
いつになく真っ直ぐな瞳だった。
頬にほんのり差す赤が、すばるの肌の白さを引き出していて綺麗だ――と見とれていた時だった。
「貴一くん、赤ちゃんできちゃった。どうしよう」
――ははは。そうか赤ちゃん、でき……?
どうしようと言うけれどすばるは冷静で、突然の発言に思考が追い付いていない自分が情けなく思えた。
「お医者さん行ったんだけど、順調に育っているって」
穏やかな笑みを浮かべ腹のあたりをさする仕草に、いつになくどきりとした。そして、堪らなく愛しいとさえ。
自分は何をみっともなく動揺しているのだろうか。
いつか来る日が今日だっただけ。
答えは一つだ。
「……産んでくれ! すばるも子供も大切にする!」
「ふ、ふふふ……」
零れた笑みは『嬉しい』を含んでない。なんだそれは。
「貴一くん、今日は何の日でしょうか?」
思い返せばこのところ忙しくしていて、曜日どころか日付の感覚すら失っていた。証拠に冷蔵庫にぶら下がっているカレンダーはまだ新年を祝っている。当てにならん。
そう言えば、と腕時計を見た。四月一日。
「成程、まんまと騙された」
「冴木くんが『いつもアイツに振り回されてばかりだから、一泡吹かせてやろうぜ』って」
やはりあの嘘吐きの入れ知恵か。癪だ。
「ちなみに赤ちゃんができたのは嘘じゃないよ。大家さんの飼ってるワンちゃんがね」
差し出されたスマートフォンには可愛らしい子犬に埋もれているビーグル犬が写っている。おいおい、もう産まれているじゃないか。いくつ嘘を重ねたんだ。
「エイプリルフール大成功! さてさてこっそり撮ってた貴一くんの様子を冴木くんと平良くんに――」
送ろうとしたすばるの手を、掴んだ。
そのまま後ろに倒し、嘘つきの唇に口付けを落とした。
「――その嘘、真実にするか」
すばるの目が潤んだ。期待してしまうが、堪えて一言。
「ははは、エイプリルフールだ!」
「その割には貴一くん、顔真っ赤……」
「……お互い様だろう、それは」
「だね」
その後は互いの嘘を謝り、もう心臓に悪い嘘は言わない約束をした。
それはそれとして……覚えていろよ、冴木。