ブルーロック夢
青い監獄から青志に二週間のオフが与えられ、新潟へ帰るんだとウキウキ声で連絡をもらったその日のうちに、里穂子は東京行きの新幹線のチケットを取った。
青志を迎えに行き、そのまま都会を満喫してから新潟へ共に帰るつもりだった。
けれど、雨雲レーダーでさえ予測できなかった早すぎる積雪が、東京から新潟に向かう新幹線を停めた。
復旧の見込みは日が傾いた時間になってもつかず、このままふたり適当なところで夜を明かすよりは――と、目に付いたラブホテルへと足を運んだのだった。
正確には、いくら事情があるとはいえ恋人同士でもないのに……しかも俺と、こんなところに行くなんて。里穂ちゃんだって嫌だよね? と、優しさとも拒絶とも取れるネガティブを吐き出す青志を無理やり引きずりこんだ――という方がしっくり来るが。
もちろん、新幹線の復旧を待つためだけの夜にするつもりなんか、ない。
このチャンスを逃すわけにいかない。
今夜決める。幼馴染という殻を破るんだ。
ひとりで使うには広すぎる浴室でシャワーを浴びながら、熊倉里穂子は大きく息を吐き出し、身体中を決意で満たした。
髪の毛を乾かし、こんなこともあろうかと昼間に買った、少し背伸びをしたデザインの下着を身に付け、青志の居る部屋に繋がる扉を開けた。
気を紛らわすためにテレビを点けたらAVでも流れたのだろう、顔を真っ赤にしながら大きなベッドの上で、枕を抱きしめている青志と目が合った。
「おかえっ……ふ、服は!?」
青志のように昼間と同じ服に身を包んでしまえば、怖気づいてしまうと思った。
「ば、バスローブぅ……!」
慌てて洗面所に向かおうとする青志の前に立ち、抱きついた。
彼の筋肉ならば容易に振り解けるだろう。それなのに里穂子にされるがままの青志の、そういうところが好きだ。
そして――自分の意思を蔑ろにする姿勢が、嫌いだ。
「ねえ青ちゃ――青志。セックスしよ」
ならばそれに甘えてしまおう。
甘え貪り尽くして――里穂子なしでは自分は駄目なんだと、生きていけないんだと錯覚させる。
そこから彼の中に里穂子への愛でも芽生えてくれたなら幸運だな、とも。
「だ、駄目だよぉ! だって俺たちは……!」
「幼馴染だから駄目なの? それとも青志は私が嫌い?」
「そ、それは……っんぅ!?」
聞いておきながら、返事を紡ごうとした青志の唇を急いで塞いだ。
驚き、引っ込められた彼の舌を探し出し、自分のそれと絡ませた。
僅かに漏れ出る今まで聞いたことのない青志の艶めいた吐息に、里穂子は下腹部への熱を感じた。
「ならせめて……私の処女、貰って」
唇を離し、思い切り青志をベッドに押し倒した。
動揺しながらも里穂子を引き剥がそうとする大きな手を、胸へ導いた。
「ドキドキしてるの、分かる? ……誰にでもこんなことするわけじゃないの。私、青志が……好き。好きなの」
だから清廉潔白な少女である証を捧げられる。
ひどく醜い雌にだってなれる。
優しくて格好良い彼の、滾り苦しそうに天を見つめる本能にだって、容易く手を伸ばせる。
「それマジでだ、め……」
ぬるつく先端を優しく撫でてから、壊れ物に触れるように、口に咥えた。
想像以上のサイズに喉奥が押され、何度か嗚咽した。
そのたび青志は止めるようにと声を漏らすが、雰囲気に呑まれているのだろう。
里穂子の頭に手を置き、離そうとも自分の良いように動かそうともしない。
いつも自分を出さない青志の本心が垣間見えた気がして――苦しさも忘れ、里穂子は彼の本能を舌でなぞりながら、奥へ手前へ頭を動かした。
いつまでそうしていたか分からない頃。
あるときを境に、ひどく大きくなったような気がした。
同時にとろけてしまいそうな熱も放ち始めた。
「待っ、うぅ……!」
今までにない強さで、青志は里穂子の頭を引いた。
その衝撃で里穂子の、立てないようにと気をつけていた歯が彼のモノに掠り、一番強い刺激となって――
「っあ、あ、あぁ……」
青志の情けない声とともに、白濁が里穂子の顔に勢いよく掛った。
ほのかな熱と淫靡な匂いを放つそれを指で掬い、愛しい人から溢れ出たものを――他の誰でもない、里穂子自身がそうさせたのだと悦に入りながら――そっと口へ運んだ。
その行動が青志の、ひと欠片だけ残っていた理性を飛ばしたとも知らずに。
「っはぁ……えへへ。青志、気持ち良かっ――!?」
愛しい人を快楽へ導いたという余韻に浸ることも。
息を整えることも。
青志は許さなかった。
「も、我慢……できない」
上目遣いで見つめていた彼の顔が今は目の前にある。
鍛え抜かれた筋肉を纏った、里穂子の力じゃ押し退けることも許されない体に覆い被さられ、身動きひとつ取れない。
「あお……」
