ブルーロック夢
幼馴染の熊倉里穂子から送られてきたそれは、高級そうな紙で、綺麗な文字で、ひどく残酷な言葉が綴られていた。
――青ちゃん、わたし結婚することになったの。
先の文字はよく読めなかった。
辛うじて目に入ったのは会場と、日時だけだった。
何度深呼吸をしても時光青志の手はいつまでも震えていて、父親から借りたネクタイは首を傾げたような姿になる。
「これじゃ、……里穂ちゃんに、笑われちゃう」
もう、私がやるよ――きっと彼女ならそう言って、躊躇いなく青志の首に手を伸ばす。伸ばしてくれた。
いつだってそうだったじゃないか。
自分の足で前へ進めないときも、歩いてきた道が間違っていなかったか迷ったときも。どんな青ちゃんも好きだよ、と言ってくれていたのに。
――無くなってしまった彼女との未来を悔やんでも、もうどうしようもないんだ。
もう彼女の手を借りないで、ちゃんとひとりで歩いていけるようにならなきゃ――そう決意し結んだネクタイも、やはり首を傾げたような姿になってしまい、仕方なし赤い蝶ネクタイを手に取った。
タクシーは乗れた。けれど里穂子の好きそうな外観の結婚式場が目に入った途端に、前にも後にも進むことは出来なくなった。
針は進むが足は動かない。もう、式は始まっているのに。
ふ、と、里穂子と過ごした日々の思い出が無数に浮かびしゅわしゅわと弾け――消えていく。
(眩しい笑顔で俺のこと、青ちゃんって呼んでくれた里穂ちゃんも……消えて、しまう? そんなの、嫌だ……!)
いつの間にか駆け出していた足。動き出した体。
躊躇いもせず勢い任せに扉を開けた。たくさんの視線が注がれる。里穂子の瞳も、青志を捉えた。
バージンロードを駆け抜け、里穂子の手を掴み――
「里穂ちゃん! 待って、おれ、君が……好きだ!」
まるでドラマのように、花嫁を奪い去った。
友人のミュージックビデオの撮影だった、と里穂子から聞かされた――手紙に書いてあったよ、と言われたが目から滑り落ちていた――のは、その日の夜のことだった。
「迫真の演技だったって褒められてたよ青ちゃん! 俳優さんにもなれちゃうね!」と自分のことのように喜ぶ里穂子を二の足を踏みつつ抱き寄せ、小さく呟いた。
「嬉しい、けど俺は、その……里穂ちゃんを、サッカー選手のお嫁さんにしたいなあ、って」