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灼熱カバディ夢


本田貴一が本命のチョコレートを貰うことなんて、今までの人生で初めてのことだった。しかも幸運なことに、入学当初から片想いをしていた人――七海すばるから。
昨年までは所属するカバディ部全員に配られた、お返し目当てのなんてことのないチョコレートばかりだったから、ホワイトデー当日である今日まで、何をお返しとして用意しようか首を傾げていた。普段ならばチームメイトである平良や冴木にアドバイスを求めていただろう。だが今回はそうしたくなかった。すばるの「好き」の気持ちには、自分だけの「好き」の気持ちを渡したい。付き合おうと言う提案はおろか自分もすばるが好きだ、と言う気持ちすらまだ伝えていないのに、だ。
 ――話を戻そう。では何を渡すべきだろうか。彼女を満たせる食べ物か? いや、すばるは大概のものを手作りできるからパスだ。ならばアクセサリー……待て、好みが分かれるものは駄目だ。それに年頃の女子ならばそう言ったものをいくつも持っているだろう。
「……そうか!」
 貴一はスマートフォンを取り出し、すばるに電話を掛けた。ワンコールで繋がった彼女に開口一番こう言った。
「すばる、山へ行くぞ!」
 自分の一番好きなものを、一番好きな人に渡そう。
それは他の誰でもない、貴一自身にしかできないことだ。
 
突然のことに戸惑いながらも、すばるは貴一の後を付いてくる。登山、と言うよりはハイキング――貴一からしたら散歩程度のものだが――に近いが、それでも山頂に着く頃にはすっかり陽は落ち、暗闇に沈んでいく世界は街明かりと無数の星に包まれていた。
「ははは、綺麗だな!」貴一がそう言うと、「確かに綺麗だけど、突然電話してきて、いきなり山に登らせるのはちょっと」とすばるは呆れた顔で言った。
「すまない。この景色を見せたかったんだ。俺はこの沢山の光の中ですばるを見つけた。他の誰よりも、何よりも輝いている――俺だけの星だ」
 すばるの頬に優しく触れる。
「バレンタインデーの返事、していいか。俺も好きだ、すばる」
 そう言って口付けると、すばるの大きな瞳から星屑が零れた。きらきらと輝きながら落ちるそれすらも愛おしくて――強く抱き寄せ、時を忘れるくらいに口付けを交わした。
 山登り、返事、キス――突然のことだらけで腰が抜けちゃった、と力無く笑うすばるをおぶって下山したことは、結婚した今でも語り草となっている。

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