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ブルーロック夢



二月一四日。チョコレートを渡すとき、熊倉里穂子は駄々をこねる子どものように、彼氏である時光青志にこう言ったのだ。「お返しは指輪が良い」と。
 目に見える約束が欲しかった。満足に連絡も取れない青い監獄にいる彼と、繋がっているという証が欲しかった。
 付き合い始めた当初は、何があっても想いが通じていれば大丈夫だと思っていた。それなのにいざ離れ離れになると、こうも不安になるとは思わなかった。
U‐20との試合は、そんな不安を更に強くさせた。スタジアムでフィールドに出たチームメンバーの応援をする彼は、青い監獄へ招待されたとき「どうして俺なんかが」「自信、無いよ……」と爪を噛みネガティブを吐きだしてばかりだった頃の面影は無く――堂々たる、いちサッカー選手だった。
 これから先。たくさんの人の目やメディアに触れたら、青志が良いと言う人がたくさん現れるかもしれない。
(もし青ちゃんが私よりももっと素敵な人に出逢ったら? そして私じゃなくその人の手を取ってしまったら……)
 だから指輪をねだった。
もし青志と別れるときが来ても、それまでの日々が幸せだったと胸を張って言うために。

「里穂ちゃんこれっ、バレンタインのお返し……その、気に入ってもらえたら嬉しいんだけど……ごめん」
 三月一四日、青志の震える手から渡された綺麗な箱には、綺里穂子の好物であるチーズケーキが入っていた。
 里穂子の望んだ「証」では、無かった。
「あっ……、青ちゃんが私のために選んでくれたものならなんでも……嬉しいよ」
 そうは言いながらもひどく落ち込んでしまった。慌てて笑顔を作り青志に向けるも、里穂子の態度を見た青志はいつも以上に背を丸め、困ったような顔をしている。しまった、そんな顔をさせたかった訳じゃないのに――と青志に手を伸ばした瞬間。強い力で、腕を引かれた。
「今から指輪、買いに行こう? その、……結婚する時まで付けてほしいから、一緒に選びたくて。サイズが違ってたり、気に入ってもらえなかったりしたららどうしようってずっと悩んでたんだ。ごめん、嫌いにならないでぇ……」
 里穂子でさえ思い描いてなかった未来を口にしながらも、ネガティブを紡ぐその姿がとても――愛おしくて。
「……うん! 青ちゃん、とびきり素敵な指輪を選んでねっ!」
たとえ何があっても、青志のことをずっと離してやるものか、と里穂子は強く思った。

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