名前を呼ぼうとした里穂子の唇を、今度は青志が塞いだ。
我慢できないと言いつつもまだ躊躇いがちな舌は、じらすように口内に侵食してくる。
もうどちらのものか判別の付かない唾液の混ざる音が、やけに大きく聞こえる。
ふと目を開け、間近にある青志のまつ毛を見た。
子どもの頃から変わらない、キラキラした瞳を思い出した。
穏やかな表情を浮かべながら『里穂ちゃん』と呼んでくれる、たったひとりの……大切な幼馴染の顔を思い出した。
――ああ私、とんでもないことをしてしまった。勢いに任せて、青ちゃんに酷いことをした。
『処女を貰って?』……違う。
あれは、あんなのは、ただ身勝手に押しつけようとしただけじゃないか――
深く息をするためか、青志の唇が離れた。いつもの呼び方で彼を静止した。
「青ちゃんごめんなさい、わたし……!」
声は届かなかった。
青志のゴツゴツとした指が、秘部へ滑り込んできた。
「ひぅっ……!」
自分のものとは思えない甘ったるい声が出て、恥ずかしくなる。けれどもお構いなしに青志の指は蠢き、奥を拓いていく。
青志をすんなりと受け入れるために、と自分の指で何度か弄ったことはあったが、それとは比べものにならない。
お腹が苦しくて、疼く。
同時に青志が欲しくて、欲しくて。
そして堪らなく――愛おしくて。
「あおちゃ……」
縋るように手を伸ばした。求めるような瞳で見つめた。
大きくて、余裕なげな青志の瞳がこちらを見た。
ひとつ、いつもと同じ困ったような笑みを零した青志は、指を引き抜き、ゆっくりと里穂子の秘部に口を寄せた。
何を、と思った瞬間にべろりと舐め上げられる。
全身を甘い痺れが巡る。きゅ、と下腹部が痛んだ。
こんな快楽があること、そしてそれを青志が与えてくれるなんてことも、思っていなかった。
「やだ、やだぁ……!」
怖い。その快楽をこのまま与えられ続けたらどうなってしまうのだろうか。
やだと言いながらも蜜を溢れさせ、青志の頭を愛しそうに撫でる里穂子を、今、彼はどう思っているのだろうか。
「――――ッ!?」
刹那。腰が跳ね、甘い痺れが里穂子の視界を白に染めた。
何が起こったか分からず、チカチカと星の舞う天井に手を伸ばし、パクパクと口を開閉させることしかできなかった。息をするのも上手くいかない。
覚束ない意識の下でも、秘部になにか――熱くて、硬くて、恐ろしいものがあてがわれたことに気づいた。
「ごめん、俺もう……」
ゆっくりと、けれども里穂子を待つことはしない。
ぎち、と肉壁を掻き分けながら、まだ誰も受け入れたことのないそこに――青志の本能が満ちていく。
焼けるように、痛い。
心臓があるかのようにドクドクと脈打つ。
けれどその痛みに隠れ、じわじわとあの甘い痺れと同じ――いやもっと強い何かが、込み上げてくる。
「あお、ちゃ、なにかくる、壊れちゃ、う……!」
身を捩って逃れようとするも腰を掴まれ、深く打ち付けられる。
ぱん、と渇いた音とその衝撃による喘ぎ声が、甘い痺れへと一気に導いていく。
「っあ、あ、あ……!」
里穂子を抉るように青志が突いたとき、とうとう意識を手放した。
視界がゆっくりとフェードアウトしていく瞬間、
「里穂ちゃん、俺も里穂ちゃんが好き、好きだよ……」
そう言いながら優しくキスをしてくれる青志が見えたような気がした。
身体中のだるさと、青志と繋がっていた箇所の痛みで、里穂子は目を覚ました。
ベッドサイドの時計を見ると、朝の六時を示していた。
「お、おはよ、里穂ちゃん……」
震える声が隣から聞こえる。
隣を見ると枕を抱きしめ、八の字の眉毛をより一層曲げている青志と目が合う。
昨日のことが一瞬で蘇ってくる。
「ねえ青ちゃん! 昨日私のこと好きって言ったの、嘘じゃないよね!?」
「ごめん里穂ちゃん! あ、あんな俺を見ても嫌いにならないでぇ……!」
譲り合うことなく、同時に抑え切れない感情を吐き出しあってしまった。
それがなんだか可笑しくて――ふたり、いつものように笑い合った。
「里穂ちゃん、好きです。俺と……その、つきあっ……うぅ」
ひとしきり笑ったころ、姿勢を正した青志に改めて告白をされた。
「はい、私も青志が好きです。付き合ってください」
抱きつき、青志の唇にキスをしようとしたが大きな手で拒まれる。
なんで、と不満げに唇を尖らせた里穂子を見て、青志はもじもじと身を揺らす。
「その、いつもみたいに呼んで? 名前だと昨日のこと、思い出しちゃうぅ……」
見ると青志の本能はまた里穂子を求め、窮屈そうにしていた。
なんだ、そんなことか。
里穂子は笑って青志の唇に噛みつくようなキスをした。
煽るように一度、二度、三度。
とろけきった青志の瞳を見つめながら、里穂子は言った。
「……もっかいしよ、青志」